コンセルトヘボウ管弦楽団の歴史

文:青木さん

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 100年以上に渡る外国のオーケストラの歴史などということに関しては、これは文献その他によって知識を得る以外にどうしようもなく、例えば『名門オーケストラを聴く!』(音楽之友社編,音楽之友社,1999)や『ONTOMO MOOK 世界のオーケストラ123』(音楽之友社,1993)等を参照するのがてっとり早いわけです。と片づけてしまうのではいかにも不親切ですので、年表風に簡単にまとめてみますと…

1888:アムステルダムにコンセルトヘボウ(演奏会堂)が建設され、その専属オーケストラとしてコンセルトヘボウ管弦楽団が創設される(常任指揮者:ウィレム・ケス)
1895:ケスがスコティッシュ管弦楽団へ移り、二代目首席指揮者にウィレム・メンゲルベルクが就任する
1926:初レコーディング(ワーグナー「タンホイザー」序曲)
1945:ナチス・ドイツへの協力の罪でオランダを追われたメンゲルベルクの後任として、エドゥアルト・ヴァン・ベイヌムが首席指揮者に就任する
1952:オーケストラの管理運営がホール専属からオランダ・オーケストラ財団に移る
1959:ベイヌム死去
1961:ベルナルト・ハイティンクとオイゲン・ヨッフムが首席指揮者に就任(ハイティンクは次席待遇)
1962:初来日公演(指揮者はハイティンクとヨッフム)
1964:ヨッフムが常任を離れ、ハイティンク単独となる
1986:ヨッフムおよびウラディーミル・アシュケナージと来日
1988:ハイティンクがロンドンのロイヤル・オペラに移り、リッカルド・シャイーが首席指揮者に就任する
1988:創立100周年を迎え、これを機に女王から「ロイヤル」の称号が与えられ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と改名する

 という感じで現在に至るわけですが、面白いのはまずホールが先にでき、そのあとでホール専属オーケストラとして結成された、というところでしょう。コンセルトヘボウの柿落としが4月、そのホールの母胎であるコンセルトヘボウ協会のオーケストラとしてコンセルトヘボウ管弦楽団が創設され最初の演奏会が開かれたのが11月。その間の半年はその都度演奏家を集めていたとのことです。会場より先にオーケストラがあるのが普通でしょうから、コンセルトヘボウの場合はもう当初よりオーケストラとホールとが切っても切れない縁にある。そこのところがたいへん興味深いわけでして、ホールだけ作って企画運営がなおざりにされるような例なら日本各地の地方自治体でみられます。「ハコもの行政」というやつですね。これは面白くもなんともありません。

 指揮者のポストについては、「首席」と「常任」の使い分けが各種情報元により統一されておらず、「芸術監督」「音楽監督」など本来別の位置づけと思われるものが混用されている場合まであって、このあたりが断片的情報を継ぎ合わせようとする場合の難点です。ただ、二代目メンゲルベルクの時から「複数指揮者制」を採用したらしいので、その場合は「首席指揮者」というべきでしょう。その間の「常任指揮者」が、たとえばカール・ムック、ピエール・モントゥー(1924または1925〜1934)、ブルーノ・ワルター(1934〜1940)らです。一方、亡命後のキリル・コンドラシンはコンセルトヘボウの「客演指揮者」に就任したという表現がなされたりしますし、またカタログから引用した前記のプロフィールには「現在はシャイーが常任指揮者と音楽監督を兼任しています」とあります。さらにベイヌム自身は、すでに1931年に「副指揮者」または「第二指揮者」、1938年に「常任指揮者」または「第一指揮者」の地位に就いたとのことで、どうも情報というか表現が混乱してなんだかよくわからないのであります。

 最後にオーケストラの技術や質の面についてはどのような変遷があったのでしょうか。いろいろ見ながらまとめてみますと、

  • 初代ケスは7年間の在任中にコンセルトヘボウ管弦楽団を厳格に訓練し、優秀な楽団に仕上げた
  • 二代目メンゲルベルクは半世紀に渡って君臨する中で、国際的に第一級のオーケストラに育て上げた
  • 戦中〜戦後はメンゲルベルクの不在、ユダヤ系演奏家の退団、運営体制の転換等により、演奏力が低下していた
  • 三代目ベイヌムはこれを再建し、昔日の栄光を取り戻した

 そしてそれ以降はその高水準を維持し続けているということのようですが、なにぶんこういったことは文献等に頼る以外に確認のしようもなく、その文献を執筆した人たちもおそらく自身の体験ではなく結局他で読んだり聞いたりしたことを書いているのでしょうから、まあそういうものか的な認識程度に留めておけばよいのではないでしょうか。

 なお「ロイヤル」は称号として与えられたものなので、「王立」と訳してしまうのは正しくないそうです。

 

(An die MusikクラシックCD試聴記)