シュタインのウェーバー・アルバム
文:青木さん
LP ウェーバー
(1)「オイリアンテ」序曲
(2)舞踏への勧誘(ベルリオーズ編曲)
(3)序曲「精霊の王者」
(4)「アブ・ハッサン」序曲
(5)交響曲第1番
ホルスト・シュタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1977年9〜10月 ウィーン、ソフィエンザール
プロデューサー:リチャード・ベズウィック
エンジニア:スタンリー・グッドール、ジェイムズ・ブラウン
デッカ(国内盤LP:ロンドン K25C12)※CDは本文中前々回の「管弦楽名曲集の世界」をはじめとして、LPのオリジナル・カプリングをCDで再現云々という話をこれまで何度も繰り返してまいりました。またその類のネタです。すみません。しかし今回採りあげるシュタインのウェーバー集は、すばらしい内容にもかかわらず元体裁からかけ離れたCD化ばかりが繰り返されていて、世間に警鐘を鳴らすべき使命感に駆られたというか、どうしても愚痴らずにはいられないというか。
このアルバムの国内盤は、録音から3年後の1980年8月に発売されました。すでにCD時代に入っていた1983年12月、LPで再発売(K28C1421)。そして1997年7月の「ウィーン・フィル名盤」シリーズにおいてようやくCD化されたのですが、それは次のような状態でした。
CD POCL4321 CD POCL4330 (1)→シュタイン指揮のブルックナー:交響曲第2番(POCL4321)の末尾に収録
(2)→ハイティンク指揮のベルリオーズ:幻想交響曲(POCL4330)の末尾に収録
(3)(4)→シュタイン指揮のブルックナー:交響曲第6番(POCL4322)の末尾に収録
(5)→シュタイン指揮のワーグナー:管弦楽曲集(POCL4323)の末尾に収録その後の再発盤や海外盤(オーストラリア・エロクァンス)もほぼ同様。2008年に出た10枚組「ホルスト・シュタイン・デッカ・コンプリート・レコーディング」でも、各ディスクの構成はほぼ同様。バラバラ解体による無残な「余白の埋め草」扱いが続いているのです。
ポピュラーな「魔弾の射手」や「オベロン」を外した序曲群、名曲集・小品集の一環ではない「舞踏への勧誘」、そして録音が稀少な交響曲――これらを一枚にまとめるという、他に例のなさそうな渋めの好企画。マッケラスのヤナーチェクやヴェラーのプロコフィエフ、アシュケナージとプレヴィンのデュオによるラフマニノフなどユニークな作品をプロデュースしたベズウィックならではのアイディアといえるかも知れません。
この企画に魂を吹き込むかのごとく、演奏とサウンドがまことに秀逸なのです。とにかくウィーン・フィルの魅力をここまで伝えてくれるディスクは、そう多くはないでしょう。弦、木管、そしてホルンの美音。それらのふくよかなブレンド感。フレージングの粋なニュアンス。すべてが最高、たまりません。このアルバムの収録曲はウェーバーと縁が深いシュターツカペレ・ドレスデンも録音を残していますが、それさえ上回っているといいたくなるほどです。もちろんこれは、楽曲の魅力をカッチリ明快に再現したシュタインの手堅く的確な指揮があってこそ、だと思います。上記のブルックナーやワーグナー、あるいはグルダと組んだベートーヴェン等と併せて聴けば、「ドイツ物のオーソリティ」的な世評に深く同意するしかなく、ウェーバーもその例外ではないということなのでした。急いで補足しますと、スイス・ロマンド管を指揮した一連のシベリウス録音も絶品なのですが。
交響曲第1番は、どっしりした構成力や深み奥行といった要素は乏しいものの、親しみやすい旋律とフレッシュな躍動感に彩られた佳曲。誤解を恐れずにいえば、「序曲を連ねたような作品」だと思います。ただしアンダンテの第2楽章だけはそうでもないので、LPのA面二曲目が序曲でないことと呼応しており、両サイドの構成・流れに統一感、というほどではないものの全体が散漫な印象になることに抑止力を与えているかのようです。交響曲がLPのA面ではなくB面だったのも、「序曲集」的な側面を強調しているのかも。
というような深読みをしたりして楽しむのも聴き方の一つですので、オリジナルの体裁でボックスセット“THE DECCA SOUND”に収録してほしかった――といまさら言っても詮ないこと。CD-Rあるいは携帯音楽プレイヤー等で個人的に再現してみるべきアルバムの最右翼だと思います。趣のあるジャケットは、SXL6876というオリジナルのレコード番号で画像検索すると探しやすいでしょう。
2014年11月2日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記