ベルナルト・ハイティンク 作曲家別録音歴
■ブルックナー篇■

(文:青木さん)

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1.コンセルトヘボウ管 

 

 ハイティンクのブルックナー録音は、マーラーよりはずっとシンプルで、基本的には次の3グループしかありません。

  • コンセルトヘボウ管との交響曲全集(フィリップス)
  • コンセルトヘボウ管との交響曲再録音(フィリップス)
  • ウィーン・フィルとの交響曲全集(中断/フィリップス)

 ではまず、コンセルトヘボウ管との録音をみていきましょう。上記のほかに、国内盤未発売のライヴ録音が一曲あります。

 

1-1 交響曲全集 

CDジャケット

 ハイティンクとコンセルトヘボウ管のブルックナー交響曲全集は、1963年から1972年のあしかけ10年間で録音されています。これはブル全の録音期間として長いの短いのかよくわかりませんが、平均すると一年に一曲ということで、じっくり取り組まれたといえるのではないでしょうか。マーラーのほうは3年遅れの1966年に始まって、同じく1972年に完成。その翌年にはブラームス交響曲全集の完結篇である第2番が録音されていますが、ブラ全の中でその第2番が格別優れた出来ばえになっているのは、ブル全とマラ全を成し遂げたことによる開放感が曲想にうまくマッチした結果ではないか…そんな想像をしてしまいたくなるほど、この二大全集は当時も今も大事業といえます。ブルックナーとマーラーの両交響曲全集が同一演奏者で揃ったのは、このハイティンクとコンセルトヘボウ管が初めてだったはずです。

 しかしこの二つの世評には少々差があるようです。いずれも1994年にCDの全集としてまとめられていますが、そのときまでにマーラーのほうは7番を除く全曲が単独でCD化されていたのに対して、ブルックナーでCD単売されたのは4番と7番だけで、2003年1月に第6番と第7番が、同5月に第1番と第9番がいずれも"DUO"シリーズでようやく単売されたという有様(国内盤は未発売)。楽曲そのものの市場での人気にも差があるのかもしれないとはいえ、ずいぶん扱いが違うといわざるを得ないでしょう。LP時代でも、手元にある1981年の「フィリップス・クラシック総目録」(1980.10.発行)を見ますと、現役盤はやはり4番だけで、全集(PC5575-86)も含めて他は廃盤もしくは生産中止扱いとなっています。

CDジャケット

 なおハイティンクは、1970年にアメリカ・ブルックナー協会の名誉メダルを贈られたとのことですが、国際マーラー協会の金メダルと違ってアメリカのブルックナー協会というのではどうもあまり権威がありそうに思えません。ヨッフムの場合は、国際ブルックナー協会よりブルックナー・メダルが授与されているようです。

 なお「テ・デウム」はCDの全集には収録されておらず、再録音のほうの第8番と組み合わされた「ダッチ・マスターズ」シリーズで発売されています(輸入盤)。LPでは、1979年に「宗教音楽1300シリーズ」でも出ていました。

 

1-2 交響曲再録音 

CDジャケット

 ハイティンクは全集完成の6年後、同じコンセルトヘボウ管を起用して、早くも再録音を始めます。当初はどのような予定だったのか不明ですが、結果的には後期の3曲が録音されただけに留まりました。7番がアナログ録音(左ジャケット写真)で8番と9番がデジタル。どうも中途半端な気もしますが、この3曲とマーラーの再録音の2曲(1982年、1983年)を並べてみると、時期的に連続していることに気づきます。そしてこれに続くのが、ウィーン・フィルとのブルックナーとベルリン・フィルとのマーラーの新シリーズということになります。

 第7番のLPにフィルアップされたワーグナー「ジークフリート牧歌」は、当時発売済だったワーグナーの管弦楽曲集と同時に録音(1974年12月)されたものの未発表となっていたものです。CD化の際には、一枚に収まる第7番に代わって、第8番のほうに組み合わされました。また第9番はフィリップスのCD第一弾シリーズ(輸入盤扱い)にラインナップされたもので、その時の定価は4500円でしたが、数年後に出た国内盤では3200円となり、1996年に「ベスト100」シリーズで再発売されたときには1500円となったうえ上記ワーグナー管弦楽曲集から「パルジファル」第1幕前奏曲が余白に追加収録されるという具合で、クラシックCDの急激なデフレ現象の典型例を呈しております。

 

1-3 その他 

 

 フィリップス以外の録音では、放送音源が一曲だけ公式発売されています。マーラーの例と同じく、蘭NM Classicsから1999年にリリースされたハイティンクとコンセルトヘボウ管の放送音源集 "LIVE The Radio Recordings"に収録されている交響曲第7番で、録音は1972年10月。フィリップスにおける全集録音と再録音シリーズのちょうど中間にあたります。

 またハイティンクとコンセルトヘボウ管の来日公演で演奏されたブルックナーですが、1962年4月の第1回公演と1968年9月の第2回公演ではブラームスと同様、同行したヨッフムの担当でした(交響曲第4番と第5番)。ハイティンクは1974年4〜5月の第3回公演で交響曲第5番を演奏しただけのようです。

【演奏者】

アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
エリー・アメリング(S)/アンナ・レイノルズ(A)/ホルスト・ホフマン(T)/グース・ヘクマン(B)/オランダ放送合唱団(合唱指揮:アントン・クレラーゲ) 〔テ・デウム〕

【レコーディング・リスト】(録音順、特記以外はすべてPhilips)

  • 交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」(1887年版) 1963.10.
  • 交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(1878/1880年版) 1965.5.10-12.
  • 交響曲第9番ニ短調(原典版) 1965.12.
  • 交響曲第0番ニ短調(原典版) 1966.6.
  • テ・デウム 1966.9.
  • 交響曲第7番ホ長調(原典版) 1966.11.
  • 交響曲第2番ハ短調(原典版) 1969.5.
  • 交響曲第8番ハ短調(原典版) 1969.9.
  • 交響曲第6番イ長調(原典版) 1970.12.
  • 交響曲第5番変ロ長調(原典版) 1971.12.
  • 交響曲第1番ハ短調(リンツ版) 1972.5.
  • 交響曲第7番ホ長調 1972.10.14.(Live) VARA
  • 交響曲第7番ホ長調(ノヴァーク版) 1978.10.9-10.
  • 交響曲第8番ハ短調(ハース版) 1981.5.25-26.
  • 交響曲第9番ニ短調(原典版) 1981.11.11-12.

【国内盤初出】(< >内は発売年月、すべてLP/日本フォノグラム)

  • 交響曲第3番 
  • 交響曲第4番 SFX7547 
  • 交響曲第0番 SFX7660 <1968.6.>
  • 交響曲第7番(1966)+テ・デウム SFX7662-3 
  • 交響曲第9番(1965) SFX7664 
  • 交響曲第2番 SFX7793 
  • 交響曲第8番(1969) SFX7844-5 
  • 交響曲第5番 SFX7979-80 <1973.10.>
  • 交響曲第6番 SFX8629 <1973.11.>
  • 交響曲第1番 SFX8635 <1973.12.>
  • 交響曲第7番(1978)(+ワーグナー「ジークフリート牧歌」) 25PC23-4 <1979.12.>
  • 交響曲第8番(1981) 28PC28-9 <1982.3.>
  • 交響曲第9番(1981) 28PC61 <1982.11.>

〔輸入盤〕

交響曲第7番(1972Live):国内盤未発売;"LIVE The Radio Recordings" (CD:NRU - NM Classics 97014) <1999>

 

2.ウィーン・フィル

CDジャケット
第4番
CDジャケット
第8番

 後期三大交響曲をコンセルトヘボウ管と再録音して3年あまりが過ぎると、ハイティンクは第4番(左ジャケット写真)を皮切りに、ウィーン・フィルとの新録音をスタートします。当初は全集化が予定されていると報じられ、第4番国内盤の日本語解説にもそのように明記されていますが、次の第5番と第3番の録音はその3年後となり、さらに6年が経過してようやく第8番が録音されました。そしてこのシリーズはここでストップしてしまったのです。

 最後の第8番(左ジャケット写真)はレコード・アカデミー賞を受賞しましたし、第7番が演奏された1997年10月の来日公演も絶賛される(たとえば『音楽の友』誌の年間コンサート投票で第6位)など、国内でも好評を博していた彼らのプルックナー・チクルスだっただけに、そしてウィーン・フィルにとっても同一指揮者による初の全集となる予定だったため、その中断はマーラーの場合に劣らず惜しまれています。また、せめて最後の第8番のかわりに第6番が録音されていれば、ウィーン・フィルで第3〜6番、コンセルトヘボウ管の再録音で第7〜9番ときれいに揃ったわけですが、まあそれは結果論にすぎないでしょう。

 録音された4曲は、二枚組廉価盤"DUO"シリーズで最近再発売されました(国内盤は未発売)。初出時は二枚組だった第5番も含め、全4曲が2CD×2組に収録されていますが、「テ・デウム」はこぼれ落ちております。同じくウィーン・フィルとのブラームス「運命の歌」も、LP時代に「ドイツ・レクイエム」の第4面にフィルアップされていたものが、CDでは「ドイツ・レクイエム」が1CDにちょうど収まったことによって、行き場をなくしてしまいました。こういうケースは他にもいろいろあり、なかなか難しいところです。

 近年の実演においては、ハイティンクはウィーン・フィルだけでなくベルリン・フィルなどともブルックナーをとりあげています。たとえば次のようなものが、非正規盤としてソフト化されているようです。

  • ウィーン・フィル:第7番(1997.10.)/第3番(1992.8.23.)
  • ベルリン・フィル:第4番(1996.3.31.)/第9番(1989.12.12.)
  • バイエルン放送響:第6番(1985.1.18.) /第9番(2001.11.30.)
  • シュターツカペレ・ドレスデン:第8番(2002.12.3.)

【演奏者】

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
バイエルン放送合唱団(ヨゼフ・シュミットフーバー指揮)/カリータ・マッティラ(S)/ズザーネ・メンツァー(A)/ヴィンスン・コール(T)/ロバート・ホル(B) 〔テ・デウム〕

【レコーディング・リスト】(録音順、すべてPhilips)

  • 交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(1878/1880年版) 1985.2.20-21.
  • 交響曲第5番変ロ長調 1988.3,5.
  • テ・デウム 1988.3,5.
  • 交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」(1887年版) 1988.12.5-7.
  • 交響曲第8番ハ短調(ハース版) 1995.1.10-13.

【国内盤初出】(< >内は発売年月、特記以外はすべてCD/日本フォノグラム)

  • 交響曲第4番 32CD411 & 25PC5281(LP) <1986.7.>
  • 交響曲第5番+テ・デウム PCD7008-9 <1989.9.>
  • 交響曲第3番 PHCP121 <1990.12.>
  • 交響曲第8番 ポリグラム PHCP3493-4 <1997.1.>

 

(2003年5月7日、An die MusikクラシックCD試聴記)