コダーイを聴く
PART 3 コダーイ・メソッドとコラール・ワークス

文:青木さん

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 「子どもに音楽を教える際にまず歌から入る彼のメソードは、理にかなった素晴らしいものだと思う。歌は演奏の最も自然な形だ。すぐれた演奏の基本には、かならず声が意識されている」。自伝の中でショルティは、コダーイの業績をこのように簡潔に記していました。『ハンガリー音楽の魅力』では、音楽教育者としてのコダーイの業績について、かなりの頁が割かれています。移動ドのソルフェージュで子供たちを徹底して歌わせるという音楽教育法を提唱し、そのための合唱曲を(収集した民謡も使いながら)数多く作ったというコダーイ。その結果として日本においても、合唱愛好家と音楽教育関係者の間で、コダーイの名前はたいへんに知られているそうです。これもまた、ワタシが知らなかったコダーイの一面。

 これに関連して、コダーイの名を全世界に知らしめた映画がありました。耳が不自由な人に音楽を伝えるための手話(ハンドサイン)をコダーイが考案したらしいのですが、その手話を宇宙からもたらされた謎の音階に当てはめて、スペースシップで飛来した宇宙人とのコミュニケートを図ろうとする・・・スティーヴン・スピルバーグの『未知との遭遇』(1977)の一場面です。「ゾルタン・コダーイの手話」とわざわざセリフで説明されたそのハンドサインを使って、ラストのクライマックスで宇宙人とフランソワ・トリュフォー演じる学者とが対話を試みる。意思を疎通しあえたとみえ、にっこり微笑む宇宙人。コダーイ・メソッドの影響は、日本どころか遥か遠くアウタースペースにまで及んでいたのでした。

 それはともかくとして、コダーイの合唱曲というのを聴いてみたくなり、フンガロトンの何枚かをネット通販で発注するも入手困難の通知が・・・。CDショップで買えたのは、このディスクでした。

CDジャケット

コダーイ
合唱作品集

  1. 聖グレゴリオの日
  2. ラディスラウス王の男
  3. 聖霊降臨祭
  4. フランツ・リスト頌
  5. シャンドル・シクのテ・デウム
  6. イエスと商人
  7. 老人たち
  8. トランシルヴァニアの哀歌
  9. マトラの風景)

MR合唱団 [4-9]、MR児童合唱団 [1-3]

指揮:アダム・フィッシャー
録音:2008年2月13-16日 ハンガリー放送22スタジオ
BMC(輸入盤 BMC CD144)

 “MR CHOIR”とあるので男声合唱かと早合点しましたが、そういう固有名詞のようで、普通に混声合唱でした。無伴奏で100%合唱のみ、しかも歌詞の内容は皆目わかりません。それなのに退屈するどころか、表情豊かな声とハーモニーの心地よさにどっぷり浸ることができ、二度続けて聴いてしまったほど。ドラティらが指揮したバルトークの合唱作品集(フンガロトン)を持っているのですが、ずいぶん違います。実際に歌って気持ちいいのはコダーイのほうであろうことは明白で、合唱団体に特別な人気があるというのもこれなら当然でしょう。代表曲とされているらしい「マトラの風景」が、やはりもっとも聴きごたえのある作品でした。

 

2010年5月27日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記