PHILIPSのCD
CDが発売された当初、フィリップスのCDはすべて輸入盤で、それに解説書とオビを付けて国内盤としていました。DGやデッカは国内仕様のジャケットというかライナーノーツを制作していましたが、CD盤そのものはやはり輸入していました。これは、サウンドのクオリティを一定の水準に保つためにディスク自体はドイツで一括製造しているからだと、何かで読んだ記憶があります。しかし日本国内制作盤のクオリティが認められたことと生産量が急増してドイツだけでは対応しきれなくなったことから、DGやデッカは間もなくCD盤の国内製造を始めましたが、フィリップスはその後もしばらく輸入盤の国内仕様化という方式が続いたと記憶しています。やがて1989年の廉価盤「グロリア・シリーズ」あたりから国内製造が始まりました(左写真がグロリア・シリーズの紙ジャケット)。
この場合、単に工場でのディスク製造だけでなく、マスタリングや旧録のリマスタリングという音作りの作業の部分から、日本において日本のエンジニアが行うらしいのです。これはつまり上で引用した「フィリップス・レコーディング・センター」における「ミュージカル・アブルーヴァル」の行程を経ていないということになるのでしょうか。コンセルトヘボウ管弦楽団の録音を輸入盤と国内盤(特に廉価盤)とで聴き比べた場合、明らかに輸入盤の方が音がよいというか、コンセルトヘボウの特性がより顕著に再生されてくるとケースが多々あるのです。この問題についてはもっと調査研究が必要と思われますので、これ以上は触れないこととします。ちなみに、高品質録音が売り物であるマーキュリー・レーベルのCDは、未だに日本国内での製造が認められておらず輸入盤の国内仕様化という形態を余儀なくされているらしいのですが、この問題と大いに関連があるものと推察されます。
フィリップスの場合、国内廉価盤には別の問題もあります。たいしたことではありませんが、ジャケット上部のフィリップス・ブラウンのラインの中に入る金色の細ラインが、単なる白ラインであることが多いのです。これではフィリップス特有の高級感が著しく損なわれてしまいます。しかし数年前にジャケットの基本デザインが一新され、輸入盤・国内盤ともフィリップス・ブラウンのライン自体が廃止されてしまったため、この格差はいちおう解消された格好になっています。しかし、新譜のアートワークの思いきった現代化とあいまって、レギュラー盤の落ち着いた高級感もなくなってしまいました。
ちなみに昔のLPについては、フィリップスのものは他社と比べて音溝の濃淡がギラギラと濃くて、いかにもカッティング・レベルが高く音が良さそうなイメージが視覚的にもありました。その分ホコリも付きやすく、取り扱いは面倒でしたが。
(An die MusikクラシックCD試聴記)