ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2017年来日公演の記録
文:管理人の青木さん
■概 要
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)の来日公演は、90年代以降ほぼ隔年というペースで継続されていて、18回目となる今回もその原則通りとなった。前回の2015年は首席指揮者が交代の谷間の不在期だったためか、指揮はRCOの元打楽器奏者グスターボ・ヒメノという意外な人選だったことは記憶に新しいところ。といったん常套句を使ったけれど、個人的にはどちらかというとすでに遠い記憶になりつつあった。
そして今回はいよいよ新シェフが初登場。マリス・ヤンソンスの後任として2016年秋から第七代首席指揮者を務めるダニエレ・ガッティだ。彼は2004年の初共演以来、毎シーズン欠かさずRCOから招かれていたという。ロイヤル・フィルやミラノ・スカラ座、ボローニャ歌劇場と来日経験があったガッティだが、今後はこのコンビによる日本公演が一年おきに続いていくのだろうか。
今回同行するソロイストのうち、チェロのタチアナ・ヴァシリエヴァはRCOの首席奏者(2014年8月より)。またヴァイオリンのフランク・ペーター・ツィンマーマンは、ACO時代の名コンサートマスターだったヘルマン・クレバースに師事したという。
RCO公式サイトによると、2017年11月のRCOは、ドイツ・オーストリア系で固めた二種類のプログラムだけを集中的に採り上げる演奏会を計13回行った。指揮はいずれもガッティで、ソロイストもすべて同一。そのチームは本拠地とドイツでの公演を終えたあと、韓国・日本ツアーに出発。ソウルの次におそらく大阪へ移動し、京都から始まって大阪に戻る日本公演は計6回。このうち、オランダと縁の深い長崎市での演奏会は1974年、2000年に続いて3度目で、今回は「出島表門橋完成記念公演」とのこと。また22日には金管奏者によるリサイタルがさいたま市で行われた。
ちなみにRCO留守中のコンセルトヘボウ大ホールには、15日と17日にヨーロッパ室内管弦楽団を率いたベルナルト・ハイティンクが登場し、モーツァルトの交響曲やマーラー、ワーグナーの声楽作品を指揮した。
2,3日 コンセルトヘボウ、アムステルダム :A
8,9日 コンセルトヘボウ、アムステルダム :B
11日 アルテ・オーパー、フランクフルト :B
15日 ロッテ・コンサート・ホール、ソウル :B
16日 ロッテ・コンサート・ホール、ソウル :A
18日 京都コンサートホール :B
19日 ミューザ川崎 :B
20日 サントリーホール、東京 :A
21日 サントリーホール、東京 :B
23日 ブリックホール、長崎 :A
24日 フェスティバルホール、大阪 :A
[プログラム]
A
- ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン)
- ブラームス:交響曲第1番
B
- ハイドン:チェロ協奏曲第1番(チェロ:タチアナ・ヴァシリエヴァ)
- マーラー:交響曲第4番(ソプラノ:ユリア・クライター)
※ユリア・クライターは体調不良で日本公演に出演不能となり、マリン・ビストレムが代演した(11/15発表)
■日 程
11月18日(土) 18:00 京都/京都コンサートホール【プログラムB】
料金: S¥25,000 A¥21,000 B¥17,000 C¥13,000 D¥9,000
主催: KAJIMOTO、京都市、京都コンサートホール
協賛: 富士電機株式会社
11月19日(日) 18:00 川崎/ミューザ川崎シンフォニーホール【プログラムB】
料金: S¥30,000 A¥25,000 B¥20,000 C¥15,000 D¥9,000
主催:川崎市、ミューザ川崎シンフォニーホール
11月20日(月) 19:00 東京/サントリーホール【プログラムA】
料金: S¥32,000 A¥27,000 B¥22,000 C¥17,000 D¥13,000 プラチナ券¥37,000
主催: KAJIMOTO
協賛: 富士電機株式会社
11月21日(火) 19:00 東京/サントリーホール【プログラムB】
料金: S¥32,000 A¥27,000 B¥22,000 C¥17,000 D¥13,000 プラチナ券¥37,000
主催: KAJIMOTO
協賛: 富士電機株式会社
11月23日(木・祝) 18:30 長崎/長崎ブリックホール【プログラムA】
料金: S¥18,000 A¥15,000 B¥10,000 C¥5,000
主催: ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団長崎公演実行委員会
共催: 長崎県、長崎市、オランダ王国大使館
11月24日(金) 19:00 大阪/フェスティバルホール【プログラムA】
料金: S¥27,000 A¥22,000 B¥18,000 C¥14,000 D¥9,000 BOX¥32,000 バルコニーBOX(2席セット)¥54,000
主催: KAJIMOTO、フェスティバルホール
[関連公演]
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 メンバーたちによるブラスリサイタル
11月22日(水) 19:15 さいたま/彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
料金: 一般\4,500 学生\3,500 中学・高校生\2,000 小学生\1,000 当日各+500円
主催: RCOブラスリサイタル2017実行委員会
後援: オランダ王国大使館, 日本トランペット協会, 日本ホルン協会, 日本トロンボーン協会
出演者:
ミロスラフ・ぺトコフ Miroslav Petkov (首席トランペット)
ジュリアーノ・ゾンマーハルダー Giuliano Sommerhalder (客演首席トランペット)
ラウレンス・ヴァウデンベルク Laurens Woudenberg (首席フレンチホルン)
バート・クラエッセンス Bart Claessens (首席トロンボーン)
ニコ・スキッパース Nico Schippers (2番トロンボーン)
マーティン・スキッパース Martin Schippers (2・3番トロンボーン)
山本麻紀 Maki Yamamoto (ピアノ)■感 想
日本公演の最終日、大阪でAプロを聴いた。会場は2013年4月に開館したフェスティバルホール。建替え前の旧ホールは、中学生の時にポール・モーリア・グランドオーケストラを聴いて以来、外来オケ初体験(マゼール指揮クリーヴランド管)、チック・コリアの再結成RTF、朝比奈隆と大フィルの数々の名演(一部迷演)など、ワタシにとって想い出の多い会場だった。しかしこの新ホールに入るのは今回が初めて。座席はチケット上では7列だったが、実際には1から5までがなかったので前から二列目の超近接席。こんな状況で二年ぶりのRCOを、そして初ガッティを聴かねばならないのか・・・・なんだか室内オケみたいな小編成だし・・・・馴染みの京都でのマーラーにしておけばよかった・・・・と落ち込んでいた気分は、ベートーヴェンのコンチェルトが始まって10数秒後に急転した。弦楽のパートをソロイストが一緒に弾いている!
この曲の実演に接するのも初めてなのだが、これまで聴いた諸録音の記憶では、独奏ヴァイオリンの登場はオーケストラ提示部が終わってからのはず。どうやらツィンマーマンの遊び心らしいその演出で、なんともいえない一体感と親密感が醸し出される。そしてこのことによって、ベートーヴェンらしい剛毅なダイナミズムが控えめなこの曲の、明るく優美な側面がぐっと拡大されているようで、ともかく一気に引き込まれてしまった。とはいえ正直なところ長大な曲の途中で眠気が差す瞬間もあったけれど、それは退屈のせいではなく気持ちよさの結果。途中で気づいたのだが、管弦楽の暖色系サウンドの美しさがこれまでよりもさらに増している。これはホールのせいか指揮者のせいか楽曲のせいか、いろいろ初めてづくしなので判断できないのがもどかしい。座席が前すぎてステージ後方がよく見えなかったが、視界に入る団員は半分以上が女性であり、そういうことも関係していたのだろうか。ともかく、RCOの重要な個性である「コクのある音色と、その美しい融け合い・まとまり」が、過去に経験したどの実演よりも顕著だった。
そのことは、編成が拡大された後半のブラームスでも同様。特に木管楽器群の妙技と美音の素晴らしさには言葉も出ないほどだし、量感のある低音を基調にして滑らかな厚みをなす弦楽器群から逸脱はしないものの強力に主張するホルンの絶妙さは、これまた筆舌に尽くしがたい。とボキャブラリーの貧困さを露呈しておりますがそれはともかく、大好きな「コンセルトヘボウ・サウンド」がしっかり維持されていることを確認でき、それを十分に楽しむことができた演奏会だった。
さて、ベートーヴェンのコンチェルトでは感じることができなかった指揮者ガッティの個性だが、ブラームスのシンフォニーの音楽づくりにはあまり共感できず、個人的な好みに合わなかったことはちょっと残念。深いところでの「感動」に至らない点はヤンソンスも同じだったので仕方ないとして、たっぷり歌ってほしいところをセカセカと、逆にスムースに進んでほしいところでタメをとり、なんだかギクシャクした印象だ。それが「何らかの効果を狙った演出の結果」なのであれば、その演出意図は将来的に変化するかもしれないし、別の曲ならワタシの好みに合う表現も期待できるだろう。しかし可変性のある演出ではなく、これが音楽家ダニエレ・ガッティ本来の個性の正直な反映なのだとしたら、RCO(と自分との関係)の将来に不安を抱かずにはいられない。Bプロのマーラーも聴いてみるべきだったかと後悔したが、京都公演の日は武道館での「自衛隊音楽まつり」と重なったのでどのみち不可能。
ブラ1で終わってアンコール曲がないというのも「?」だったが、前半はツィンマーマンがラフマニノフの「前奏曲 Op.23-5」を激しいアクション付で熱演してくれた。
■余 録
- ツィンマーマンは独奏が休みの間にも随所でオケのパートを弾き、もはや半コンマス状態。彼は、ベートーヴェン・モーツァルト・J.S.バッハの協奏曲ではこのようなスタイルをとっているとのことだが、RCOのコンマス役というのはクレバースの弟子として感慨深いものがあったのかも、と想像するとちょっと楽しい。
- ガッテイは、今回の公演を含めたプログラミングの意図について「RCOの主たるレパートリーを尊重する」「楽団のこれまでの路線を継承していく」とインタビューで発言し、具体的にはマーラー・ブルックナー・R.シュトラウス・ブラームスを挙げている。他にもマーラーと関係の深いシェーンベルク・ベルク・ウェーベルン、マーラーに至る道を準備したワーグナー・ベルリオーズ、マーラーが影響を受けたドビュッシーなどのフランス音楽、なども挙げられ、とにかくマーラー中心ということのようだ。マーラーの新たな映像・録音シリーズも企画しているという。個人的にはRCOのマーラー録音はもう充分なんだけど・・・・
- こういったインタビューも掲載されているプログラム冊子(千円也)は、ツアー途中で品切れになったようで大阪公演会場には現物がなく、予約販売・後日郵送の方式になっていた。
- 来日公演中に行われた記者会見でのヤン・ラース楽団事務局長の発言によると「ここ数年間で団員が若返っている」「数えてみると、25ヶ国からのメンバーがいた」「新メンバーに日本人もいる。ティンパニのアンドー・トモヒロで、今回のベートーヴェンとブラームスでとても重要な役割を果たしている」。1991年生まれという安藤氏は、2016年からの試用期間を経て正式に採用されたそうで、RCOホームページの団員紹介にちゃんと掲載されている。なぜか彼だけ顔写真がないのがジャニーズみたいで気になるが。
- 比較しても詮無いことながら、10月に聴いたリッカルド・シャイー指揮ルツェルン祝祭管のシュトラウス・プロが凄まじい爆発的力演で、こういうのをRCOで聴いて圧倒されてみたい・・・・とつい考えてしまったことが、ガッティへの失望感の一因だったのかもしれない。さらに余談ですが初めて行った「自衛隊音楽まつり」には大感動、とにかく最高でありました。
(2017年12月17日、An die MusikクラシックCD試聴記)