メータ指揮のブラームスを聴く

文:青木さん

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CDジャケット

ブラームス
交響曲第1番ハ短調 作品68
ズビン・メータ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1976年2月 ウィーン
DECCA(国内盤 POCL-4328)

 メータのブラームス。聴く前から「たいしたことなさそう」と思われるかもしれません。しかし、これはとても素晴らしい演奏なのです。

 といっても、特に斬新なことをしているわけでもなく、圧倒的な感動が押し寄せてくる熱演タイプでもありません。むしろ、なんにもしていない、というべきでしょう。しかしその圧倒的なまでの自然体の中から、楽曲そのものの魅力がストレートに伝わってくるのです。

 この曲の第1楽章は、どうもうまく表現できないのですが、曲調が盛り上がるにつれてリズム的要素がフレーズとして強まっていく結果、妙にギクシャクしてしまうあたりに、ユーモラスとさえ言えるような独特の面白さがあると思います。特にエンディング直前のクライマックスの部分。このメータ盤はそのへんの魅力がよく出ていて、つい何度も聴いてしまいます。第3楽章の躍動感や終楽章のスケール感も過不足なく表現されていて、なんというか、楽団員の積極的な自主性のようなものさえ感じられるのですが、ある評論に「かつての同僚メータを団員が盛り立てようとして、このようなよい演奏になった」といった主旨のことが書かれていたのを読んで、なるほどと思ったものでした。

 これを最初に聴いたのは、もうずいぶん前のことです。当時は、同じ曲のレコードを何枚も買う人の気が知れん!などと考えていたのですが、カラヤン/ウィーン・フィルの廉価盤を持っていたにもかかわらず、なぜこのLPを買ったのか、いま動機が思い出せません。しかし、オーケストラもレコード会社も同じだというのに、あまりの違いにびっくり、という結果でした。

 序奏のダイナミックな迫力、ティンパニのクリアな轟き、躍動的なリズム、艶っぽい響き、もうカラヤンとはまるで異なる聴き応えです。そして…盛り上がりが一段落してやや静かな雰囲気に流れていくはずの部分でガツン!と強烈な一撃、ぜんぜん別の展開となるに至って、「なんだこりゃ?」状態に突入。序奏部〜提示部〜展開部というソナタ形式の構成を把握していなかった当時の自分には、それがカラヤン盤で省略されていた提示部のリピートだということが分からず、ただただオドロキでした。その繰り返しに入る瞬間の強引な流れになんともいえない違和感を持ったものの、何度も聴いているうちにやがて快感に変わり、いまでもこのリピートを省略するブラ1はそれだけで大減点を与えてしまうほどです。

 カラヤンのLPはどっかへいっちゃいましたが、このメータ盤はCDに買い替えて今も愛聴しています。

 

2002年2月25日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記