ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2015年来日公演の記録
文:管理人の青木さん
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2015年来日公演の記録
指揮:グスターボ・ヒメノ
ピアノ:ユジャ・ワン(11/7, 11/9, 11/12, 11/13)コンセルトヘボウ管弦楽団、二年ぶりの来日公演。前回は東京と川崎で計3回だけという最少規模のツアーだったが、今回は名古屋と関西での公演が復活した。しかし指揮者はマリス・ヤンソンスではなく、その後任に決まったダニエレ・ガッティでもなく、ほぼ無名といっていいグスターボ・ヒメノなる人物。彼は元コンセルトヘボウ管の打楽器奏者という異色の経歴で、2001年に25歳で入団して2013年に退任、同年にミュンヘンで指揮者デビューしコンセルトヘボウ管との初共演は2014年だったという。指揮者としては新人だが、10年以上もコンセルトへボウ内部にいた人物というわけで、なかなか興味深い組み合わせといえる。
ヒメノが指揮するコンセルトヘボウ管と独奏者のユジャ・ワンは、10月28〜30日にアムステルダムで三公演をこなしたあと極東ツアーに出発。といっても台北での二公演と日本での六公演だけで、プログラムは日本で採りあげた四曲のみ。演奏が練られた状況で京都にやってきたことになるだろう。
「シェエラザード」のヴァイオリン・ソロはコンサートマスターのリヴィヴ・プルナル、またピアノ協奏曲にもヴァイオリンとチェロのソロがあり、プルナルとチェロ首席のグレゴール・ホルシュが担当。このことは公演プログラム冊子(税込1000円)に挟み込まれたペーパーに記されていたので、印刷製本後に確定したらしい。
なお国内移動休憩日の11月10日には、フルート奏者4名が神戸でのコンサートに出演した。神戸市が補助金を打ち切ることになった「神戸国際フルートコンクール」の存続を応援するための演奏会で、研修生のジョセフィーヌ・オレックを除く3名がこのコンクールの上位入賞者。首席のケルステン・マッコールは1997年(第4回)で第1位、同じく首席のエミリー・バイノンは1993年(第3回)で第3位、セカンドのジュリー・ムーランは2013年の第8回でセミファイナル。他にもベルリン・フィルのパユやシカゴ響のデュフューらを輩出してきた実績を持つコンクールなので、存続を祈願したい。
11月11日にはミューザ川崎の企画で、子供たちを対象にした公開リハーサルも行われたという。■2015年11月7日(土) 16:00
京都 京都コンサートホール (第19回 京都の秋 音楽祭)
【プログラムC】
S:\21,000、A: \18,000、B:\15,000、C:\12,000、D: \6,000
主催:KAJIMOTO、京都市、京都コンサートホール(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)
特別協賛:冨士電機 ※富士電機スーパーコンサート■2015年11月8日(日) 16:00
西宮 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【プログラムA】
A:\18,000、B: \15,000、C:\12,000、D:\9,000、E: \6,000
主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター (兵庫県立芸術文化センター 開館10周年記念公演)■2015年11月9日(月) 18:45
名古屋 愛知県芸術劇場コンサートホール
【プログラムB】
S:¥32,000、A:¥28,000、B:¥24,000、C:¥18,000、D:¥9,000、学生:¥5,000
主催:中京テレビ放送 企画・運営 中京テレビ事業 (第33回名古屋クラシックフェスティバル)■2015年11月11日(水) 19:00
川崎 ミューザ川崎シンフォニーホール
【プログラムA】
S:¥25,000、A:¥21,000、B:¥18,000、C:¥13,000、D:¥9,000
主催:川崎市、ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市文化財団グループ)■2015年11月12日(木) 19:00
東京 東京芸術劇場コンサートホール
【プログラムC】
S:¥26,000、A:¥21,000、B:¥16,000、C:¥12,000、D:¥8,000、SS:\33,000
主催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団) (会館25周年/芸劇フェスティバル)
特別協賛:富士電機株式会社 ※富士電機スーパーコンサート■2015年11月13日(金) 19:00
東京 サントリーホール
【プログラムB】
S:¥28,000、A:¥23,000、B:¥18,000、C:¥13,000、D:¥9,000、プラチナ:\33,000
主催:KAJIMOTO (ワールド・オーケストラシリーズ2015)
特別協賛: 冨士電機 ※富士電機スーパーコンサート【プログラムA】
ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調「田園」op.68
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調「悲愴」op.74
【プログラムB】
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第2番 ト長調 op.44 (ピアノ:ユジャ・ワン)
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」op.35
【プログラムC】
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第2番 ト長調 op.44 (ピアノ:ユジャ・ワン)
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調「悲愴」op.74■ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 第17回来日公演(2015年) 感想文
11月8日(日)16:00〜18:15 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
指揮:グスターボ・ヒメノ
曲目:前半 ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」
後半 チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
アンコール シューベルト:「ロザムンデ」〜第3幕間奏曲
チャイコフスキー:「エフゲニー・オネーギン」〜ポロネーズ17回目の来日公演となるコンセルトヘボウ管は、10年前に西宮市にオープンしたこのホールに初登場となる。指揮者ヒメノとも日本では初顔合わせ。これまで国内六会場で聴いたときと比較してオーケストラ・サウンドがかなり違って聴こえた理由は、ホールの違いか指揮者の力量差か、あるいはかなり若返って見えたオーケストラ自体の変質か・・・・その特定は難しい。今日の演奏のマイナス面を先に書くと、金管が他とうまくブレンドしていなかったことと、ホルンがやや不安定だったこと。前者は、数年前にこのホールで聴いたサロネン指揮フィルハーモニア管で特に顕著に感じたことなので、ホール側の問題だったのかもしれない。
その一方で、木管群の音色と表現力は相変わらず絶品だったし、ストリングスの暖色系サウンドも(密実感にやや欠けたものの)素晴らしいものだった。ティンパニの音が従来と違って聴こえたが、独特の深い響きは維持されている。そして、これらが力まず余裕をもってプレイすることで生まれるしなやかな合奏美は、ヤンソンスの指揮ではあまり聴けなかったもの。指揮者がかつての同僚であるせいか、あるいは楽団に対する指揮者の信頼感の表れか、これまでにないようなインティメートな雰囲気が感じられ、よかったと思う。それがアンサンブルの緩さやサウンドの薄さにつながってしまう瞬間もあり、功罪相半ばといった感なきにしもあらずだが、総じて新鮮な印象で楽しむことができた。
指揮者ヒメノの個性や才能がどういったものなのかは、まだよくわからない。師匠ヤンソンスの音楽づくりに感じられるある種のエンタテインメント的あざとさは感じられず、かなりあっさりした印象の「田園」であり、「悲愴」だった。もし別のオーケストラだったら聴いていて退屈したかもしれず、コンセルトヘボウが目当ての者にとってはむしろよかったのかもしれないが、しかしそろそろ「オーケストラの能力を限界まで引き出した深みのある凄演」みたいなものも聴きたいと思う。いま思えば2002年の来日公演でシャイーが指揮したマーラーの第3番が、そういう演奏だったのだ。
さて、前半は拍手とブラボーがフライング気味で残念だったが、後半の「悲愴」ではヒメノが指揮棒を下すまでたっぷりとした静寂が保たれた。彼がきびきびとした足取りでカーテンコールに応えるのも好印象だったし、しっとり系とにぎやか系の二曲のアンコール曲もうれしいサーヴィス。ヒメノがコンセルヘボウ管と来日することはもうなさそうで、もしあるとすればさらに成長しているだろうから、今回の来日公演を聴けたのはかなりレアな体験となるだろう。総合的に考えれば料金に見合う満足感を得られた。ただそれは西宮を基準にした場合であり、他の会場の料金設定は(ピアニストのギャラがオンされているとしても)少々高すぎたように思う。
(2015年11月16日、An die MusikクラシックCD試聴記)