コンセルトヘボウ管弦楽団のホームページ

文:青木さん

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 では最後にコンセルトヘボウ管弦楽団の公式HPを見てみましょう。もちろんこういうものは最初に参照すべきだったのでしょうが、英語を読むのが面倒なのでついあと回しにしてしまったという次第。しかしこのHP、実に美しいデザインです。深みのある紺とブラウンを基調にした暖かく渋めの配色、クリアではあるがエッジの柔らかい写真のレイアウト。コンセルトヘボウの音のイメージがそのまま視覚化されたかのような、まことに絶妙の意匠というべきでしょう。

 いろいろあるメニューの中に"The Orchestra"というサイトがありますのでさっそく開けてみますと、まず序文というか概説的な文章が出てきます。以下直訳。

《「ビロードのような」弦、金管群の「黄金の」音、そしてしばしば「典型的なオランダ風」と描写される木管の音色によって、コンセルトヘボウ管弦楽団は世界で最も知られた諸オーケストラの中にあって独特の位置を占めている。おびただしい演奏旅行と千に近い録音が、その名声に貢献してきた。》

 いきなり重要な記述が出てきました。世間でさまざまに表現されているコンセルトヘボウ管弦楽団の音色の特徴が、楽団の公式ホームページの中ではっきりと描写されているのです。よく読めば「世間ではこう言われてますよ」みたいなニュアンスもあるとはいえ、とにかく弦はベルベット、金管は黄金、木管は(具体的にはよくわかりませんが)オランダ風。これが一応の公式見解、であります。

  そして次の一文もこれまた重要です。「千に近い録音」。これは千を超えてはいないがそれに近い、という意味でしょうか。だとすればこれはかなり具体的な数字です。一つずつ数えてみた結果としてでなければこうは書けない。やはりコンセルトヘボウ当局は何らかのディスコグラフィ的なものを持っているに違いありません。それはこのHPのどこかに掲載されているのでしょうか。逸る心を抑えつつ、続きを読みましょう。

《1988年以来、リッカルド・シャイーが、楽団の輝かしい歴史において最初の非オランダ人首席指揮者であり続けている。彼の前任者のベルナルト・ハイティンクは最近名誉指揮者に任命された。マーラーやブルックナーといった後期ロマン派の巨匠の作品の演奏の伝統、そして現代の作曲家達との仕事は、楽団の演目を絶えず豊かなものとしてきた。コンセルトヘボウ管弦楽団を構成する115の優秀な音楽家の各人は、自身の楽器の名手であるだけでなく、楽団にそれ自身の個性的な音を与えてきた特別の演奏様式を共同で持続し合っているのである。》

 最後の方は構文がよくわからなくて適当に訳してしまいました。楽団員数は115名とのことで、ここをクリックすると楽団員についてのサイトへ飛ぶのですが、それはあとで見ることにして、先へ進みます。

《年間に平均120開催される演奏会のおよそ30は主要な国際的演奏会場で行われる。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、南北アメリカや中国・日本を含む極東の他に、ベルリン・パリ・ロンドン・マドリード・ザルツブルグ・ウィーンといった欧州都市の熱心な観客のために演奏を行う。しかしながらその堅固な基盤は、アムステルダム・コンセルトヘボウで開催される多様な一連の演奏会の上に基礎を置いている。そこで楽団は、過去110年間に渡って忠実な観客の支えを受けてきたのである》

 そうなのです。オーケストラの基盤はあくまでコンセルトヘボウにある。オーケストラ公式ホームページの序文がこのような一文で締めくくられていること自体、楽団とホールとの密接なる結びつきを表して余りあると言えましょう。
さて、その序文中のキーワードから関連するサイトを開くことができます。"history"をクリックしてみましょう。

《世界で最も美しい演奏会場の一つが1888年4月11日に開かれたとき、そして新たに設立されたコンセルトヘボウ管弦楽団がそこで最初の演奏会を行った(同年11月3日)とき、ネーデルランドには交響楽の伝統がほとんどなかった。最初の指揮者であるウィレム・ケスとウィレム・メンゲルベルクの素晴らしい指導の元で、コンセルトヘボウ管弦楽団は欧州を先導する管弦楽団の一つへと急速に発展した。》

 という調子で歴史が概観されています。ざっと読む分にはわかりやすい英語ですが、それなりに翻訳して文章化するのはやはり面倒ですので、以下は各自現物をご覧くださいませ。

 序文からは他にシャイーやハイティンクのプロフィール、マーラーとブルックナー等のサイトへ飛ぶことができます。その中で、先ほどあと回しにした"top musicians"を開いてみましょう。これによりますと過去10年間に定年退職で約45人の団員が入れ替わったとのことです。それでも団員の熱意も有名なサウンドも存続しているとありますが、やはりシャイー時代になってコンセルトヘボウの個性が弱まったと感じられるとすれば、これがその理由の一つかも知れません。さらにメンバー表を呼び出すことができます。さっそく人数を数えてみますと…

  • 弦:第一ヴァイオリン17,第二ヴァイオリン16,ヴィオラ14,チェロ13,コントラバス9(計69)
  • 木管:フルート4,ピッコロ1,オーボエ4,イングリッシュ・ホルン1,クラリネット5,バズーン5(計20)
  • 金管:ホルン7,トランペット5,トロンボーン4,チューバ1(計17)
  • その他:ティンパニ2,打楽器3,ハープ2,ピアノ1(計8)

 これを足しても114にしかならず、しかもそのうち3名は「空席」となっています。

 次に、序文の下の"More Information"を開きます。最初は"Formation"で、組織的な側面から再びオーケストラの歴史が述べられています。次は"The Chief Conductors"です。これを「首席指揮者」と訳すか「常任指揮者」と訳すかの手掛かりは、しかしここからは得られません。ケスからシャイーに至る5名が出てくるだけで、ヨッフムさえ無視されている始末。ただ、メンゲルベルクが1888年から、またハイティンクが1963年から、この「チーフ・コンダクター」の地位にあるとなっています。これが単なる誤植なのか、首席とも常任とも違う別の地位のことなのか、謎は深まるばかり。なおハイティンクは、25年間に及ぶチーフとしての功績を称えられ、1999年1月に名誉指揮者に任命されたとのことです。

 その先については既に見てきた内容の繰り返しが多いので割愛します。ここで最初のメニューに戻ると、"CD's"というのが目に入ります。ここにディスコグラフィがあるのではないか?という期待は、開いてみると裏切られてしまうのですが、一方で重要な情報が。

《コンセルトヘボウ管弦楽団は豊かな録音の伝統を誇ることができる。1926年5月にその最初の録音がウィレム・メンゲルベルクによって指揮された。それ以来、千を超える録音が世界中に供給され、毎年5から10枚の新しいCDが加わる。過去の録音の多くもまた再発売されてきている。ここでは10の最近の録音を選んでおり、それぞれに試聴用のサンプルが付いている。》

 というわけでリストとしてはわずか10枚が挙げられているに過ぎないのですがそれはさて措き、ここでは「千を超える録音が供給された」となっております。先ほどは「千に近い録音」だったはず。しかしこの「録音」とは、どういう単位でカウントしたものなのでしょうか。例えばあるセッションで2曲が録音され、数ヶ月後に別の1曲が録音され、この3曲がディスクに収められリリースされたという場合の「録音」というのは、「曲単位」で3と数えるのか、「録音回数」として2なのか、「ディスク」でのカウントで1なのか。千という数字の持つ意味はさまざまです。

 こういった疑問にも応えてくれるような書籍が、この次の"BOOKS"のサイトで紹介されているのではないか? という期待は、どうもまた裏切られたようであります。《コンセルトヘボウ管弦楽団の豊かな歴史と伝統は、定期的に優れた出版物の対象である》などといいながら、紹介されているのは「コンセルトヘボウと受難曲の伝統」「1904年から1921年のコンセルトヘボウの肖像」の二冊だけ。録音リストと文献リストの充実が、コンセルトヘボウ管弦楽団のホームページに求められる最重要課題であると言えましょう。

 

(An die MusikクラシックCD試聴記)