コンセルトヘボウ管来日公演
2004年11月12日

(文:Fosterさん)

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2004年日本公演プログラム

11月12日(土) NHKホール

  • ストラヴィンスキー:バレエ音楽 「ペトルーシュカ」(1947年版)
  • チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 「「悲愴」」

マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

 

■ ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ

 

この日の演奏会はNHKホールの2階席左後方(いわゆる2階のL席)でした。

この曲は出だしから活躍するフルートの出来如何に左右されるといっても過言ではありません。この日の奏者はバイノンだったのですが、冒頭から柔らかくも弾力のある音でこの後の音楽への期待が嫌が上にも高まっていきました。ティンパニをはじめとする打楽器群の強烈な叩きっぷりや弦楽器のアクセントの付け方にはヤンソンスのパワフルさの一端を垣間見る事ができ、弦楽器の繊細な歌いまわしや木管楽器の語りかけるような歌い口にはヤンソンスの歌謡性を感じる事ができました。先週の演奏会とは打って変わってヤンソンスの個性というものが前面に出た形だったのではないでしょうか。

特に素晴らしいと感じたのは主旋律(そもそも主旋律があるかは不明ですが…)以外の伴奏楽器の聴かせ方でした。CDでは埋もれてしまいがちな旋律をいくつも耳にする事ができ、ヤンソンスが単に勢い任せで演奏しているのではないということが如実に実感されました。

私は元来ストラヴィンスキーという作曲家の曲はそんなに好きではないのですが、この日の演奏ばかりは感動しました。ヤンソンスの個性、コンセルトヘボウ管の個性がうまくブレンドされ、忘れえぬ演奏のひとつになりました。

ただ、残念なのはホールのせいか、座席のせいかはわかりませんが、各楽器の音色には先週ほどの魅力を感じる事ができなかったことです。どうもうまくブレンドされていない感じでした。それが不満といえば不満でしたが、この素晴らしい演奏を聴けたことからすれば些細な事なのかもしれません。

 

■ チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

 

今回の来日公演ではこの曲の演奏にもっとも期待していました。出だしのファゴットによる音は思ったよりも大きな音で始まりました。やはりホールの響きがよくないからかもしれません。そのため、ヤンソンスの個性でもある弱音の扱いがあまり感じられなかったのが非常に残念ではありました。それに続くビオラによる旋律もやや速めのテンポで、フレーズも少し途切れ気味に奏でられ、タイトルから想起させられるようなセンチメンタルな面は微塵にも感じさせない演奏でした。この点が私にとって少々物足りない面ではあったのですが、第1主題の強調や1楽章での展開部以降の弦楽器の掛け合いの聴かせ方や大胆な緩急の変化などにヤンソンスならではの個性を強烈に感じる事ができたのは非常によかったです。また、展開部での第1主題をジュリーニのようにレガートで奏でるのには驚かされました。

しかし、全体を通した感想としては1楽章ではトランペットが終始押さえ気味に吹かれていたので、凄みという点では今ひとつという感じがしました。洗練された1楽章だったと思います。

2楽章は、テンポとしては中庸な程度だったのではないでしょうか。しかし、チェロの素晴らしい歌い口や先の新世界のCDで聴かせたような突然の強弱変化でかなり面白く聴かせてもらいました。5拍子のワルツの特性をうまく引き出した演奏だったのではないでしょうか。

3楽章はこの演奏の白眉だったと思います。最初は押さえ気味に演奏されていたので、最後に大爆発させるだろうなと予想していたのですが、その予想は見事に的中しました。この楽章では1楽章で押さえ気味だったトランペットもそれなりにがんばって吹いていたのですが、トロンボーンやホルンに比較するとやはり聴き劣りしてしまいました。特にフレーズの後処理の仕方が少々雑に感じられ、本当にコンセルトヘボウ管の奏者か?と疑ったりもしてしまいましたが、もしかしたら体調が良くなかったのかもしれません。とはいってもやはり地力のあるコンセルトヘボウ管ですから、最後の最後では強烈に4つの音を決めてくれました。この箇所をヤンソンスはしきりにリハーサルしただろうとそう思わせる素晴らしい4連打でした(この後にパラパラと拍手があったのは言うまでもありません…)。

暫くの中断の後に入った4楽章では、最初やはり不自然さが感じられました。3楽章で感じられた指揮者と奏者の一体感が感じられませんでした。3楽章の後に拍手が入ってしまったことで奏者の集中が途切れてしまったのかもしれません。ヤンソンスの解釈は1楽章と変わらず、過度にセンチメンタルな面を強調しない洗練された演奏でしたが、ところどころベースやホルンを強調するなど凄みを見せてくれたため、そこまで物足りなさを感じる事はありませんでした。

しかし、最後の幕切れもあっさりと進行していったため、2年前のシャイーとのマーラーで感じたような「ああ演奏会が終わってしまう」というような切なさをまったく感じませんでした。また、この演奏は今回の来日公演で最も期待していた演目だっただけに、予想以上の充実感が得られなかったのが非常に残念でした。この日の演奏会は掲示板などでも書き込まれているように聴衆のマナーは好ましくなかったといわざるをえません。それが少なからず演奏に影響を与えているのは事実でしょう。また、ヤンソンスのこの曲に対する解釈が私の好みとは合わなかったというのも一因だったかもしれません。しかし、演奏そのもので考えるとヤンソンスの個性がはっきりとでたよい演奏だったと言っていいと思います。

 

■ アンコール

 

アンコールは「悲愴」のあとはよく考えるとこれしかないと思わせる、シベリウスの悲しきワルツが奏でられました。チャイコフスキー=ワルツの作曲家、「悲愴」≒悲しいという図式が頭に浮かび、うまいなぁとにやりとさせられました。まさかコンセルトヘボウのシベリウスがこの場で聴けるとは想像できなかったので期待は嫌が上にも高まったのですが、弱音を効果的に駆使したヤンソンスの解釈、コンセルトヘボウ管ならではの木管楽器の音色とが相俟って期待以上の演奏を聴かせてもらいました。大満足のアンコールといえます。是非このコンビでシベリウスを録音して欲しいですね。

そしてまさかのアンコール2曲目はリヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」組曲です。これもアンコールに持ってくるには勿体無いくらいの素晴らしい演奏でした。

どうせなら今度の来日は小曲集でも演奏してくれたらいいのに…なんて勝手なことを考えつつ今回の来日公演を後にしました。

 

(2004年11月17日、An die MusikクラシックCD試聴記)