アイヴス:交響曲第2番を聴く
(文:青木さん)
アイヴス
交響曲第2番
マイケル・ティルソン・トーマス指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1981年8月24-25日 コンセルトヘボウ、アムステルダム
SONY(国内盤 ソニー SRCR8519)■ 曲について
CDブックレットに掲載されているティルソン・トーマスの小文を、まずご紹介するのがいいでしょう。多くの聴衆にとってのアイヴスの印象は「大量の不協和音を用いるエクセントリックな作曲家」「ときおりアメリカ俗謡をブラス部隊に吹奏させる作曲家」だと思われているが、それはアイヴスに関する本質ではない、と彼は言います。アイヴスは「ロマンティックな作曲家」であり、その好個の一例が最初の大作であるこの第2交響曲だ、と分析しているのです。
これはまったくその通りでありまして、けっして奇矯な前衛音楽などではありません。ちょっと複雑に進行する部分もあるものの、全体としてはいろいろなところから引用された親しみやすい旋律が次々と現れる、ユニークで楽しい曲です。ラストの強烈な不協和音さえ微笑ましいほど。そして全体を通して強く感じられるのは、フォスターの世界に通じるような「昔ののどかなアメリカ」のイメージ。もっと人気が出てもよさそうな曲でして、ぜひご一聴をお勧めします。
■ 演奏について
そしてCDは、初演者バーンスタインによる新旧録音をはじめとして何種類か出ている中で、このティルソン・トーマス盤が大推薦。といっても他の演奏を聴き比べたわけではないのですが、なにしろコンセルトヘボウ管の個性が大きく貢献しているのですから、当「コンセルトヘボウの名録音」にはぴったりの一枚だと断言してしまいましょう。アメリカの田舎の雰囲気に満ちているこの曲に、しっとりとした質感があり派手さが抑えられた欧州調の音色と合奏美がこれほどふさわしいとは、ちょっとした驚きでした。
特に効果的なのが、金管楽器のブレンド感です。ティルソン・トーマスが書いているように、金管群が唐突に民謡風のフレーズを奏でる場面がアイヴスの曲には多々あり、彼が後に録音したシカゴ響の演奏ではそれが全体のバランスを崩しているように聴こえたりもするのですが、ここではそのようなことはありません。もちろん金管だけでなく、管弦楽全体が実に魅力的な音色で鳴っていて、美しく溶け合っていきます。その中でなんともいえないカントリー・ムードが、あるときはのどかに、またあるときは賑やかに描き出されていく。ほんとうにいい演奏です。
これはコンセルトヘボウ管にとってティルソン・トーマスとの初録音であり、ソニーへの録音も当時は異例(カサドシュの伴奏を務めたベイヌム以来?)。しかもアメリカ音楽の録音経験がほとんどないこのオーケストラをあえて起用したティルソン・トーマスは、さすがに才人というべきでしょうか。
録音はちょっとぼんやりして聴こえますが、少しボリュームを上げて聴けばOKです。ただ、ずっしりとしぶとい底力までは捉えきれておらず、このあたりはソニーの限界(というか個性)かもしれません。
■ ディスクについて
この録音は最初LPで発売されたもので、国内盤は1991年にCD化されています。その際には、オーケストラル・セット第2番とともに1982年に録音されていた交響曲第3番がフィル・アップされました。ジャケットにはコンセルトヘボウ大ホールの写真があしらわれ、わざわざ表面に”Recorded in the Concertgebouw,Amsterdam”とクレジットされています。
輸入盤では、その第2番・第3番にシカゴ響と録音された他の曲を組み合わせた交響曲全集のセットが3年ほど前に出ていましたので、これが手に入りやすいでしょう。
(2006年12月20日、An die MusikクラシックCD試聴記)