ハイティンクのドビュッシーを聴く
文:アントン・ミントンさん
ドビュッシー
交響詩「海」、「夜想曲」、「牧神の午後への前奏曲」
ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
アムステルダム音楽院女声合唱団
録音:1976−79年(国内盤 GCP-1014:グレート・コンポーザーシリーズ。超廉価盤。日本語解説付)
注:掲載してあるCDジャケットは伊東所有(PHILIPS 輸入盤 438 742-2)掲示板に廉価版のことが載っていましたが、なんとここに紹介するCDは490円で購入したものです。しかも、いわゆるホームセンターで、演歌のカセット(笑)が並んでいる片隅にあったものです。もちろん新品です。このシリーズ、他にも名盤のヨッフムの「カルミナ・ブラーナ」や、バーンスタイン/VPOのブラームスなんかがあって、音質も良好です。よくフォノグラム(現在のユニバーサル)もこんな企画を許可したものです。(このシリーズ,制作はフォノグラムということになっており、CDのデザインはPHILIPSやD・GやDECCAそのもの。)
さて、演奏はどうでしょう。ハイティンクのドビュッシー?なんて声も聞えてきそうですが,数々の「海」を聴いた中でこれが私のベストです。つまり、デュトワやブーレーズを凌いで、という事です。自然でありながらダイナミック。オケのバランスが終始完璧。フランス的ではないかもしれませんが、マーラーやブルックナーに近い重厚なロマンを感じます。冒頭、暗い海に響くハープ、低音域から重なってゆく弦の荘厳さからしてもはやハイティンク/COAの世界です。練習番号14から始まる「日の出」のなんと輝かしく、雄大なことでしょう。ここを指示されている強弱記号でしっかり演奏しているものはなかなかないのですが,この演奏はバッチリです。
さて、ハイティンクらしくない(?)部分があるのも事実です。それは、第3曲のコーダです。この演奏では練習番号61(Tres Anime)のあたりから猛烈に加速してゆき、目も回るほどの速さで曲を閉じるのです。まあ、速さだけから言ったらブーレーズ(旧盤、新盤とも)のほうが上かもしれませんが(しかし、それでもスヴェトラーノフよりは速いと思う)この加速感と,劇的迫力!! 素晴らしいです。さて、このコーダには一つの仕掛けがあります。それは、猛然と鳴り響く金管の陰から、第2第3トランペットによる、三連譜を基調とした上昇音形が表れるのです。多くの演奏ではこの音はほとんど聞えません。逆にポマーなどの演奏では聞えすぎてヘンです。しかし、ハイティンクのものはちょうど良いバランスが保たれていて絶妙な絡みをみせており、これこそ、作曲者の意図したものではなかったか,と思います。
余談ですが、練習番号60の直前に出てくるホルンのパッセージはスコアにはないのですが、ハイティンクは改訂版か何かを使っているのでしょうか?
結論。安くても良いものは良い!!
2002年6月3日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記