ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2019年来日公演の記録

文:管理人の青木さん

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概 要

2019RCO来日公演プログラム

 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)の来日公演は、毎度記しているように90年代以降ほぼ隔年ペースで継続していて、19回目となる今回もその原則が守られた。2017年の前回に続いて首席指揮者ダニエレ・ガッティとの二度目の来日。の予定だったが、そのガッティが2018年8月になんと首席指揮者を解任される事態に。ツアーはどうなるのかと心配していたところ、パーヴォ・ヤルヴィが代役を務めると発表された。N響のパーヴォ? ネーメと違ってRCOとの録音はないし、RCO公式サイトのコンサート・アーカイヴによると過去に彼がRCOを振った演奏会は2004年4月に2回、2007年9月に3回、2015年12月に1回の計6回だけ(ちなみにネーメは67回)。今回の人選の経緯は承知していないが、ともかく2013年以降は、ウィーン・フィルのように毎回異なる指揮者と来日するという、それ以前には考えられない展開となったのだった。次回2021年はいったいだれが帯同するのだろうか?

 今年の日本公演は台湾を含むアジア・ツアーの一環で、5回(台北を含めると6回)の演奏会で二つのプログラムが披露された。公式サイトの記載は次の通り。

“Paavo Järvi,conductor Asia tour - Beethoven and Shostakovitch”
11/14 National Theater and Concert Hall, Taipei
11/19 Suntory Hall, Tokyo
11/23 Performing Arts Center, Sakai city, Osaka
Ludwig van Beethoven / Symphony No.4
Dmitri Shostakovich / Symphony No.10

“Brahms’Vierde symfonie Asia tour - Lang Lang plays Beethoven”
11/18 Suntory Hall, Tokyo
11/20 Aichi Prefectural Art Theater, Nagoya
11/22 Muza Kawasaki Symphony Hall, Kawasaki
Richard Wagner / Overture 'Tannhäuser'
Ludwig van Beethoven / Piano concert No.2
Johannes Brahms / Symphony No.4

 これらのプログラムは、当ツアー直前に本拠地コンセルトヘボウでのコンサートでも採りあげられている。ベートーヴェンとショスタコーヴィチの交響曲プロが10/31・11/1・11/3(いずれも指揮はトゥガン・ソヒエフ)、そして協奏曲を含むプログラムは11/6・11/8・11/9だが、このうち11/9は21時開演でブラームスのみ。その5日後には台北公演を迎え、中3日をはさんで月曜日から東京公演。その後名古屋〜川崎〜堺と回って土曜日に終了。ほとんど平日だし、一日だけの休演日には川口でブラス・アンサンブルの公演があり、とにかく慌ただしい印象だ。
 料金を見るとなぜか名古屋が突出して高額で、集客結果が気になるところ。

 

日 程

 

11月18日(月) 19:00 東京/サントリーホール【プログラムB】
料金: S¥33,000 A¥28,000 B¥23,000 C¥18,000 D¥14,000 プラチナ券¥38,000
主催: KAJIMOTO
協賛: 富士電機株式会社

11月19日(火) 19:00 東京/サントリーホール【プログラムA】
料金: S¥32,000 A¥27,000 B¥22,000 C¥17,000 D¥13,000 プラチナ券¥37,000
主催: KAJIMOTO
協賛: 富士電機株式会社

11月20日(水) 18:45 名古屋/愛知県芸術劇場コンサートホール【プログラムB】
料金: S¥39,000 A¥35,000 B¥29,000 C¥20,000 D¥15,000 E¥12,000 学生¥3,000
主催: 中京テレビ事業
協賛: 富士電機株式会社

11月22日(金) 19:00 川崎/ミューザ川崎シンフォニーホール【プログラムB】
料金: S¥32,000 A¥27,000 B¥22,000 C¥17,000 D¥13,000
主催: ミューザ川崎シンフォニーホール、KAJIMOTO
協賛: 富士電機株式会社

11月23日(土) 17:00 堺/フェニーチェ堺【プログラムA】
料金: S¥24,000 A¥21,000 B¥17,000 C¥13,000 D¥9,000
主催: 堺市、フェニーチェ堺
協賛: 富士電機株式会社

[プログラム]
A ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 op.60
  ショスタコーヴィチ:交響曲第10番 ホ短調 op.93
B ワーグナー:オペラ「タンホイザー」序曲
  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.19(ピアノ:ラン・ラン)
  ブラームス: 交響曲第4番 ホ短調 op.98

[関連公演]
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団ブラス・アンサンブル「ドリーム・コンサート」
11月21日(水) 19:15 川口総合文化センターリリア 音楽ホール
料金: 一般S\6,500 一般\5,500 学生\4,000 中学・高校生\2,500 小学生\1,500
主催:RCOブラス2019実行委員会
出演者(事前発表):
 トランペット:オマール・トマゾーニ、ミロスラフ・ペトコフ、ジュリアーノ・ゾンマーハルダー、ヤコ・フルーネンダイク
 トロンボーン:ユルゲン・ファン・ライエン、マーティン・スキッパース、レイモン・ムネコム、ニコ・スキッパース(ユーフォニウム)
 ホルン:ケイティ・ウーリー、ラウレンス・ヴァウデンベルク
 テューバ:ペリー・ホーヘンダイク

 

感 想

 

 日本公演の最終日、大阪でAプロを聴いた。大阪といっても大阪市の南隣の堺市で、会場はオープン間もない新ホール。結果からいえば、シャイーのマーラー以来の感動を得られた演奏会だった。
 とはいえ前半のベートーヴェンは、対向配置による大きめの編成と快速テンポは好みだったが、まあ普通というか想定内の演奏という印象。オーケストラの響きは弦楽合奏の透明度がかつてより増したように聴こえ、管も含めて暖色系の要素が後退したように感じたが、その一因としてホール内装の視覚的影響が大きかったように思う。黒を基調とした暗色系の色彩でまとめたデザインで、ステージ両側の壁面にはメカニカルな舞台照明設備が密集配置。デッド気味の音響と相まって、多目的ホールの限界を感じさせる。これとヤルヴィの個性との相乗効果なのか、いつになくクールでシャープなコンセルトヘボウ管なのだった。演奏のほうはアクセントの利いたエンディングが印象的で、ブラヴォーが飛び交う大盛況をもって前半が終了。
 さて中入り後の後半はショスタコの第10番だ。実演で聴くのは初めてだし、録音でも馴染んでいるとはいいがたい曲。どちらかというとブラ4の方を聴きたかったのだがこの日しか日程が合わないという事情で、あまり気乗りがしなかった。だが眠ってしまわないようにと意識して傾聴したところ、楽曲の魅力と演奏のすばらしさを十分に堪能できたのだから、なにが幸いするかわからない。ツアー最終日だからといって疲れをみせたり手を抜いたりするコンセルトヘボウ管ではなく、演奏の方もかなり気合が入っていたようで、結果として大きな感動につながったという次第。特に印象的だったのは第3楽章で何度も出てくるホルンの独奏で、演奏中は奏者が見えなかったのだが、演奏後の拍手に応えて最初に立ちあがったホルン奏者がポニーテールの小柄な若い女性だったのにびっくり。最近フィルハーモニア管から首席奏者として迎えられたケイティ・ウーリーという、結構知られた人だと後で知る。鬼気迫る弦のピチカートを伴奏にそのホルンがソロを奏でる場面が全篇のハイライト。疾風怒濤の第2楽章は刺激的だが喧しくはない管弦のみごとなバランスに圧倒されたし、エンディングも鮮やかに決まって、前半を上回る拍手喝采となった。
 それに応えてのアンコールは、チャイコフスキー「くるみ割り人形」からのトレパーク。すごい勢いで、あっという間に終わる。そしてもう一曲、シベリウスの「悲しきワルツ」。弦主体の暗くてスローな曲で最後を締めるというのは意外だが、ベートーヴェンでも感じた「弦楽合奏の透明度」がたいそう効果的。これがヤルヴィがアピールしたかった今のコンセルトヘボウ・サウンドの特徴だとすれば、意味深い選曲といえるのかもしれない。
 終演は20時20分。このままヤルヴィが首席指揮者になってもいいのではないかと思わせるすばらしい演奏会だったが、別のホールで別の曲を聴けば別の印象になるかもしれず、軽々には判断できない。少なくとも過去のヤンソンスやヒメノやガッティを超える満足を得られたことと、やはり今後の関西公演はザ・シンフォニーホールか京都コンサートホールで願いたいという個人的感想をもって、本稿を閉じたいと存じます。

 

(2019年11月28日、An die MusikクラシックCD試聴記)