ベルナルト・ハイティンク 作曲家別録音歴
■番外:DECCA録音篇■

(文:青木さん)

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1.ショスタコーヴィチ 

CDジャケット

 マーラーとブルックナーの交響曲全集を史上初めて二つとも完成させたハイティンクは、ブラームスやベートーヴェンの交響曲全集を録音した後、西欧の演奏者によるものとしては初めてとなるショスタコーヴィチ交響曲全集に着手します。1977年に開始されて1984年に完了したこのシリーズは、当初はアナログ録音のLPだったものが最後にはデジタル録音のCDとなり、国内盤の発売元はキングレコードからロンドンレコードに替わり、またロンドン・フィルでスタートしたもののハイティンクの音楽監督退任に伴って途中でコンセルトヘボウ管にバトンタッチされるなど、いろいろな意味で過渡期に制作されたものです。

 しかしそういったことは完成後だからこそ言えることであり、アルバムのリリースが始まった当初は、フィリップスではなく英デッカ=ロンドン・レーベルということがなによりの驚きでした。シリーズの最初に録音された交響曲第10番は、ハイティンクにとって初めてフィリップス以外で行った録音だったのです。もっとも国内盤LPの発売順では、これより後に録音されたベルリオーズの「幻想交響曲」が先に出ていたのですが、それはデッカと縁の深いウィーン・フィルとの録音だったため、フィリップスでもお馴染みだったロンドン・フィルとのコンビでデッカに登場したことは、やはり意外に思われたのです。

 1977年の第10番に続いて、1978年に第15番、1979年に第4番と第7番、1980年1月に第1番と第9番がロンドン・フィルと録音された後、同年12月の第14番でコンセルトヘボウ管が登場。しかし翌1981年1月の第2番と第3番では再びロンドン・フィルが起用されますが、後は同年5月の第5番、1982年の第8番と第12番、1983年の第6番と第11番、1984年の第13番までずっとコンセルトヘボウ管との録音となりました。このオーケストラの変更は、ハイティンクがロンドン・フィルの首席指揮者を1979年に退いたことが原因と思われますが、コンセルトヘボウ管がEMIやテルデックなどフィリップス以外のレーベルに録音を始めた時期にも一致していますので、契約上の関係があったのかもしれません。

 交響曲と同時に二曲の管弦楽曲と二曲の歌曲、そして番外編的にチェロ協奏曲も録音されています。プロデューサーは1970年代がリチャード・ベズウィックで、1980年以降は、後にシャイーやブロムシュテットも担当することになるアンドルー・コーナルにバトンタッチされています。

 これらのディスクは、初出がLPだったものも含めて最終的にすべてCD単売されました。交響曲第6番と同時に録音されていた二曲の歌曲(「マリーナ・ツヴェタエワの詩による6つの歌曲」と「ユダヤの民族詩より」)は当初は発売されず、LPで出ていた交響曲がCD化された際にフィルアップされたものが初出です。この二曲の歌曲と二曲の管弦楽曲(「黄金時代」と「ロシアとキルギスの民謡の主題による序曲」)は交響曲全集にも収録されていますが、よく見かける輸入廉価盤の交響曲全集には両管弦楽曲が入っておらず、注意が必要です。また国内盤も含めて全集にはもともと含まれないチェロ協奏曲は、数年前に"DOUBLE DECCA"シリーズで、アシュケナージ指揮のピアノ協奏曲等と組み合わされた「ショスタコーヴィチ協奏曲集」で再発売されました。

 なおこれはデッカ録音ではありませんが、全集の第一弾としてロンドン・フィルと録音された第10番には、コンセルトヘボウ管とのライヴ録音もあります。蘭NM Classicsによるハイティンクとコンセルトヘボウ管の放送音源集"LIVE The Radio Recordings"に収録されているもので、デッカでの全集完成の翌年、1985年12月の録音です。フィリップスなど他社へはショスタコーヴィチを録音していないようです。

【演奏者】

  • ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 〔交響曲第1〜4・7・9・10・15番、黄金時代〕
  • ロンドン・フィルハーモニー合唱団(合唱指揮:ジョン・オールディス) 〔交響曲第2、3番〕
  • アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 〔交響曲第5・6・8・11〜14番、民謡の主題による序曲、6つの歌曲、ユダヤの民族詩、チェロ協奏曲〕
  • アムステルダム・コンセルトヘボウ男声合唱団/マリウス・リンツラー(Bs) 〔交響曲第13番〕
  • ユリア・ヴァラディ(S)/ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br) 〔交響曲第14番〕
  • オルトルン・ヴェンケル(A) 〔6つの歌曲、ユダヤの民族詩〕
  • エリーザベート・ゼーダーシュトレーム(S)/リシャルド・コルチコフスキー(T) 〔ユダヤの民族詩〕
  • リン・ハレル(vc)/ユリア・ヴァン・リール=ストゥドベイカー(hrn) 〔チェロ協奏曲〕

【レコーディング・リスト】(録音順、すべてDecca)

  • 交響曲第10番ホ短調Op.93 1977.1. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P:リチャード・ベズウィック/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第15番Op.141 1978.3. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P:リチャード・ベズウィック/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第4番Op.43 1979.1. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P:リチャード・ベズウィック/E:ジョン・ダンカーリー〕
  • 交響曲第7番ハ長調Op.60「レニングラード」 1979.11.12-14. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P: リチャード・ベズウィック/E:コリン・ムーアフット,ピーター・クック〕
  • バレエ「黄金時代」組曲Op.22a 1979.11.12-14. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P: リチャード・ベズウィック/E:コリン・ムーアフット,ピーター・クック〕
  • 交響曲第1番Op.10 1980.1. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット,サイモン・イードン,ピーター・クック〕
  • ・交響曲第9番Op.70 1980.1. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット,サイモン・イードン,ピーター・クック〕
  • 交響曲第14番ト短調Op.135「死者の歌」 1980.12. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:ジェイムズ・ロック,コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第2番Op.14「十月革命に捧げる」 1981.1. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第3番Op.20「メーデー」 1981.1. キングズウェイ・ホール,ロンドン 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第5番ニ短調Op.47 1981.5. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第12番Op.112「1917年」 1982.2. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • ロシアとキルギスの民謡の主題による序曲Op.115 1982.2. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第8番Op.65 1982.12. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第11番ト短調Op.103「1905年」 1983.5. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第6番ロ短調Op.54 1983.12. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • マリーナ・ツヴェタエワの詩による6つの歌曲Op.143a 1983.12. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • 歌曲集「ユダヤの民族詩より」Op.79 1983.12. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • チェロ協奏曲第1番変ホ長調Op.107 1984.4. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • 交響曲第13番変ロ長調Op.113「バビ・ヤール」 1984.10. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:ジョン・ペロウ〕

【国内盤初出】(< >内は発売年月、特記以外はすべてLP)

  • 交響曲第7番+黄金時代 キング K25C96-7 <1981.5.>
  • 交響曲第15番 キング K25C109 <1981.6.>
  • 交響曲第1番+交響曲第9番 ロンドン L28C1002 <1981.10.>
  • 交響曲第14番 ロンドン L28C1107 <1982.3.>
  • 交響曲第10番 ロンドン L28C1138 <1982.5.>
  • 交響曲第2番+交響曲第3番 ロンドン L28C1289 <1982.10.>
  • 交響曲第5番 ロンドン L28C1408 <1983.2.>
  • 交響曲第4番 ロンドン L28C1529 <1983.8.>
  • 交響曲第12番+民謡の主題による序曲 ロンドン L28C1538 <1983.9.>
  • 交響曲第8番 ロンドン L28C1576 <1983.11.>
  • 交響曲第6番+第11番 ロンドン L50C1901-2 & F66L50103-4(CD) <1985.6.>
  • 交響曲第13番 ロンドン F35L50335(CD) <1986.5.>
  • 6つの歌曲(+交響曲第14番) ロンドン F35L50414(CD) <1986.12.>
  • ユダヤの民族詩(+交響曲第15番) ロンドン F35L50446(CD) <1987.6.>
  • チェロ協奏曲第1番(+ブロッホ:シェロモ) ロンドン F35L50429(CD) <1987.1.>
 

2.ラフマニノフ 

CDジャケット

 デッカにおけるコンセルトヘボウ管の録音は、ハイティンクのショスタコーヴィチと並行して、1980年から1984年にかけてアシュケナージがラフマニノフの交響曲、管弦楽曲、歌曲をまとめて録音しました。それに続いて、1984年から1986年にかけて録音されたのがラフマニノフのピアノ協奏曲全集です。アシュケナージはピアノに回り、ハイティンクが指揮。ただし、協奏曲と同時に録音された「パガニーニの主題による狂詩曲」ではフィルハーモニア管が起用されており、このオーケストラとハイティンクとのコンビは珍しいものです(EMIでウォルトンの交響曲がありました)。輸入盤では、この曲を除いてコンセルトヘボウ管との協奏曲だけをCD二枚に収めた全集も出ています。

 ところで、デッカがコンセルトヘボウ管でステレオ録音したレパートリーを見ますと、前記ショスタコーヴィチにラフマニノフのほか、アシュケナージ指揮のプロコフィエフ、ショルティ指揮のストラヴィンスキーにショスタコーヴィチ、さらにフィストラーリ指揮のチャイコフスキーなど、ショルティのマーラーを別にすればロシア物ばかりです。これらはフィリップスがあまり熱心でなかったレパートリーであり、両者がうまく補完し合っていたと言ってよいでしょう。

【演奏者】

  • ウラディーミル・アシュケナージ(p)
  • アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 〔ピアノ協奏曲〕
  • フィルハーモニア管弦楽団 〔狂詩曲〕

【レコーディング・リスト】(録音順、すべてDecca)

  • ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18 1984.9. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • ピアノ協奏曲第4番ト短調Op.40 1984.12. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • ピアノ協奏曲第3番ニ短調Op.30 1985.8. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • パガニーニの主題による狂詩曲Op.43 1986.11. ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
  • ピアノ協奏曲第1番嬰ヘ短調Op.1 1986.12. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕

【国内盤初出】(< >内は発売年月)

  • ピアノ協奏曲第2番+ピアノ協奏曲第4番 ロンドン F35L50309(CD) & L28C1974(LP) <1986.3.>
  • ピアノ協奏曲第3番 ロンドン F35L20063(CD) & L28C2457(LP) <1986.11.>
  • ピアノ協奏曲第1番+パガニーニの主題による狂詩曲Op.43 ロンドン F35L20125(CD) <1987.10.>
 

3.その他 

 

3-1 ベルリオーズ 

 

 ハイティンク、デッカ=ロンドンに初登場。これが、ウィーン・フィルとの「幻想交響曲」に関するいちばんの話題でした。録音上ではウィーン・フィルとの共演そのものも初めてです。しかしなぜフィリップスではなくデッカだったのでしょうか。

 デッカにとってこの曲の録音は、1972年のショルティ盤以来となります。それまで「イタリアのハロルド」「ロメオとジュリエット」等をデッカに録音していたマゼールは、1977年にこの「幻想交響曲」をなぜかCBSに録音してしまいました。メータの録音もなく、そろそろ新録音が欲しくなったデッカはフィリップスと交渉してハイティンクを借り受けることに…といった経緯でもあったのでしょうか。しかし結局メータはハイティンクの録音の半年後、ニューヨーク・フィルとこの曲をデッカに録音し、このコンビもこれがデッカ初登場(たぶん唯一)となったのです。なにやらいろいろ事情がありそうですが、まあどうでもいいことかもしれません。

 1997年7月に再発売された国内盤CDの解説には、「1979年春にハイティンクが初めてウィーン・フィルに客演した際にレコーディングされたもの」とあります。しかし1997年10月の来日の際に行われたレコ芸のインタビューでは、ウィーン・フィルを指揮して

「もう25年にもなります。それを記念する指輪もいただきました」

とハイティンク自身が語っていますので、ウィーン・フィルを初めて指揮したのは1972年ということになるようです。

 ここでの演奏は、第1楽章で提示部のリピートを実施し、第2楽章ではコルネット入りの版を使用しています。このコルネットはかなりオンマイクで録音されている一方、第4楽章の鐘の音はかなり遠方で鳴っている感じで、ちょっとユニークです。

 なおデッカ以外へのベルリオーズ録音としては、本録音の年のクリスマス・マチネーでこの「幻想交響曲」をコンセルトヘボウ管と演奏した際に収録された映像をソースとするLDがパイオニアLDCから出ていました。またコンセルトヘボウ管と「ローマの謝肉祭」序曲をフィリップスに録音しています。

・幻想交響曲Op.14
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1979.4.17,20. ソフェインザール,ウィーン 〔P:ジェイムズ・マリンスン/E:ジェイムズ・ロック〕
国内盤初出:キング K25C7(LP) <1980.8.>

 

3-2 ブラームス 

 

・ピアノ協奏曲第1番ニ短調Op.15 
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団/ウラディーミル・アシュケナージ(p)
録音:1981.5. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:ジェイムズ・ロック〕
国内盤初出:ロンドン L28C1390(LP) <1982.11.>

・ピアノ協奏曲第2番変ホ長調Op.83 
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ウラディーミル・アシュケナージ(p)
録音:1982.10. ソフェインザール,ウィーン 〔P:アンドルー・コーナル/E:ジェイムズ・ロック〕
国内盤初出:ロンドン L28C1717(LP) <1984.4.>

 

3-3 プロッホ 

 

 これはショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番にフィルアップされたものです。協奏曲は前述のように、アシュケナージ指揮のピアノ協奏曲等と組み合わされた「ショスタコーヴィチ協奏曲集」で再発売されましたが、当然この曲は漏れ落ちており、今のところこの初出盤でしか入手できないようです。

・ヘブライ狂詩曲「シェロモ」
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団/リン・ハレル(vc)
録音:1984.4. コンセルトヘボウ,アムステルダム 〔P:アンドルー・コーナル/E:コリン・ムーアフット〕
国内盤初出:ロンドン F35L50429(CD) <1987.1.>

 

(2003年5月14日、An die MusikクラシックCD試聴記)