コンセルトヘボウ管来日公演
2004年11月6日

(文:Fosterさん)

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2004年日本公演プログラム

11月6日(土) サントリーホール

  • ベートーヴェン:交響曲第2番
  • ブラームス:交響曲第2番

マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

 

■ ベートーヴェン交響曲第2番

 

今回の演奏会は2階席の後列で鑑賞いたしました。

出だしの音からふくよかで暖かみのあるサウンドに圧倒されました。弦の音色、柔らかな響きの金管、存在感のあるティンパニ。しかし、何よりも見事だったのは木管の音色でした。この日のメンバーはフルートのバイノンをはじめとする若いメンバーではなく古参メンバーが主だったようでしたが(私が確認した限り)、やはりコンセルトヘボウの木管楽器群は素晴らしいものだと深く感動しました。ヴァイオリンの強烈なアクセント、ティンパニの強打、金管のアタックなど、アーノンクールの時ほどではないにしてもなかなかに刺激的な演奏でした。オケもアーノンクールなど古楽器指揮者との共演を多くこなしてきたためか、そうした演奏にまったく不自然さを感じさせない柔軟性をみせつけてくれました。特に弦楽器群のアタックは、コンセルトヘボウ管の弦楽器群の特質である柔らかさに包まれたお陰で、強烈でありながらも過度に刺激的にならない素晴らしい響きを作り出していました。これぞオランダの名門といえるのかもしれません。

そしてヤンソンスのアプローチですが、ピリオド奏法を取り入れたきびきびとした曲運びに圧倒されました。もはやベートーヴェンはこのように演奏されるのが常なのですね。早めのテンポでぐいぐいとオケを引っ張っていくヤンソンスでしたが、曲の解釈そのものにはヤンソンスの個性というものは感じませんでした。しかし、3楽章から4楽章へと楽章が進むに従って、ヤンソンスもオーケストラの団員も非常に生き生きと演奏しているのが感じられました。そのため、たとえ指揮者の個性が希薄だったとはいえ、不満感どころか満足感で一杯にしてくれる私にとっては素晴らしい演奏だったといえます。

 

■ ブラームス 交響曲第2番

 

休憩を挟んでのブラームスではピリオドアプローチとは逆の重厚な演奏を聴かせてくれました。ヤンソンスのテンポは若干速めのきびきびとしたものでしたが、音に十分に厚みがあるのでまったく不満を覚えませんでした。ここでの木管楽器群は、ベートーヴェンの時とは若干異なり、弦楽器の奏でるハーモニーにうまく溶け込んでおり、その美しさといったらなかなか録音では感じる事の出来ない類のものでした。この音色を聴くと今回の来日公演でヤンソンスとコンセルトヘボウ管がこの曲を持ってきたことに十分納得してしまいます。

ピアノとピアニッシモとを明確に弾き分けさせることで繊細な美しさを出していた2楽章、ここも強弱の幅を大きく取って颯爽とした3楽章を経て、4楽章ではヤンソンスならではの精彩な音楽を聴かせてもらいました。

爆演ではないにもかかわらず、こんなに生き生きとした終楽章というのは稀ではないでしょうか。ベートーヴェンの時とは異なり、クレッシェンドの扱い、ホルンの鳴らし方などにヤンソンスならではの個性がしっかりと刻印されていました。私にとってはこれまでに聴いたブラームスの中で最も素晴らしい演奏会だったといえます。

終始弛緩することなく、必死にヤンソンスの棒についていくオーケストラを見ているとこのコンビはさらなる高みに昇るに違いないと感じさせるそんな演奏会でした。

 

■ アンコール

 

アンコールは予想通りのブラームスのハンガリー舞曲第5番と若干予想外のワーグナーのローエングリン3幕への前奏曲でした。

どちらも生気溢れる演奏で非常によかったです。特にワーグナーでの金管楽器群の咆哮は往年のヘボウサウンドを感じさせる素晴らしいものでした。

 

■ 最後に

 

今回の演奏会を通してコンセルトヘボウ管がなぜヤンソンスを指揮者として任命したのかがはっきりとわかった気がします。個性の強い指揮者による演奏会の方が、演奏会そのもののインパクトは大きくなるかもしれません。しかし、それはその指揮者に対するインパクトであって、そのオーケストラを聴いたインパクトではありません。今回の演奏会では、ヤンソンスを聴いたというよりは、コンセルトヘボウ管を聴いたという満足感で一杯になりました。そういったことからも自分の個性を押し付けることでオーケストラの個性を殺すタイプの指揮者ではなく、オーケストラの個性を生かしてくれる指揮者を選んだのかもしれません。オーケストラもインターナショナル化してしまい個性がなくなっているなどと言われていますが、このように自分たちのトップを選ぶことで自分たちのオーケストラの伝統、カラーを守るということも可能なのかもしれないと考えさせられました。また、それだけではなく、ヤンソンスの棒の下で演奏している団員の姿を見ていると非常に楽しそうでしたし、懸命さが伝わってきました。オケの団員はヤンソンスのことを非常に高く買っているのかもしれませんね。ヤンソンスの日本での評判は実力の割にはイマイチだと私は思いますが、コンセルトヘボウ管という名器を得た今こそ日本での評価も変わってくるのかもしれません。

 

(2004年11月17日、An die MusikクラシックCD試聴記)