Belafonte at Carnegie Hall

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CDジャケット

「Belafonte at Carnegie Hall」
ヴォーカル:ハリー・ベラフォンテ
録音:1959年
RCA(国内盤 BVCP-8713)

 「ハリー・ベラフォンテ」。この名前をご存知ですか? きっと初耳の方が多いでしょう。では「バナナ・ボート」という曲は? え? これも知らない? それなら、「デーオ、デェェォ...」という、のどかなかけ声で始まる音楽("Day O")はどうでしょうか。これなら誰でもご存知のはず。

 ハリー・ベラフォンテは1927年生まれ。西インド諸島出身の父親、ジャマイカ等出身の母親の血を引いています。一時はカリブ海の島で育ちました。カリブの音楽カリプソを土台にした音楽はその頃の影響が濃厚です。

 今では、ベラフォンテの歌としては「バナナ・ボート"Day O"」ばかりが有名です。誤解していただきたくないので断っておきますと、私はここで別に「バナナ・ボート」を絶賛したいわけではありません。申し訳ありませんが、私はいまだかつてあれが名曲だと思ったことはないのです。もっといい曲のすばらしい歌唱がたくさんあります。

 ベラフォンテは天性の伸びやかな声がある上に、確かな歌唱技術がありますから、世界各地のいろいろな曲を歌って聴衆を楽しませてくれました。ショウマンとしても一流で、この二枚組CDでも、その巧みな話術にどんどん引き込まれてしまいます。しかし、話術は二の次、三の次。このCDを聴いていつもすばらしいと思うのは、ベラフォンテが自分の歌だけで勝負していることです。バックには47人編成のビッグ・バンドが控えていますが、それはほとんど脇役にしか過ぎず、ベラフォンテはひたすら自分ののどを聴かせます。時に1959年。ロックが世界の音楽シーンを席巻する直前です。アコースティック楽器による伴奏と、明るく伸びやかなカリブの声が最高の調和を見せ、カーネギー・ホールの聴衆までが音楽に溶け込んで独特の雰囲気を出しています。これぞ、古き良き時代の音楽です。

 CDの解説によれば、このコンサートは三つのセクションに分かれています。第1部は「アメリカ黒人の心」、第2部は「カリブの島々から」、第3部は「世界の歌めぐり」となります。

 「アメリカ黒人の心」では、文字通り自分のルーツである黒人の心を歌い上げます。有名な曲では「聖者の行進」があります。

 「カリブの島々から」ではぐっと印象が変わります。だんだん異国情緒が出てきて、ベラフォンテはノリに乗ってきます。このセクションが、「バナナ・ボート」で始まるのはいうまでもありません。が、最大の聴き物は続く「さらばジャマイカ」です。この曲はベラフォンテによれば、「ジャマイカの水夫たちが遠い国のよその港へと船出していくときに必ず歌った」ものだそうな。確かにそんな感じがします。自分の故郷を遠く離れて田舎のキングストン・タウンの風景を思い出す水夫。ベラフォンテはそっと語りかけるようにこの曲を歌いますが、それ故に心にしみ入ります。

 さて、舞台はどんどん盛り上がり、「世界の歌めぐり」に入ります。「ダニー・ボーイ」「シェナンダー」そして十八番の「マチルダ」など、世界の名曲が登場。最後に歌われる「マチルダ」は聴衆を巻き込んで延々12分も歌っています。ですが、私のお気に入りはこれらの曲ではありません。イスラエル民謡の「ハヴァ・ナギラ」とメキシコの悲恋物語「ク・ク・ル・ク・ク・パローマ」です。

 「ハヴァ・ナギラ」は、ヘブライ語で歌われ、ユダヤの熱狂を思わせる異常な盛り上がりを示します。ベラフォンテの歌は聴衆を音楽に引きずり込まずにはいません。その吸引力足るや、恐るべし。それ以上にすごいのが、「ク・ク・ル・ク・ク・パローマ」。解説によれば、「死んだ女を思うあまり、ついに自分もそのあとを追った男が、死後鳩になってなおも彼女を慕って鳴きつづけるという深刻な内容」です。この深刻な内容とは裏腹に、音楽はやたらめったら明るいイントロで始まります。そして、気分が高揚し、音楽の化身となったベラフォンテは、鳩になった男の気持ちを痛切に歌い上げます。これはまさにベラフォンテの絶唱。何度聴いても感動します。この2枚組CDは「ク・ク・ル・ク・ク・パローマ」一曲を聴くために買ったとしても損はしません。それほどの熱演であります。

 さて、私はどうしてこのCDを知ったか。とある音楽雑誌で、オーディオ機器のリファレンスに使われていたからです。はじめ私は「何でベラフォンテが?」と思いました。が、よく考えてみると、リファレンスには下らないCDはほとんど使われないはずです。何度も繰り返し聴くことができないからです。だから、私はダメモトで買ってみたのです。結果は大正解。買って以来、数限りなく聴きましたが、飽きることがありません。ちなみに、リファレンスに使われていた曲は「ク・ク・ル・ク・ク・パローマ」でした。誰がこの曲をリファレンス用に選んだか、その雑誌が手許にない今となっては知る由もありません。が、オーディオ評論家の方々もいい曲を聴いているなあ、と思います。

 そうそう、オーディオ機器のリファレンスCDになるくらいですから、音質は信じられないほどすばらしいです。ベラフォンテのよく通る声が歪みのない録音でとらえられています。1959年、既に録音技術は極められていたのではないでしょうか。

収録曲

Disc 1
第1部「アメリカ黒人の心

  • 序奏 Introduction
  • いとしのコーラ Darlin' Cora
  • シルヴィ Sylvie
  • コットン・フィールズ Cotton Fields
  • ジョン・ヘンリー John Henry
  • テイク・マイ・マザー・ホーム Take My Mother Home
  • 聖者の行進 The Marching Saints

第2部「カリブの島々から」

  • バナナ・ボート Day O
  • さらばジャマイカ Jamaica Farewell
  • マン・ピアバ Man Piaba
  • 私の試練 All My Trials

Disc 2

  • ママ・ルック・ア・ブー・ブー Mama Look A Boo Boo
  • 帰りませライザ Come Back Liza
  • マン・スマート Man Smart (Woman Smarter)

第3部「世界の歌めぐり」

  • ハヴァ・ナギラ Hava Nageela
  • ダニー・ボーイ Danny Boy
  • 親切な神様 Merci Bon Dieu
  • ク・ク・ル・ク・ク・パローマ Cu Cu Ru Cu Cu Paloma
  • シェナンダー Shenandoah
  • マティルダ Matilda
 

1999年7月16日、An die MusikクラシックCD試聴記