シベリウスの全曲盤「4つの伝説曲」
文:Y.Y.さん
シベリウス
- 交響詩「フィンランディア」
- 組曲「カレリア」
- 組曲「レンミンカイネン」
ペトリ・サカリ指揮アイスランド交響楽団
コールアングレ:ダオ・コルベインソン
チェロ:リチャード・チャイコフスキー
NAXOS(輸入盤 8.554265)このCDには、「フィンランディア」と「カレリア」と「レンミンカイネン」(「4つの伝説曲」とも呼ばれる)が収められています。演奏しているアイスランド交響楽団は当然アイスランドの団体で、指揮者ペトリ・サカリは作曲者と同じくフィンランド出身だそうです。また、ごく最近の録音ですので、音質は二重丸です。
ちなみに私は、「フィンランディア」は「新世界」交響曲のコンサートのアンコールで初めて聴いて以来、無数の演奏を聴きましたが、組曲「カレリア」は今回が初めてです。「レンミンカイネン」は、訳あってバルビローリ/ハレ管やベルグルンド/フィルハーモニア菅による、第2曲「トゥオネラの白鳥」と第4曲「レンミンカイネンの帰郷」だけは聴いたことがありますが、それでも第1曲「レンミンカイネンとサーリの乙女」と第3曲「トゥオネラのレンミンカイネン」は初体験となります。
まず「フィンランディア」ですが、割と正攻法な演奏です。急に失速したり、うねるようにクレシェンドとデクレシェンドを繰り返すようなことはしていませんし、全体的に(もちろん「讃歌」の部分は違いますが)金管楽器に重きが置かれています。
「フィンランディア」もかなり好きな曲なのですが、それ以上に私を感動させたのは、組曲「レンミンカイネン」でした。この曲は、フィンランドに古くから伝わる叙事詩「カレワラ」に登場する魔法戦士レンミンカイネンの物語に沿って書かれた4曲からなります。私はこのCDを聴いてすぐに「カレワラ」を読みました。レンミンカイネンは、はじめにクッリという女性を花嫁にしようとしてサーリという島へ行き(第1曲)、次にポホヨラの娘(シベリウスの他の交響詩に関連)を求めて北の国へ旅立ち、そこで彼女の母親からトゥオネラの川にいる白鳥(第2曲)を射るように言われます。トゥオネラに赴いたレンミンカイネン(第3曲)は、彼に私怨を持つ者に毒蛇を投げつけられて殺され、そのことを知った母の魔法によって復活し、彼女に諭されて故郷へ帰ります(第4曲)。
私が最も気に入ったのは、過去に2度聴いた第2曲と第4曲ではなく、第3曲「トゥオネラのレンミンカイネン」でした。トゥオネラというのは、ギリシャ神話のハデスに相当する神トゥオニの治める国という意味で、冥界のことです。それだけに、低弦がうごめき、時にトランペットが悲鳴を上げる、陰気で悲痛な場面から始まり、同様にして曲を終えます。そしてこの曲では、前述の主部に挟まれて非常に感動的な旋律が展開されます。他の楽器が一時的に静まると、かすかに弦楽器がその旋律を奏でます。私は理屈抜きにこの部分が大好きなのですが、最初に聞いた時はそれが何を表わしているのかよく分かりませんでした。苦労してブックレットを日本語に訳してみると、それによればどうもそれは「子守歌」なのだそうです。この部分は、私が今まで聴いた数ある音楽の中でも最も気に入っている旋律の1つです。これを聞くと、私は夕焼けの空を背景にカラスの群が神社の向こうへ飛んでいく、もの淋しい情景を思い浮かべます。この1曲だけでも聴く価値は十分にあるといえます。
2006年6月16日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記