An die Musik 開設8周年記念 「大作曲家の交響曲第8番を聴く」

ショスタコーヴィチ篇

文:松本武巳さん

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CDジャケット

ショスタコーヴィチ
交響曲第8番 ハ短調 作品65
アーノルド・カッツ指揮ノボシビリスク・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1996年
ARTE NOVA(輸入盤 74321 51628 2)

CDジャケット

ショスタコーヴィチ
交響曲第8番 ハ短調 作品65
ニコラウス・ブレイスウェイト指揮アデレード交響楽団
録音:1988年
ABC Classics(輸入盤 426 510-2)

 

■ ショスタコの8番って…

 

  『世界的な名声を得た交響曲第7番作品60が戦争に突入した祖国への愛国的な讚歌であるのに対し、第8番は戦争の悲惨さと人間のあり方を真摯に問いかける深刻な内容を持っている。この2曲は、文字通り戦争の“表と裏”の両面を描き出している。』

  これが通常言われているこの曲の内容であると思われる。さて、これをどのように捉えるかであるが、戦争と共産国家の抑圧云々…は私には正直なところ良く分からない。ただ、私はこの曲から、人として生きることの尊さを感じ取り、またそのことを肯定的に歌い上げた交響曲に受け取れるのである。戦争や愛国心を語っていないと言う訳では決して無いが、それは人として生きることへの補足的な意味しか持たないように思えてならないのである。こんな観点から、私の推薦盤を選んでみた。

 

■ この2CDこそ推薦盤である

 

  結果的にこの観点から残ったCDは、2枚ともに極めて珍しい音源になってしまった。仮に現在入手困難であればお詫びするしかない。私は、初演者ムラヴィンスキーの1982年の名演を聴いていない訳ではないし、その後の名演とされるCDもそれなりに聴いているつもりではある。しかし、その結果として、旧ソ連関係者による演奏の中から、ムラヴィンスキーを差し置いて、まずアーノルド・カッツの指揮したディスクを選び、そして旧ソ連以外の演奏としては、ハイティンクの名演の誉れ高いDECCAへの全集を差し置いて、ブレイスウェイト指揮の演奏をここで推薦したいと思ったのである。

 

■ カッツ&ノボシビリスク・フィルの演奏

 

  この盤こそが、差し迫った当時の状況を含めて、もっともこの曲が本来的に持っているとされる殺伐としたイメージや、暗い側面を上手く表出した演奏であると思う。ソ連の地方都市ノボシビリスクのオケならではの、抜き差しならない緊迫感が漂う周辺の情景や世情を、これほどまでにこの曲自体の魅力として、諸々を昇華した上できちんと伝えてくれるCDは数少ないと考える。オーケストラの技量も心配するほど低くはなく、むしろプラス面の大きさを勘案するならば、十分に満足できる技量であると認めても良いのではないかと思う。

 

■ ブレイスウェイト&アデレード響の演奏

 

  こちらは旧ソ連の部外者のみで演奏したCDとして、第一に推す理由は以下の通りである。ハイティンクショルティも非常に優れた名演を残していると思う。しかし、部外者である故、そこには冷静にスコアを見つめて処理していくという、プロの音楽家としては当然ではあるが、冷めた目を通して演奏にたどり着いている分、差し迫った緊張感が希薄になるのはやむを得ないし、第一それを望むのはお門違いであろう。ところが、このCDは部外者による演奏でありながら、恐ろしくテンションが高いのである。まるで昔の男子校の応援団風とでも言おうか、イケイケの乗りまくった演奏なのである。もちろんこれだけではなんの意味も無いのだが、実はそれでありながら、聞かせどころの表情などが見事に表現されている上に、思わずグッとくる場面すらあるのである。まさに福袋から飛び出した名演であると言える。オケの技量に関しては、確かにあちこちで少々もたついてはいるものの、それらを補って余りある優れた演奏であると思う。

 

■ 結局のところ

 

  定番とされている演奏には、それなりの理由があることは、私も当然理解しているつもりである。しかし、8周年記念の文章としては、このような知られざる名演をぜひとも紹介したかったのである。最初にも書いたが、もしも入手困難であった場合はごめんなさいと謝るしかない。そして、私にはショスタコーヴィチの基礎知識が残念ではあるがあまりにも不足しているため、これ以上もはや書くことが出来ないのである。どうかご容赦くださるようお願いする次第である。

 

(2006年12月18日、An die MusikクラシックCD試聴記)