ロジェストヴェンスキー指揮ラフマニノフ交響曲第2番を聴く
文:Sagittariusさん
ラフマニノフ
交響曲第2番ホ短調 作品27
ゲンナジ・ロジェストヴェンスキー指揮ロンドン交響楽団
録音:1988年3月10-11日、London
IMP(輸入盤 PCD 904)私がラフマニノフの作品に最初に接したのは、多分多くの人と同じ様にピアノ協奏曲第2番でした。多少、事情が異なるとすれば、最初に聞いた演奏がスヴャトスラフ・リヒテルとザンデルリング指揮レニングラード・フィル(現サンクト・ペテルスブルク・フィル)との古い録音だった事でしょう。この驚嘆すべき演奏にはロシアの歌心が濃縮された形ではいっていました。
その後、ロシア音楽に対する趣味がチャイコフスキーで止まっているような人にはラフマニノフを奨めたりしましたが、意外と大きな抵抗に会いました。曰く、「甘ったるい」、「感傷的だ」、「映画音楽の様に低俗な趣味だ」等々。上記のリヒテルやザンデルリングのようにこの種の音楽を演奏するのに理想的な人たちの演奏で聞いていた者にとって、上記のような意見は賛同しかねるものでした。
あるとき彼の交響曲第2番のLPを聞かせてくれた人がいて、そのとき初めてこの曲を知りました。しかしこのとき最後まで聞く事が出来ませんでした。それはまさに感傷的で、甘ったるく浅薄で低俗なハリウッドの映画音楽のような演奏でした。奇しくも上記の賛同しかねる意見を持つ人が何故そうなったかを示唆する様な経験でした。
その後、曲の真価を示せるような演奏がないかと探してみました。ザンデルリングがレニングラード・フィルと全集を入れていると言う記事をさる本で読みましたが、当時この録音は入手不能でした(全集の存在は現時点でも未確認ですが、2番は現在DGからCDとして出ています)。一方、70年代の終わりか、80年代の始めにヤン・クレンツがケルン放送交響楽団とこの曲を演奏したものがNHK-FMで放送されましたが、それは感動的で素晴らしい演奏でした。あのケルン放送交響楽団がそこで聞けたような音楽的に調和した音を出しているのは極めて稀です。この演奏は未だCD化されていないので、この放送を聞いた限られた人たちの思い出の宝物になっていると思います。何れにせよこの演奏により曲に対する疑念は払拭されるとともに、この曲の演奏でどこまで達成しなければいけないかと言う基準のようなものを会得しました。
そうこうするうち十年程前にたまたま店頭で見つけたのがゲンナジ・ロジェストヴェンスキー指揮ロンドン交響楽団によるCDでした。ロジェストヴェンスキーに対する日本のレコード界の評価は必ずしも高くないようです。実際、彼の演奏には、天才的なものがあったりする(例えばレニングラード・フィルとのチャイコフスキー作「フランチェスカ・ダ・リミニ」等)反面、型通りの演奏で終わっているものも少なくありません。当該のCDの演奏ですが、ロンドン交響楽団から往時のレニングラード・フィルを思わせるような芳醇で濃厚なロシアの音を引き出しており、スタジオ録音にも係わらず実演を思わせるような感興が記録されています。ロジェストヴェンスキーはこの頃、同じくロンドン交響楽団とチャイコフスキーの後期交響曲3曲を録音しています。これが残念ながら通り一遍の演奏だった事を考えると、彼がこの頃如何にこのラフマニノフの第2番に入れ込んでいたかが察しられます。
その後、前記のザンデルリング/レニングラード・フィルのモノラル録音、フィルハーモニア管弦楽団とのディジタル録音、マリス・ヤンソンスとサンクト・ペータースブルク・フィルの録音、更にレナード・スラットキンとセント・ルイス交響楽団の録音等優れた演奏を聞きましたが、実演を髣髴させる感興と言うレベルまで求めるとロジェストヴェンスキーとロンドン交響楽団のCDは一歩抜きん出ていると思います。
2002年8月17日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記