ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団来日公演2008
2008年11月16日(日) 14:00 愛知県芸術劇場コンサートホール
文:青木さん
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
指揮:マリス・ヤンソンス■ 演目
ブラームス:交響曲第3番
ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」
アンコール〜ブラームス:ハンガリー舞曲第1番
■ 前半
名古屋公演は、印象に波があった京都とうってかわって平準的な出来栄えと感じました。ブラームスの3番は、「イタリア」ほどではないもののさほど好きではない曲で、演奏のほうもそこそこ楽しめたというレベルです。ブラームス・チクルスを披露するというラトル指揮ベルリン・フィルの来日公演と比較してみればおもしろいんでしょうけど、すでに金欠気味なのでそうもいかず。そういえば10年ほど前、英プロムスでアバード指揮ベルリン・フィルによるこの曲を聴いたことがありますが、ほとんど記憶に残っておりません。今日の演奏の印象もすぐに忘れてしまいそう・・・。
特筆すべき点があるとすれば、第3楽章の短いホルン・ソロのみごとさでしょうか。後半の「展覧会の絵」ではちょっとミスがあったりもしたトランペットやチューバでしたが、ヘボウのホルン・セクションの安定感はいつもながら抜群。
■ 後半
さてその「展覧会」、実演で聴くのは初めて。こんな大名曲なのにその機会がなかったのは不思議な気もしますが、しかし演奏会で採りあげるにはなかなか手ごわい曲のようですね。独奏の技巧や各種打楽器類が要求されるだけでなく、全体をかなりの水準で演奏しないと説得力を持たせられないというか、はっきりいえば白けてしまいそうな曲ではないでしょうか。個人的にも最近はCDを聴くこともめったにないんですけど、昔は大の愛聴曲でした。そのころの気持ちを思い出させてくれた、充実しきった演奏でありました。
ヤンソンスはじっくり丁寧に濃い表情づけをしていきますが、力で迫るのではなく弱音の箇所や音が消えていく部分に細心の注意が払われていたようです。「古城」末尾のサキソフォンは信じられないほどの美しさ。かと思うと「サミュエル・ゴールデンベルク〜」のグラマラスな弦楽合奏はまさに「ベルベット」の響きで、全編を通じての木管類の豊かな音彩ともども、録音では聴くことのできない美音にうっとりします。
そしてラストの「キエフの大門」に至って、その合奏美とすさまじい大迫力とが合体し、これ以上は考えられないほどの大クライマックスを形成。ツアー・ファイナルのせいかパワー全開の完全燃焼だったのでしょうか。大音響なのに耳障りなやかましさはなく、あくまで美しい「コンセルトヘボウ・サウンド」なのです。これにはほんとうに体が震えました。この体験は決して忘れないでしょう。
今日もアンコールは一曲だけ。昨日もそうでしたが、風邪の症状もあきらかなヤンソンスがコンマス氏らになにやら指示を出していたので、あと1、2曲用意していたのを取りやめた模様。本編で堪能できたんで、いいんですけどね。
■ 蛇足
ところで、最初にプログラムが発表されたときは前半と後半の組み合わせが違っていました。それだと「ブラ3」+「イタリア&ラ・ヴァルス」の日がハズレで、「ドヴォ8」+「展覧会」の日が大当たりとなってしまいかねないところ。もちろんこれはワタシの勝手な考えですが、しかし実際に変更されたわけなので、やはりバランスが考慮されたのだと思います。
ともかく、昨日も今日も客席はほぼ満席でした。決して100%ではないもののこれだけ満足度の高い演奏をコンスタントに提供してくれるヤンソンス&コンセルトヘボウのコンビ、今後も来日を重ねてくれることでしょう。あとは、アンコールで「ハンガリー」が付く曲ばかりやっていないで、本編でバルトークあたりを採りあげてくれれば最高かと存じます。
(2008年11月23日、An die MusikクラシックCD試聴記)