ルドルフ・ケンペ生誕100周年記念企画
「ケンペを語る 100」ケンペの小品集LPをCDで再現してみる
ワタシがケンペに興味を抱いたのはおそらく皆さんよりずっと遅く、このAn die Musikにお世話になりはじめたのがキッカケだったので、ほとんど今世紀に入った時分。すでに各種音源のCD化が進んでいたりちょうど評伝本が出たり、という状況でした。50〜60年代のEMI音源の多くは、最初から12枚組ボックスセットをはじめとするテスタメントの復刻CDで一気に入手。中古店で廃盤を探しまわるという類の手間もかからず効率はよかったんですが、気になるのは元のLPの形態です。英テスタメント社に対しましては、復刻にかける熱意と実行力にはマキシマム・リスペクトを、リマスタリング等の音質面にはそれなりの敬意を表するものの、CDの体裁に関しては疑問が多い。色気なさすぎのジャケットは言うに及ばず、納得しがたいカプリング替えも多数。見る影もなく無残に解体されたマルケヴィチの「ディアギレフに捧ぐ」など、全くいただけないものでした。
それと同種のバラバラ疑惑が、ケンペの12枚組に含まれている小品集のディスクにも浮上。ブックレットのクレジットを見ると録音時期やマトリクス・ナンバーが同じなのに別々のCDに振り分けられている、という曲がいくつもあるのです。これではまるでランダム・シャッフル再生を強制されているようで、聴いていてどうにも落ちつかない。元のLPの正しい組み合わせや曲順でもってケンペの音楽を味わえないものか。
それをやってみようというのがこの企画です。そんなことに意味があるのか、と感じた方は読み飛ばしてくださいまし。LP1枚分の大曲等はべつに問題ないので、今回は小品が集中しているウィーン・フィル録音に絞りました。『指揮者ケンペ』(尾埜善司,芸術現代社,2000)でウィーン・フィルとの全録音が、曲単位のディスコグラフィとはべつに本文中において「アルバム単位」で記載されているので、そのとおりに並べかえてみるだけなんですけど。
1.素材CDのリスト
〔用意したCD〕
テスタメントの12枚組ボックスセット ”Rudolf Kempe – A Testament”(SBT12 1281/分売あり)から、ウィーン・フィルの演奏を含む下記の5枚 テスタメントからべつに出ている一枚モノ ”Vienna Philharmonic ‘On Holiday’”(SBT1127) 同じくチャイコフスキーの交響曲第6番他(SBT1104)
〔注記〕
- 下記リストの左端の番号は曲単位に振った便宜上のもので、CDトラック・ナンバーではありません
- 下記リストの赤文字は、ケンペがカペレと再録音した曲 (大名盤「ジルヴェスター・コンサート」に収録)
[CD4] (分売はSBT1272)
ベルリオーズ :
4-1 幻想交響曲 op.14(ベルリン・フィル)
録音:1959.5.3.
Matrix No.:SXLP20088(66/10)4-2 序曲「ローマの謝肉祭」 op.9
録音:1958.12.21.
Matrix No.:ASD330(60/2)[CD6] (分売はSBT1274)
ワーグナー :
6-1 歌劇「ローエングリン」から 第1幕への前奏曲
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG71806-2 歌劇「ローエングリン」から 第3幕への前奏曲
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG71806-3 舞台神聖祭典劇「パルジファル」から 第1幕への前奏曲
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG71806-4 舞台神聖祭典劇「パルジファル」から 聖金曜日の音楽
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG71806-5 楽劇「トリスタンとイゾルデ」から 前奏曲と愛の死
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG7180[CD7] “Viennes Favourites” (分売はSBT1275)
7-1 J.シュトラウスT世 : ラデツキー行進曲 op.228
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)7-2 J.シュトラウスU世 : 喜歌劇「こうもり」序曲
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)7-3 J.シュトラウスU世 : 皇帝円舞曲 op.437
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)7-4 J.シュトラウスU世 : 喜歌劇「千夜一夜物語」から 間奏曲
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)7-5 J.シュトラウスU世 : ワルツ「ウィーンの森の物語」 op.325
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)7-6 J.シュトラウスU世 : ポルカ「クラップフェンの森で」 op.336
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)7-7 ヨーゼフ・シュトラウス : ワルツ「ディナミーデン」 op.173
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)7-8 ヨーゼフ・シュトラウス : ワルツ「天体の音楽」 op.235
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)7-9 レハール : ワルツ「金と銀」 op.79
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)7-10 ホイベルガー : 喜歌劇「オペラ舞踏会」序曲
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)[CD8] “Overtures” (分売はSBT1276)
8-1 メンデルスゾーン : 序曲「フィンガルの洞窟」 op.26
録音: 1958.12.18-19,21-22.
Matrix No.:ASD330(60/2)8-2 ウェーバー : 歌劇「オベロン」序曲
録音: 1958.12.18-19,21-22.
Matrix No.:ASD330(60/2)8-3 レズニチェク : 歌劇「ドンナ・ディアナ」序曲
録音: 1958.2.18-19.
Matrix No.:ASD279(59/6)8-4 ニコライ : 歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
録音: 1958.12.19,22.
Matrix No.:ASD330(60/2)8-5 シューベルト : 劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」D.797から 序曲/間奏曲第3番/バレエ音楽第2番
録音: 1961.12.11-12,15.
Matrix No.:ASD4788-6 スメタナ : 歌劇「売られた花嫁」序曲
録音: 1958.12.22.
Matrix No.:ASD3308-7 スッペ : 喜歌劇「ウィーンの朝・昼・晩」序曲
録音: 1958.2.18-19.
Matrix No.:ASD2798-8 J.シュトラウスU世 : ポルカ「浮気心」 op.319
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431[CD9] (分売はSBT1277)
9-1 ヘンデル : 王宮の花火の音楽(バンベルク響)
録音: 1962.5.
Matrix No.:STE704959-2 グルック(モットル編曲) : 「バレエ組曲」
録音: 1961.12.12-13.
Matrix No.:ADS478(62/9)9-3 コダーイ : 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」
録音: 1961.12.17.
Matrix No.:ADS494(62/12)[SBT1127] “VIENNA PHILHARMONIC “ON HOLIDAY”
13-1 マスカーニ : 「友人フリッツ」から 間奏曲
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-2 ポンキエリ : 「ジョコンダ」から 時の踊り
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-3 シュミット : 「ノートルダム」から 間奏曲
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-4 グノー : 「ファウスト」から ワルツ
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-5 バイエル : 「バレエ音楽」から 人形の妖精
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-6 オッフェンバック : 「天国と地獄」から 序曲
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-7 ゴドヴァッツ : 「あの世から来た悪漢」から コロ舞曲
録音: 1961.12.17.
Matrix No.:ASD494(62/12)13-8
(8-5)シューベルト : 劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」D.797から 序曲/間奏曲第3番/バレエ音楽第2番
録音: 1961.12.11,12,15.
Matrix No.:ASD478(62/9)13-9
(9-2)グルック(モットル編曲) : 「バレエ組曲」から 精霊の踊り
録音: 1961.12.11,12,15.
Matrix No.:ASD478(62/9)[SBT1104]
14-1 チャイコフスキー : 交響曲第6番 op.74 「悲愴」(フィルハーモニア管)
録音:1957.5.5-6.
Matrix No.:ALP1566(58/9)14-2 チャイコフスキー : 組曲第3番から 主題と変奏曲
録音: 1961.12.16,17.
Matrix No.:ADS494(62/12)以上すべて ルドルフ・ケンペ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (4-1,9-1及び14-1を除く)
2.LPカプリングの再現
では、これらの曲を『指揮者ケンペ』の記載に沿って並べなおし、オリジナル・アルバムを再現していきます。いずれも、CDブックレットにクレジットされたマトリクス・ナンバーがきれいに揃いました。
(1)【ウィーンの夜 VIENNESE NIGHTS】
8-7 スッペ : 喜歌劇「ウィーンの朝・昼・晩」序曲 (8:15)
録音: 1958.2.18-19.
Matrix No.:ASD2797-10 ホイベルガー : 喜歌劇「オペラ舞踏会」序曲 (7:18)
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)7-2 J.シュトラウスU世 : 喜歌劇「こうもり」序曲 (8:17)
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)7-9 レハール : ワルツ「金と銀」 op.79 (8:56)
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)8-3 レズニチェク : 歌劇「ドンナ・ディアナ」序曲 (3:58)
録音: 1958.2.18-19.
Matrix No.:ASD279(59/6)7-8 ヨーゼフ・シュトラウス : ワルツ「天体の音楽」 op.235 (8:31)
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)7-1 J.シュトラウスT世 : ラデツキー行進曲 op.228 (3:01)
録音: 1958.2.12,19-20,22.
Matrix No.:ASD279(59/6)まず一枚目。第一曲が「朝・昼・晩」なのにアルバム・タイトルが「夜」というのが、なんだかよくわからない。「天体の音楽」があるからか。演奏時間から見て、3曲目までがA面で残りの4曲がB面でしょう。とすると、ケンペ自身が満足していた録音だという「金と銀」はB面1曲目。A面1曲目に次ぐ「よい位置」に配されていることになりますが、レコード制作時の曲順決定には指揮者の意向が反映されるものなんでしょうか。とはいえ7曲中でもっとも感銘を受けるのはやはり「金と銀」なので、この順序で聴いてみると、それが全体の中間に置かれていることによってアルバムの構成にメリハリのある流れができているように感じます。喜歌劇の序曲を並べたA面には統一感もありますし、ラデツキーでシメるのも気が利いている。
(2)【ワーグナー序曲集 WAGNER ORCHESTERMUSIK】
6-5 楽劇「トリスタンとイゾルデ」から 前奏曲と愛の死 (18:26)
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG71806-1 歌劇「ローエングリン」から 第1幕への前奏曲 (9:01)
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG71806-2 歌劇「ローエングリン」から 第3幕への前奏曲 (3:20)
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG71806-3 舞台神聖祭典劇「パルジファル」から 第1幕への前奏曲 (15:43)
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG71806-4 舞台神聖祭典劇「パルジファル」から 聖金曜日の音楽 (12:34)
録音: 1958.2.10-13,17.
Matrix No.:SG7180これはLPとCDがほぼ一致していて、シンプル明快。ケンペはこの数年前にベルリン・フィルとワーグナー集をモノラル録音していますが、第二弾となる当アルバムはゆったりした曲ばかりが並んでいるので、ちょうど中間にある短い「ローエングリン第3幕への前奏曲」がいいアクセントになっている。ところがかつて出ていた国内盤LPやCDには、なぜかこの曲だけ入っていなかったそうです。録音順でいえばこれが上記「ウィーンの夜」に先立つ第一弾。ウィーン・フィルにとっては久々のEMI復帰となった録音で、その復帰のキッカケはウィーン・フィルとデッカとの関係悪化、そして悪化の原因はショルティだった・・・といったことがカルショーの『レコードはまっすぐに』(山崎浩太郎訳,学習研究社,2005)の第20章に書かれています。
(3)【序曲集 OVERTURES】
8-6 スメタナ : 歌劇「売られた花嫁」序曲 (7:06)
録音: 1958.12.22.
Matrix No.:ASD3308-4 ニコライ : 歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲 (8:54)
録音: 1958.12.19,22.
Matrix No.:ASD330(60/2)8-2 ウェーバー : 歌劇「オベロン」序曲 (9:48)
録音: 1958.12.18-19,21-22.
Matrix No.:ASD330(60/2)8-1 メンデルスゾーン : 序曲「フィンガルの洞窟」 op.26 (10:32)
録音: 1958.12.18-19,21-22.
Matrix No.:ASD330(60/2)4-2 ベルリオーズ : 序曲「ローマの謝肉祭」 op.9 (9:25)
録音:1958.12.21.
Matrix No.:ASD330(60/2)歌劇の序曲と演奏会用序曲が混ざっていて、作曲者の国籍もバラバラ、どうもまとまりに欠ける「序曲集」です。しかしそれは選曲を見たときのイメージであり、実際に通して聴いてみるとべつに違和感はなく、むしろ統一感があるとさえ思わせる。それは、標題性や地域性にとらわれない、いわゆる「純音楽的な演奏」(←いつも思うけど妙な表現)だからでしょう。これほど風景が浮かんでこない「フィンガル」も珍しいけど、それが別にマイナスになっているわけでもない。ともあれ、これは名演揃いの一枚だと思います。「ローマの謝肉祭」も、「幻想」にくっつけるよりはこの位置のほうが納まりがいいし。
ここまでの前半3枚を聴いた時点での感想を、円グラフにしました。「べつやくメソッド」というやつです。
(4)【ウィーンのボンボン BONBONS VIENNOIS 】
7-5 J.シュトラウスU世 : ワルツ「ウィーンの森の物語」 op.325 (12:08)
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)8-8 J.シュトラウスU世 : ポルカ「浮気心」 op.319 (2:37)
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD4317-7 ヨーゼフ・シュトラウス : ワルツ「ディナミーデン」 op.173 (8:03)
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)7-4 J.シュトラウスU世 : 喜歌劇「千夜一夜物語」から 間奏曲 (6:58)
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)7-6 J.シュトラウスU世 : ポルカ「クラップフェンの森で」 op.336 (4:24)
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)7-3 J.シュトラウスU世 : 皇帝円舞曲 op.437 (10:30)
録音: 1960.12.21-22.
Matrix No.:ASD431(61/11)前作から丸2年のインターバルで録音された本作は、J.シュトラウスU世のワルツ「ウィーンのボンボン」が入っていないにもかかわらず「ウィーンのボンボン」というタイトルが付けられた、まぎらわしいアルバム。エマーソン・レイク&パーマーの「恐怖の頭脳改革」みたいです。内容的には堂々たる「シュトラウス集」であり、当時ウィーン・フィルを指揮してこういうものを録音できた指揮者は限られていたのではないでしょうか。しかしその出来栄えは異色といってもよさそうなもので、いかにもな雰囲気は乏しくてちょっと無骨な、しかし実に立派な演奏が並んでいます。ウィーン・フィルの面々がどんな気分でこれを演奏したのか気になりますが、ケンペ自身は大いに楽しんで指揮したに違いないと思わせる、そんなアルバム。
(5)【ロザムンデほか】
8-5
(=13-8)シューベルト : 劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」D.797から 序曲/間奏曲第3番/バレエ音楽第2番 (22:23)
録音: 1961.12.11-12,15.
Matrix No.:ASD4789-2
(一部13-9)グルック(モットル編曲) : 「バレエ組曲」 (19:24)
録音: 1961.12.12-13.
Matrix No.:ADS478(62/9)ここからの3枚は録音年月日が1961年12月12日〜18日に集中しているので、その一週間のセッションで大量収録された音源が3枚のアルバムに振り分けられたことになります。このアルバムはLP片面ずつの組曲が二曲だけ、そのわりにはこれも「小品集」ぽい印象。B面の「バレエ組曲」というのは、グルックの歌劇やバレエ音楽(大半は「アウリスのイフィゲニア」、その他に「ドン・ファン」、「オルフェオとエウリディーチェ」、「アルミード」)からモットルが選曲・編曲して構成したものだそうです。その第2曲が有名な「精霊の踊り」で、この曲とロザムンデの全曲は、12枚組CDに入っているにもかかわらず、”Vienna Philharmonic ‘On Holiday’”(SBT1127)にもダブって収録。
(6)【ウィーン・フィルの休日 ON HOLIDAY】
13-1 マスカーニ : 「友人フリッツ」から 間奏曲 (4:07)
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-2 ポンキエリ : 「ジョコンダ」から 時の踊り (9:17)
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-3 シュミット : 「ノートルダム」から 間奏曲 (3:33)
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-4 グノー : 「ファウスト」から ワルツ (5:16)
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-5 バイエル : 「バレエ音楽」から 人形の妖精 (10:53)
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)13-6 オッフェンバック : 「天国と地獄」から 序曲 (9:28)
録音: 1961.12.14,15,17,18.
Matrix No.:ASD525(63/8)まるでカラヤンやオーマンディが作りそうな「ザ・小品集」的な雰囲気は、このアルバムがもっとも濃厚。しかし内容は必ずしも「名曲集」というわけではなくマイナーな作品も入っているし、表題に反してあんまりホリデーぽくない曲もあります。休日なんだからお仕事を離れて好きな曲だけ演奏してみました、という意味のタイトルなのかも。CDジャケットも私服ですし。そのテスタメントの同名CDはちゃんとこの順での収録となっており、たいへん結構かと存じます。最後の「天国と地獄」で急に音がショボくなったように感じたのですが、聴きなれたパレー盤あたりと無意識に比較しての感想かもしれません。
(7)【ハーリ・ヤーノシュほか】
9-3 コダーイ : 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」 (24:38)
録音: 1961.12.17.
Matrix No.:ADS494(62/12)14-2 チャイコフスキー : 組曲第3番から 主題と変奏曲 (18:52)
録音: 1961.12.16,17.
Matrix No.:ADS494(62/12)13-7 ゴドヴァッツ : 「あの世から来た悪漢」から コロ舞曲 (7:25)
録音: 1961.12.17.
Matrix No.:ASD494(62/12)12枚組CDが出たときに輸入元レコード会社だか大手輸入CDショップだかが作成した宣伝用紹介文の中に、こんな一節がありました。「ユーモアのセンスも抜群だったケンペだけに、初CD化となるハーリ・ヤーノシュは大いに注目に値します」。これだけ読むと、楽曲のユーモラスな側面を強調した描写的な演奏かと早合点してしまいそうですが、実際にはぜんぜん違います。売る側の宣伝文句など、評論家の迷文以上にアテにならないことは分かっていますけど、まぁいい加減なもんですねぇ。それにしてもハンガリー、ロシアときて旧ユーゴスラビア・・・いかにも「その他」テイストあふれる組み合わせのアルバムながら、それぞれは聴きごたえある楽曲であり演奏でもあるので、もれなく12枚組のほうに入れて欲しかった。
後半4枚を聴いた時点での感想を、円グラフにしました。
3.まとめ
というわけで、元のLPの正しい組み合わせや曲順でもって、心おきなく音楽を味わうことができました。なお実際の作業としては、CDをパソコンに取り込んだ上でデジタル・ウォークマン内のフォルダ構成を組みなおしただけです。前記のカプリングでCD-RにコピーしたりLPジャケット画像をネットで拾ってCD紙ジャケットを自作したりすればさらに気分が盛り上がると思われますので、マメな方はお試しください。とはいえそんなことをしようがすまいが、LP曲順の再現など単なる自己満足に過ぎず、それ以上の意味や成果は何もございませんです。テスタメント社の方がこれを読んで反省してくださるとも思えないし。そしてうすうす予想していたことながら、各楽曲の演奏そのものに対する感想は、どんな順序で聴こうがほとんど変わりませんでした。
今回聴いた管弦楽小品には、ほぼすべてにタイトルが付いています。ストーリー性を持つ大曲の一部だったり、特定の場所の地域性や風習等に結びついていたり、実際に標題音楽だったり、その内容はさまざまながら、番号しか与えられていない抽象的な交響曲や協奏曲とちがって「具体性のある何か」が備わっている。小品集のアルバムが親しみやすいのも、もちろんそれが一因。しかしケンペの音楽づくりは、そういった側面がほとんど意識されていないようです。「背景にあるストーリーをうまく描写しよう」とか「ウィーン情緒をたっぷりと」とか「このタイトルの意味を表現して・・・」とか、そんなことはお呼びでない。付随的な要素は脇におき、あくまで楽曲ありき。かといって単にスコアを音に置き換えることだけに徹しているわけでもなく、その楽曲への共感や愛情が伺えるとともに、なんともいえない「粋なセンス」が加味されているように感じます。そして、どうもうまく表現できないその音楽的センスは、かの名匠エドゥアルド・ヴァン・ベイヌム先生にも共通するものであるように思われるのです。
4.その他
■補足 ケンペとウィーン・フィルの小品集は、1998年3月に国内盤CDが出ています。EMI音源を使って新星堂が発売した「栄光のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団U/その指揮者とソリストたち」シリーズ。今回採りあげた曲のうち、ワーグナー「ローエングリン第3幕への前奏曲」を除く全曲が、「シュトラウス集」「ワーグナー集」「序曲集」「管弦楽曲集1」「管弦楽曲集2」の5枚のCDに収められ分売されました。オリジナルの体裁に配慮がないという点ではテスタメントと大差ないものの、CD収録時間に合わせて再構成したものとしてはかなりスッキリしている編集だと思います。
■追記
ついでに、12枚組のCD10〜CD12に収められているロイヤル・フィルとの録音についても、オリジナル・カプリングを確認しておきます。といってもブラームス4番とシェエラザードはそれぞれ1曲でLP1枚ずつ。61年1月録音のフンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」とメンデルスゾーン「真夏の夜の夢」でLP1枚(Matrix No.: ADS460)。同時録音のスメタナ「売られた花嫁」+ドヴォルザーク「スケルツォ・カプリチオーソ」+ヴァインベルガー「バグパイプ吹きのシュヴァンダ」の3曲でLP1枚(Matrix No.: ADS449)。以上。最後のアルバムには”MUSIC FROM BOHEMIA”というタイトルが付けられていたそうです。
■余談
「ハーリ・ヤーノシュ」のところで、「ユーモアのセンスも抜群だったケンペ云々」という宣伝文を引用しました。実際のところケンペ氏の人となりはどうだったんでしょうか。ワタシはまだよくイメージできないんですが、テスタメントから出たベルリン・フィルとのブラームス交響曲全集のジャケットを見てからは、「笑いのセンスがある人」だと勝手に思いこんでいます。図版参照。
図1
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図2
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(2010年10月19日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記)