ブラームスのドッペルコンチェルトを聴く
文:のむさん
ブラームス
バイオリンとチェロのための2重協奏曲ほか
セル指揮クリーブランドオーケストラほか
録音:1969年、クリーブランド
EMI CLASSICS (輸入盤 CDM 7 64744 2)
(左CDジャケットは国内盤 TOCE-3133)LP時代からのお気に入りを1枚紹介させていただきたい。セル・クリーブランドと、バイオリンのオイストラフ、チェロのロストロポービッチが競演したブラームスのドッペルコンチェルトである。
ブラームスの第5交響曲などと一部の人が呼ぶこのコンチェルトは、彼の晩年の作らしく、極めて簡潔で充実した筆致で書かれており、ソロも派手ではないが、以外にも演奏効果の高い傑作なのだが、やはり、すぐれたソリストを二人用意し、しかもバラバラにならない演奏をとなるとなかなか難しい。
そんな中で、この演奏はソリストの役者としては申し分ないのだが、デュエットとしても、それぞれの個性が発揮されつつ息のあった掛合いとなっていて、聞き物である。さらに、セルの演奏が、これまたきびきびしていて心地よい。
第1楽章冒頭、セルらしい厳しい響きで開始された直後、チェロの骨太のカデンツアが開始され、柔らかい第2主題がオケで奏されるとバイオリンの甘い音色が響いてくる・・そこはすでにブラームスの内面的な世界だ。
そして両ソロの掛合いが高まっていくと、オケのパワー全開で提示部が確信に満ちた表情で奏される。この第1主題は3連符が間延びして聞こえる演奏が多いのだが、セルでは非常に引き締まっていてだれることはない。
その後も二人のソロと、セル指揮のオケという、まるでソロであるかのような一糸乱れぬアンサンブルによる、「3重奏」の世界が展開されていき、終わりまで息をつく暇もない。
あこがれに満ちたような、第2楽章も実に美しい。せつない思いが伝わってくるような第1主題と、浄化された世界が現れてくる中間部。過度に情緒的でない、抑制されたロマンがにじみ出ている演奏である。
第3楽章もすぐれている。第1主題の特徴的なリズムのをソロはよく表現している。豊かな第2主題もチェロの重音が力強く、応答するバイオリンも喜びに溢れて活気がある。俗なことばで言えば、実に「かっこいい」。伴奏のオケの3連符までも生き生きしている。中間部もだれることなく、最後の明るいコーダまで一気に駈けぬけていく。終始充実した演奏だ。
セルの「きびきびさ」が「せかせか」と感じる向きもあろうかと思うが、そうでなければ、辛口の極上のワインを味わうような、楽しい充実したひとときが持てる1枚である。
なお、このCDには、ベートーベンの三重曲がカップリングされている。というより、CD上ではそちらがメインで、カラヤン指揮のベルリンフィル、ソロは上記の二人に加え、ピアノのリヒテルという、これまた豪華がキャストなのだが、いかんせん曲がイマイチなので割愛させていただく。(カラヤン、リヒテルファンの方、ごめんなさい。)
2009年1月6日、An die MusikクラシックCD試聴記