コンセルトヘボウの内部空間

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 内部といっても、日本で我々が写真等で目にすることのできるのは大ホールの内部だけでありまして、ホワイエや舞台裏や小ホールについては図面も写真も何もない、というのが実情です。と思ってネットを検索すると、ある個人HPの旅行記のようなものの中に写真が掲載されていました。増築部分も確認できます。なおこのHPも「コンセルトヘボー」で検索したときに上の方でヒットしたものであります。

 さて大ホールに入ります。データ的には幅29メートル、奥行き40メートル、天井高さ15.2メートルということですが、建築空間というものはそのような数値はもちろん図面や写真や模型をもってしても把握しがたいものであり、実際にその内部に身を置いてはじめて実感できるものです。疑似体験としては動画が最も有効とされており、すなわちコンセルトヘボウでの演奏会をライヴ収録した映像作品が格好のテキストとなるわけです。とくれば、あの作品の出番ですね。

○『ベートーヴェン:交響曲第4&7番/カルロス・クライバー指揮』(ユニテル=フィリップス,1983年収録)

このように素晴らしい映像作品が存在するという事実には、いくら感謝してもし足りるものではないでしょう。ビデオやLDで出ていましたが、DVD化もなされました。内容についてはいまさら紹介するまでもないでしょうが、当時の報道によりますと、クライバーは公演に先立ってハイティンクと長い話し合いをしたり、ハーグ博物館に保管されているメンゲルベルク使用のスコア(細部に至るまで書込みがある)を研究したりして、万全の状態で臨んだとのことです(『ディスクリポート』1984年3月号,音楽出版社)。

 これを観ると、冒頭クライバーが客席や団員の間を縫うようにしつつ、なにやら高いところから降りてくるのがわかります。舞台の周りは実に不思議な空間のしつらえになっているのです。まず、シューボックス型といいながら舞台の後ろ側はほとんど半円状の平面形、すり鉢状の立体形を成しています。その底が舞台ですが、底といっても1階客席レベルからするとかなり高い舞台で、両袖に設けられた1階からの階段は10段以上はありそうです。しかし指揮者や独奏者はこの階段からではなく、正面パイプオルガンの両サイドの高い位置、すなわち2階バルコニー席と同レベル(すり鉢の最上部)の位置に設けられた巨大な扉から登場し、斜面に沿った階段を降りてくるわけです。階段の横は客席になっているため、観客のすぐ脇を通ってくる格好になるわけですが、階段を降りきったところは舞台の最後列の位置なので、次に舞台上に並ぶ楽団員の間を通らないと指揮台までたどり着けない。今日的なバリアフリー設計の観点からするととんでもない動線計画でありまして、これでは老齢の指揮者にはけっこうつらいものがあるのではないでしょうか。クライバーも演奏終了後、階段を登っていったものの扉まで行き着かず、途中で舞台に引き返して拍手に応えたりしています。そして階段脇の客席へ出入りする観客も、この同じ扉と階段を使用するらしい。どういう意図でこのような設計としたのか、実に興味深いところです。

 さてこの階段の最上部に設けられたその扉の外側の位置に、同じ大きさの開口部が一つずつあります。上部を深紅のカーテンで覆われたその内側はなにやら真っ暗で、どの写真を見てもどういうスペースかよくわかりませんでした。これについてはオランダで活躍されているフルート奏者高橋眞知子さんのエッセイ『笛吹きのおらんだ語り』(未來社,1999)の一節でとり上げられており、一般客は入れない関係者専用のボックス席のようになっているとのことでした。しかも片方は閉鎖されているとのこと。彼女がここを独占してハイティンク指揮の演奏会を聴いていると老紳士が入ってきて、彼の詮索がましい態度にムッとした彼女が捨てゼリフを残してそこを立ち去ったあと、判明した彼の正体は…というとても面白いエピソードとして紹介されています。

 この舞台周りについては、『別冊太陽 オーケストラ』(平凡社,1998)に大きな写真が掲載されています。絶妙の照明効果によって信じられないほど美しく撮影されている、実に素晴らしい一枚です。なおこの写真の中では、指揮台から客席に臨時の階段が設置されています。

 この独特なステージ周りとともに、もう一つコンセルトヘボウ大ホールの特徴として挙げられるのは、角が優雅な丸みを帯びている2階席バルコニーにずらりと埋め込まれた作曲家名のプレートでしょう。どのような作曲家のものがあるのか、その由来や選定基準は何なのか、残念ながら情報は未入手です。『別冊太陽 オーケストラ』には舞台側から客席を撮影した写真も掲載されているものの、あまりクリアでない上に裏焼きになってしまっており、バルトーク等いくつかを判別できるだけです。

 ここでコンセルトヘボウで収録されたもう一つの映像作品を観てみましょう。

○『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番&ブラームス:ピアノ協奏曲第1番/ルビンシュタイン/ハイティンク指揮』(ユニテル=デッカ,1973年収録)

 これは観客を入れず、ホールをスタジオのように使用して制作されているものですが、各曲の冒頭にその作曲家名のプレートをアップで写す、という演出がなされています。


(An die MusikクラシックCD試聴記)