ルフェビュールの稀少な協奏曲録音を聴く
文:みっちさん
シューマン:ピアノ協奏曲イ短調 作品54
シューマン:子供の情景 作品15
ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
イヴォンヌ・ルフェビュール(ピアノ)、ポール・パレー指揮フランス国立放送フィル
録音:1970年、1977年(子供の情景)
仏SOLSTICE(輸入盤 SOCD−55)イヴォンヌ・ルフェビュール(1898〜1986)は、モノラル期にフルトヴェングラーとモーツァルトの協奏曲を録音していますが、その後メジャーにはほとんど録音がありません。晩年になって、仏FYおよびSOLSTICEレーベルに一連のアルバムを残しており、そのなかで協奏曲録音はこれが唯一のもののようです。フランスではピアノ演奏・教育者としての両面に渡って名高いらしいのですが、不明なことに私はごく最近までルフェビュールの存在を知りませんでした。
シューマンの協奏曲。第1楽章冒頭の華やかなピアノ音型から、聴き手はロマンティックに揺れる演奏を予感するかもしれません。しかし、ルフェビュールのピアノは基本的には明晰なものです。全楽章を通じて落ち着いたテンポで、粘らず、響きが豊かです。この録音時にルフェビュールは71〜72歳ですが、硬直感はなく、生き生きとしたタッチに魅了されます。さらに、奏者がこの曲にとても愛着をもっていることが、演奏から感じられます。コーダのストレッタ部分では、即興的にテンポアップしています。第2楽章は、先立つ楽章に比べて霊感に乏しいとの指摘もされる部分で、演奏によっては眠気を催すこともあります。しかし、ルフェビュールはいっそう調子を上げていて、オケと一体となった表現に陶然とさせられます。また、ここでは、ルフェビュールのものと思われる鼻歌のような声が聞こえてきます。歌っているのが、ピアノではなくオケパートなのがおもしろい。つづく第3楽章でも、弾くことの喜びが満ちあふれていて、クライマックスに向けて素晴らしく高揚していきます。
シューマンのピアノ協奏曲は、私がクラシックを聴き始めたころから親しんできた曲ですが、これといった録音にはなかなかめぐり逢えませんでした。うろ覚えなんですが、クララ・シューマンが「この曲を弾くと王様のように幸せな気分になる」と語ったとなにかで読んだ記憶があります。それで、私はこの曲のソロには女性ピアニストがふさわしい印象をもっていました。ルフェビュールの演奏は、まさに聴き手を王様のように幸せにしてくれるもので、このCDは、私にとっての決定盤です。オケについても、パレー指揮フランス国立放送フィルはピアノ・ソロにぴったりついていて、いうことがありません。最近ではなかなか聴けない木管の個性的な音色も魅力的です。良好なステレオ録音で、幾分ピアノの比重が大きめですが、不自然さはなく、むしろ、響きの豊かさにつながっています。
このCDには、あとシューマンの「子供の情景」、ラヴェルのト長調ピアノ協奏曲が収められています。いずれも期待を裏切らない充実した演奏です。ラヴェルについては、曲、ピアニスト、指揮者、オケと、フランスものとしてこれ以上望めないような組み合わせといえるのではないでしょうか。
2002年3月3日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記