小さな巨人 ペトルチアーニ
ミシェル・ペトルチアーニ(MICHEL PETRUCCIANI)。フランスのジャズ・ピアニストです。ご存知ない方のために写真を貼りつけてみます(上の写真ご参照)。
とてもショッキングな写真ですね。ペトルチアーニの身長は1メートル程度。先天性骨疾患のため、身長がそれ以上伸びませんでした。しかし、彼はそのような障害をものともせず、ピアノの腕に磨きをかけ、1981年CDデビューを果たしました(OWL 7897702)。ジャズ界ではたちまち話題をさらい、有力なピアニストとして将来を嘱望されていました。しかし、1999年1月6日、急性肺炎によってニューヨークで亡くなっています。享年36歳。
ペトルチアーニは大変な人気がありました。ハンディキャップを背負ったピアニストだから、判官贔屓があったのではと考えがちですが、決してそうではありません。ペトルチアーニが天才だったからです。身体は小さく、ハンディキャップは背負っていましたが、もしこの人の写真を見なければ、誰もそうだとは分からないでしょう。おそらく、筋骨逞しい巨人を想像するはずです。ペトルチアーニのピアノは豪快であり、ロマンチックであり、繊細であり、メランコリックであり、痛快です。一人でこれほど多彩な表現ができるピアニストはジャズ界には希少でした。ピアノは音域を端から端まで使い切るように鳴らしています。それはそれはかっこいいです。ノリノリのリズムの中で自作の痺れるようなメロディーを弾きはじめると、会場は騒然、拍手が湧き起こります。誰もがこの小さな巨人のピアノに酔いしれたことでしょう。
私は昔CDショップでふとペトルチアーニの演奏する曲を聴き、「これはただ者ではない」と直感、すぐ店員さんに尋ねました。それが最初の出会いでした。以来、ペトルチアーニのCDはすべて買い込み、夢中になって聴きました。さすがに出来映えには差がありますが、エディ・ルイスとの共演盤やパリ・シャンゼリゼ劇場、フランクフルト・アルテ・オパーにおけるソロ・ライブ録音などは傑作中の傑作と言えます。
まずはエディ・ルイスとの共演盤です。
EDDY LOUISS/MICHEL PETRUCCIANI
Conference de presse
Eddy Louiss:Hammon organ
Michel Petrucciani:piano
録音:1994年6月
DREYFUS (輸入盤 FDM36568-2)収録曲
- LES GRELOTS
- JEAN-PHILIPPE HERBIEN
- ALL THE THINGS YOU ARE
- I WROTE YOU A SONG
- SO WHAT
- THOSE FOOLISH THINGS
- AMESHA
- SIMPLY BOP
これは、ハモンド・オルガンとの珍しい組み合わせでペトルチアーニの天才を十二分に味わえる名録音です。ピアニスティックなフレーズに事欠かないばかりか、軽快なリズムに乗って聴衆が興奮の絶頂に達する様が聴き取れます。ジャズというジャンルを越えた傑作ライブです。エディ・ルイスとは同じようなCDがもうひとつあり、これもお薦めです。私はばら売りのCDを所有していますが、最近では2枚セットになったようです。甲乙つけがたい出来ですから、セットで買った方がいいでしょう(AUTUMN LEAVES,CARAVAN,SUMMERTIME等を収録。DREYFUS FDM 36573-2)。
それと本命盤を。我が家ではお客様が来るたびにBGMにこのCDを流しています。そうすると、ほぼ例外なく「この素敵な音楽は一体何?」と尋ねられます。
MICHEL PETRUCCIANI
Au Theatre des Champs-Elysees
Michel Petrucciani:piano
録音:1994年11月14日
DREYFUS(輸入盤 FDM36570-2)収録曲
CD1
- MELODY OF MY FAVORITE SONGS
- NIGHT SUN IN BLOIS
- RADIO DIAL/THESE FOOLISH THINGS
CD2
- I MEAN YOU/ROUND ABOUT MIDNIGHT
- EVEN MICE DANCE/CARAVAN
- LOVE LETTER
- BESAME MUCHO
ソロ・アルバムの傑作としてシャンゼリゼ劇場のペトルチアーニをご紹介しましょう。これは2枚組のライブ録音で、冒頭、40分にわたるメドレーが収録されています。これはペトルチアーニが好きな曲を思うままに演奏したものですが、それを延々40分も演奏し続けるのです。その演奏は深刻に開始され、熱狂的に終わります。演奏される曲はジャズのスタンダードから友人の曲、自作など多彩です。有名な曲でなくても、ペトルチアーニのピアノはとても雄弁ですから、聴き始めればずっと音楽に釘付けにされるでしょう。ペトルチアーニはキース・ジャレットのように自己陶酔的にならず、また、聴衆が飽きないように緩急自在の選曲をしています。天才ペトルチアーニの気力・体力はこの頃が絶頂に達していたようです。
2000年4月28日、An die MusikクラシックCD試聴記