フォンクのシューマン交響曲全集を聴く

文:みっちさん

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シューマン
交響曲全集
ハンス・フォンク指揮ケルン放送交響楽団
録音:1991年(2番)、1992年(3番、4番)、1993年(1番)
EMI(輸入盤 Double Forteシリーズ 5693702)

「CDショップの収穫はあったかい? これは、EMIのダブル・フォルテだ」

「2枚組980円。買おうか買うまいかかなり迷ったのだが、ケルンはシューマンゆかりの地だし(笑)、まあ、ダメ元だと思って買ってみた」

「ハンス・フォンク指揮ケルン放送響のシューマン交響曲全集。シューマンの交響曲を買ったのは久しぶりだね」

「そう。君が買ってきたアーノンクール以来だ」

「あのときは君が怒ってすぐに処分してしまっただろう。それで、いまだにCDで持っているものがない」

「それはその前に、君がサヴァリッシュ/シュターツカペレ・ドレスデンの全集を人にやってしまったからだ」

「ええと、そうだったかな?」

「あれは世に名盤といわれているものだ」

「世評が高いか知らないが、ぼくはその演奏がどんなだったか覚えていない。それくらい印象に残っていないものをいつまでも取って置くほどCDラックはでかくないのだ」

「思い切りが良いということは美点かもしれないが」

「お誉めにあずかり恐縮だ。そういう君は、ケルンがどうしたとか理屈を付けないと安い値段でも買わないところは頭が下がるよ。ところで、フォンクとは聞かない名前だなあ。君のいう世評とやらはどうなんだ。おや、ラロ先生がいらっしゃった」

「二人とも前置きが長いよ。まずは聴こうじゃないか」

第1番「春」

「金管の渋い響き。ティンパニや低弦が全体を支えて手応えを感じる。シューマン特有のフルートと弦のブレンドされた響きが魅力的に再現されている」

「ケルンのオケで選んだのは正解だったんじゃないか(笑)。ただ、テンポはどちらかというと堅実だし、平凡ととられるかもしれないな」

「しかし、フレージングには生命力があると思うよ」

「ぼくはこの曲には1箇所だけこだわるところがあってね。それはフィナーレの主題再現前、ホルンとフルートがカデンツァ風に奏するところだ。ここが美しくないと、すべてが水の泡だ。これは、合格といえよう」

「全体にスケール感は小粒な感じだが、間延びしたところがなく、木管がよく聞き取れるのは古楽器演奏の影響があるのだろうか」

第2番

「第1楽章の序奏からしてアンサンブルが有機的。主部に入っても推進力に満ちていて、よくあるように堂々巡りをしている感じがしない」

「2番がこんなに構築的に鳴るとは意外だ。設計がよく、どこに向かっているか明快だということだね。スケルツォも同様」

「その点で第3楽章はとくに新鮮だね。この楽章は、正直言うと、これまでは出口のないところをのろのろ模索しているように感じて居心地が悪かったが、そういううっとうしさがなく、音楽の幻想に身を浸すことができた」

「ほほう、君でもうっとうしいと思うことがあるのか。いやこれはほめ言葉だよ。ただ、この曲はシューマンが病気のときに書いて、その気分が現れているという指摘もされるので、そういう風に病的に聴きたい向きには不満があるかもしれない」

「そうだね。フィナーレも木管が引き立って、表情が生き生きしている。シューマンの交響曲はオーケストレーションがよく問題にされるが、どこにそんな問題がある? と思わせるような鳴りっぷりだ」

「この曲では、フォンクの個性もより感じ取れたよ」

第3番「ライン」

「実はこの曲は難曲だと思う。構成や各楽章のありようも型破りで、全体を説得力をもってまとめた演奏をぼくはほとんど聴いたことがない。第1楽章はそんなに力んでないね。君など、パワー全開でいきなり激流に巻き込んでほしいのじゃないか」

「出だしを目一杯がんばりすぎてあとは尻すぼみという失敗パターンその1があるような気がする。『猫だまし』っていうらしい(笑)」

「第2楽章や第3楽章もリズムが良く、木管がとくに魅力的だ」

「第4楽章がいいよ! この楽章がいいなどといえること自体驚きだけど。速めのテンポなのに、いろんな音が立体的に聞こえる。この曲はケルン大聖堂の式典をイメージしたということだが、やはり地元の強みなのか(笑)」

「フィナーレも速い。ぼくとしてはもう少し落ち着いた足取りが好みだが、内的興奮というか、結尾に向けてどんどん気持ちが高まっていくので、これも納得できる」

「全体に速めで、2番より演奏時間が短いというのも面白いな」

第4番

「出だしの重厚な響き! もはやフォンクは巨匠の域に入ったといえよう」

「どこかで聞いたような言い回しだ」

「いやまあ、とにかく、ぼくとしてはツボにはまったということがいいたいのだ」

「2番、3番が快速調だっただけに、このスケール感は意外な感じだ。でも、第1楽章後半ではテンポが動き出すね。効果的とは思うが、構成感が崩れる面もある。第2楽章へのつながりはいい間合いだね。ここが空きすぎて切れた感じがしてはいけない」

「第2楽章の深みのある響きは中世の時代を思わせる。中間部のヴァイオリン・ソロも表情が濃い。このヴァイオリン・ソロと同じ材料の『焼き直し』がスケルツォのトリオで、おまけに2回も出てくるので、ぼくとしては、1番や2番のように違う中間部を書いていてくれた方がもっと魅力が増すのにと思うようなところなんだが、この演奏は、そんなことを感じさせない」

「フィナーレへの移行も要注意だよ。ここを突出して劇的に盛り上げすぎるとかえって雰囲気を壊す結果になりがちだから」

「フォンクのは華々しさより、むしろ厳しく深い印象。決然とした主部は、目の覚めるような開始だ。このテンポは見事に決まっている」

「ふつう、ここから第2主題への移行あたりでもたついたり、あわててギアチェンジしてギクシャクしたり、指揮者の苦労が察せられるところ(笑)。展開部へのブリッジも大げさにやられると辟易しそうなものだけど、表情が自然だ。展開部も緊迫感があって、後半に現れるホルンは聴かせどころを押さえている」

「コーダも文句なし。素晴らしい!」

まとめ

「ぼくはあえていうが、この2枚組があれば、ほかはいらない」

「君が思い切りが良いことはよくわかった。まあ、非常に充実した演奏には違いない。とくに4番はスケールが大きく、聴き応えがある。あとひょっとしたら、これはライヴ録音だろうか、一部に会場ノイズらしいものが聞こえた」

「ちょっと待って。そのとおり、パンフレットのデータにライヴと書いてある。ははあ、どうりでEMIにしては立体感のあるいい録音だと思った(爆)。それになにより、オケに熱気がある」

「それにしても、いまやシューマンの交響曲全部が980円とは。いい世の中になったということなのだろうか。LPの時代にぼくが初めてカラヤン/ベルリン・フィルの全集を買ったころは……。おやラロ先生、どこへ行ってらしたのです?」

「二人ともいいかげんまとめが長いよ。しかし、ずいぶん気に入ったようだね。フォンクとケルン放送響のコンビによるシューマンは、協奏曲録音もあるから探してみたらどうだね」

二人「それは、ぜひとも!」

 

2003年7月12日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記