ショパンの事件譜

北原雅紀原作、あおきてつお作画の漫画『ショパンの事件譜』を読む。

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レコードショップを舞台にした漫画である。「ビッグコミック」に連載中らしい。第1巻は2015年9月2日に発行されている。LPが密かなブームになっていることは知っていたが、漫画ができるとは。

レコードショップの名前は奏(かえで)音楽堂といい、その店主は奏初範という。初範という字面から通称がショパンになっている。また、タイトルを見ると、このお店がクラシック音楽専門だと連想しそうだが、様々なジャンルのレコードを扱っている。

第1巻には以下のとおり6話が収録されている。

第1楽章 モーツァルトの涙(モーツァルト)

第2楽章 ネットオークションの罠(エルヴィス・プレスリー)

第3楽章 チェリーニのヴァイオリン(ベートーヴェン)

第4楽章 禁じられたBGM(ボブ・ディラン)

第5楽章 「憾」(うらみ)の身代金(瀧廉太郎)

第6楽章 盤上の夕焼け(童謡 「夕焼け小焼け」)

さすがにクラシック音楽だけでは連載を続けられないのだろう。6話中クラシックは2話だけである。というより、2話もクラシック音楽で構成したと言えるのかもしれない。私はクラシック・ファンだから、その立場からしかものを考えないが、現実的にはロックなど他のジャンルのファン人口の方が圧倒的に多いはずだ。

物語や絵を見ると原作者と作画担当が念入りの取材をしたのが分かる。レコードについての基本的知識、蘊蓄、ショップの雰囲気等、どれもリアリティがある。漫画になったとは言え、レコードの世界はマイナーだろう。そのマイナーな世界におけるリアリティーを細部まで手を抜かないで追求した点は賞賛に値する。

こういう漫画を読んでいると、私も思わずLPに憧れてしまう。真空管アンプにLPプレイヤーを部屋に置いてゆったりと音楽を聴くのもいいかななどと夢想してしまう。しかし、現実は厳しい。何より大変そうなのは、肝心の私がLPを扱うのに緊張しそうであることだ。

第4話冒頭にはレコードショップのアルバイトの女の子がLPに針を載せるのに苦労している絵がある。(この女の子がヒロインである。)

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彼女は針を落としただけで「成功です!」と喜んでいるが、私だってこのヒロインとそう変わらない。私が日常的にLPを触っていたのは高校生までである。カール・ベームの「ロマンティック」やクーベリックのマーラーなどを私はLPで聴いて楽しんでいた。しかし、それから30年以上が経過した。大学1年の時にはさっさとCDに宗旨替えをした私はこの年になってからLPプレイヤーを正しく扱う自信がない。今あのカートリッジを手にしたら間違いなくプルプル震えてしまう。こんなことは慣れの問題なのだと分かってはいるが、どうなのだろう。この漫画の原作者がこの微笑ましいシーンを入れたところを見ると、これも七面倒くさいLPを扱う楽しみのひとつということなのだろう。

(2015年9月30日)