ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2023年来日公演の記録
文:管理人の青木さん
■概 要
[指揮]ファビオ・ルイージ
[ピアノ]イェフィム・ブロンフマン(B)
[プログラム]A ビゼー:交響曲第1番 ハ長調
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調「新世界より」作品95
B ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲
リスト:ピアノ協奏曲第2番 イ長調
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の日本公演は、90年代以降ほぼ隔年ペースで継続していたが、2021年11月に予定されていた来日はコロナ禍のため中止となった。その結果4年ぶりとなる20回目の今回、指揮者はファビオ・ルイージ。元シュターツカペレ・ドレスデンの音楽監督、現在はデンマークやダラスとともにNHK交響楽団の首席指揮者という存在だが、コンセルトヘボウ管との縁はそれほど強くはなさそうな人だ。ピアニストのイェフィム・ブロンフマンを帯同。
今年のツアーは日本と韓国を回るもので、直前の本拠地での公演を含めた計10の演奏会でルイージとブロンフマンが上記二種類のプログラムをリピートしている。
10/18 アムステルダム、コンセルトヘボウ (A)
10/20 アムステルダム、コンセルトヘボウ (B)
10/22 アムステルダム、コンセルトヘボウ (A)
11/3 川崎、ミューザ川崎 (A)
11/4 名古屋、愛知県芸術劇場 (B)
11/5 京都コンサートホール (B)
11/7 東京、サントリーホール (B)
11/9 東京、文京シビックホール (A)
11/11 ソウル、ロッテ・コンサート・ホール (B)
11/12 ソウル、ロッテ・コンサート・ホール (A)
日本公演までの間が空いているが、金管奏者たちは一足先に来日したようで、「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団ブラス・アンサンブル」として10/26から10/29までに山形市、広島市、川口市で演奏会を開いている。
そして11/3から行われた本体の日本公演は、首都圏が3で地方が2。いつものことながら場所によって料金設定にずいぶん差がある。また11/8にはKLMオランダ航空主催のイベントとして、金管の選抜メンバーによる無料コンサートが東京タワー前で行われた。■日 程
11月3日(金) 17:00 ミューザ川崎シンフォニーホール、川崎【プログラムA】
料金 S:34,000円 A:28,000円 B:22,000円 C:16,000円 D:13,000円
主催 川崎市/ミューザ川崎シンフォニーホール
11月4日(土) 14:00 愛知県芸術劇場コンサートホール、名古屋【プログラムB】
料金 S:41,000円 A:35,000円 B:28,000円 C:24,000円 D:18,000円 E:12,000円 学生:3,000円
主催 中京テレビ放送
協賛 からみそラーメンふくろう
11月5日(日) 15:00 京都コンサートホール【プログラムB】
料金 S:25,000円 A:21,000円 B:17,000円 C:13,000円 D:9,000円
主催 KAJIMOTO/京都市/京都コンサートホール
協賛 富士電機株式会社
11月7日(火) 19:00 サントリーホール、東京【プログラムB】
料金 S:34,000円 A:28,000円 B:22,000円 C:16,000円 D:13,000円
主催 KAJIMOTO
11月9日(木) 19:00 文京シビックホール 大ホール、東京【プログラムA】
料金 プレミアム:25,000円 S:22,000円 A:20,000円 B:18,000円 C:16,000円 D:14,000円
主催 公益財団法人文京アカデミー
[関連公演]ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団ブラス・アンサンブル
10月26日(木)19:00 山形テルサホール
10月28日(土)15:00 東広島芸術文化ホールくらら
(料金 SS:6,500円 S:6,000円 A:5,500円 学生:2,500円)
10月29日(日)15:00 川口総合文化センター リリア 音楽ホール
出演者
- オマール・トマゾーニ、ミロスラフ・ペトコフ、ベルト・ランゲンカンプ、ヤコ・フルーネンダイク(トランペット)
- ユルゲン・ファン・ライエン、バート・クラエッセンス、ニコ・スキッパーズ、マーティン・スキッパーズ(トロンボーン)
- ケイティ・ウーリー、ラウレンス・ヴァウデンベルク(ホルン)
- ペリー・ホーヘンダイク(チューバ)
■感 想
関西公演の会場が堺から京都に戻ったのはいいけどメインがチャイ5かぁ…去年聴いたラトル指揮ロンドン響のバルトークや武満、マケラ指揮パリ管のドビュッシーやストラヴィンスキーは良かったなぁ…という感じで、あまり気乗りしないまま京都に向かったのですが。いやはや途轍もなく素晴らしい超弩級のチャイコフスキーで、耳と目が完全釘付けの50分、泣けてくるほどの感動でした。
管弦楽の美音は過去に体験した全実演中、最高。弦の合奏にはたっぷりとした――物量レベルとは異なる――分厚さがあって、硬い芯のようなものを感じさせながらしなやかな機動力も持ち、その暖色系サウンドは得も言われぬ美しさ。コクがある音色の雄弁な木管も、鋭利すぎない深い響きの金管も、突出することなくすべてがまろやかに溶けあっています。その中でも特別な存在感を感じさせるのがホルン群で、セクションとしてのこの充実ぶりは第2楽章(とウェーバー)で絶妙なソロも披露した首席奏者ケイティ・ウーリーがもたらしたもの、なのでしょうか。
全体の合奏面では、フレーズの入りでは必ずしも揃い切っていない反面、末尾の揃いが完璧で、音が減衰していくさまは信じられないほどの美しさ。溶け合い重視のためか全体の音量はいま一つだったものの、フルパワーの強奏からは得られない余裕のようなものが、ゆったりとした全体の風格と密実な響きにつながっていたようであり、志向するサウンド面の価値観が他のオーケストラとは根本的に異なっているらしいという印象を、これまで以上に強く感じました。
ルイージの主張(というかオーケストラのまとめ方)は、かつて実演で接したシュターツカペレ・ドレスデンやデンマーク国立響の時とはかなり異なって聴こえました。やはりオーケストラの個性と性能を信頼しそれを引き出すことを最優先にしたのでしょう。N響も結構なんですが(失礼)、このままコンセルトヘボウ管の首席になっても十分通用しそうです。ルイージは公演プログラム掲載のインタビューで、ハイティンクとコンセルトヘボウ管のLPをたくさん聴いてきたと語っています。1974年録音の彼らのチャイ5こそワタシがこのオーケストラの魅力に目覚めたLPであり、この日の演奏にはその録音を彷彿とさせる瞬間が何度もありました。ルイージにもあの名盤の記憶が残っていて、音楽設計の参考にしたのかもしれません。
というわけでまさに間然とするところのない演奏でしたが、あえて申せばティンパニがやや浮いていました。奏者はどう見ても首席の安藤智洋ではない人だったので、打楽器担当の奏者(Herman Rieken?)だったのかエキストラだったのか。大事な場面でつんのめったりもしていたのですが、全体から見れば小さな瑕といえましょう。
前半のウェーバーとリストは、後半ほどの充実は感じられない演奏で、美音についても全開の数歩手前という印象でした。しかしリストの協奏曲はコンセルトヘボウ管が(90年前の放送録音を除いて)レコーディングしていないレパートリーということで、レアな価値はありました。後半のアンコール曲はチャイコフスキーの「エフゲニー・オネーギン」からポロネーズ。団員が退場しても鳴りやまぬ拍手に応えて、ルイージがコンマスのリヴィウ・プルナールらを伴って舞台に現れました。「カーテンコールの時だけ撮影OK」と会場入口に掲示されていたため、その画像や動画がネット上にいくつかアップされております。
若き俊英クラウス・マケラが首席指揮者に正式就任するのは2027年とのことですが、次回2025年の来日公演は彼が率いてくると聞きました。それも今から期待大ですが、マケラはデッカと専属契約を結んでいるので、デッカのコンセルトヘボウ録音が20年ぶりに復活する可能性があり、これまた楽しみなことです。しかしその前に、ルイージとのチャイコフスキーのライヴ音源が何らかの形で世に出ることを、まずは切望いたします。
※パンフレット掲載のルイージのインタビューは招聘元のサイトで読むことができます。
https://www.kajimotomusic.com/articles/2023-fabio-luisi/■■2021年の来日(全公演中止)
トゥガン・ソヒエフが指揮する以下の5公演が予定されていたのだが、新型コロナウイルス感染症及び新型コロナウイルス変異株急拡大の影響による日本への入国制限の緩和等を見通せないことを事由として、7月時点で来日中止が発表された。二種類のプログラムのメインはベルリオーズの幻想交響曲とドヴォルザークの新世界交響曲。
11月17日(水)愛知県芸術劇場コンサートホール、名古屋
11月19日(金)ザ・シンフォニーホール、大阪
11月20日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール、川崎
11月22日(月)サントリーホール、東京
11月23日(火)サントリーホール、東京
同時にロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団ブラス・アンサンブルの来日公演も中止されている。
11月18日(木)小金井宮地楽器ホール
11月24日(水)東広島芸術文化ホールくらら
11月25日(木)沼津市民文化センター
11月27日(土)竹田市総合文化ホール グランツたけた
(2023年11月11日、An die MusikクラシックCD試聴記)