齋藤秀雄メモリアルコンサート1984

文:としちゃんさん

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CDジャケット

齋藤秀雄メモリアルコンサート1984
秋山和慶、小澤征爾指揮桐朋学園齋藤秀雄メモリアルオーケストラ

  • モーツァルト: ディヴェルディメントニ長調 K.136 
  • シューマン: 交響曲第3番 作品97「ライン」
  • R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」
  • バッハ:シャコンヌ(齋藤秀雄編)
  • パガニーニ:常動曲 作品11

録音:1984年
fontec(国内盤 FOCD9068/9)

 

 小澤征爾指揮の演奏で、耳に残って離れない演奏は映像からだった。あの阪神大震災の最中、NHK交響楽団との競演である。私は大学生だった。アンコールだったか、冒頭だったかは覚えていない。しかし切実に奏でられた『G線上のアリア』をビデオで視聴し、ゼミの学生みんなで感動を分かち合った。見せてくれた教授にも、粋な計らいをしてくれたものだと感謝した。

 案外ネット上でも話題になったウィーンフィルとの『ブルックナー第9』も最高だった。衛星放送で視聴したときのあの感動といったら。あの音質でCDやDVDが出るのならば間違いなく私は購入する。絶美。

 この『齋藤秀雄メモリアルコンサート1984』を購入する際、一番期待していたのは『シャコンヌ』だ。ボストンとの競演CDでも一番感動的で素晴らしかった曲だからだ。そして、第一音から胸がカーッと熱くなった。私はまた涙腺が緩んだ。演奏の質 も、録音の好みから言っても私はボストン盤より好きだ。

 意外だったのは『ドン・キホーテ』だ。こんなに格調高く、美しい音楽だったのか!以前カラヤン盤で聴いて、「マンガみたいな音楽だ…」と一度聴いただけで処分。でもこの演奏なら繰り返して聴ける。

 ああ、小澤はライブがいいな、と改めて感じ入った次第である。近年出た『マーラー第2』も『ニューイヤーコンサート』も素晴らしかった。日本人の嫉妬深さに足を引っ張られていて今ひとつ評価が上がらないが、日本人として西洋音楽を専攻するということの難しさを、一番切実に感じ、戦ってきた方が小澤だ。歌舞伎について評論するドイツ人は、そう多くないだろう。彼は文章も書くが、何よりも実践を通して乗り越えてきたところが凄い。

 日本人が今後も、西洋音楽を分かり、愛し、実践し、時に悩んだり苦しんだりしたときに振り返ると、そこに厳然として「ある」。小澤=サイトウキネンは、日本人として立ち返るべき西洋音楽の原点を、たった今作り上げつつある。

 

2004年11月30日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記