マゼールのシベリウス交響曲全集
文:青木さん
シベリウス
交響曲全集(第1番〜第7番)
ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
管弦楽曲集(エン・サガ、トゥオネラの白鳥、フィンランディア 他)
ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団
ヴァイオリン:ジュリアン・ラクリン
録音:1990年〜1992年 ピッツバーグ
Sony Classical SB5K-87882(5CD,輸入盤)コンセルトヘボウ管とシカゴ響という対照的な二大オーケストラが大半を占めるワタシのCD棚において、なぜか両楽団が録音に不熱心なシベリウスは、必然的に貧弱な分野となっています。それでもベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィルの交響曲全集(EMI)は持っておりまして、実はあまり聴きこんではいなかったのですが、先日久しぶりに第5番を聴いてこの曲のすばらしさがようやく理解できました。
そこで、前からあまりピンとこなかったコンドラシンとコンセルトヘボウの同曲(フィリップス)を聴きますと…うーんやっぱりダメです。セルの第2番(フィリップス)と同様、ふつうなら魅力であるはずのヘボウの個性は、どうもシベリウスにはふさわしくありません。全集中の他の曲をいろいろ聴きながら、さて次に聴き比べを楽しむべきCDはなにがいいか、あれこれ考えました。こういうときは愉しいものですね。
そして結局は、マゼールとピッツバーグ響の全集(ソニー)を買いました。マゼールのシベ全といえばウィーン・フィルとのデッカ盤が高名ですが、あえてこちらを選んだ理由は、大好きなヴァイオリン協奏曲と〔カレリア組曲〕が入っていることや、値段が約3000円と格安だったことに加えて、
(1)
アメリカのオーケストラなので、ドライな機能性が優先され暑苦しさがなさそう
(2)
録音が新しいので鮮明な音響が期待できそう
(3)
マゼール自身がこの再録音を気に入っているらしいので、お仕事でこなした事務的な演奏ではなく何かをやらかしてくれているのでは…
聴いてみますと、これらの予測はすべて当たりでした。(1)と(2)によってクールかつクリアな雰囲気となっており、これならある意味シベリウスにはぴったり。ヘボウやウィーン・フィルだとこうはいかないでしょう。朗々と鳴り渡る金管や明晰なティンパニなどに北欧ぽい雰囲気は乏しいものの、決して明るすぎることのないシャープさは、けっして曲想から逸脱してはいません。
そして、スローを基調とした緩急自在のテンポ設定と内声部強調(これは(2)も関係)によって一種猟奇的なおもしろい演奏ともなっていて、スタンダード的なベルグルンド盤との聴き比べを楽しむためのセカンド・チョイスに好適。シベリウスに思い入れの深いかたにとってはいただけない演奏なのかもしれませんが、ワタシは大いに満足しました。
マゼールといえば「若い頃は意欲的でよかったが…」みたいな批評が多いようです。でもそういう比較論は、マゼール個人のスタイル変遷に興味を持つファン以外には、実はあまり意味のないことのような気もします。そして、ウィーン・フィルとのマーラー(ソニー)も充実したおもしろい演奏でした。次なるマゼールは、これは暑苦しくてもOKなチャイコフスキーの交響曲(60年代のウィーン・フィル盤、デッカ)を聴いてみたいところです。後半の3曲だけにしておくか、一気に全集を買うか、考え中。
2003年7月2日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記