■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2002〜2003 シーズンを振り返って
どうなるモントリオール響・・・

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September 22 2002

Gilbert Levine, conductor

Pamela Coburun, soprano
Noella Huet, mezzo-soprano
Stuart Neill, tenor
Stephen Powell, baritone
MSO Chorus (Iwan Edwards, chorus director)

Montreal Symphony Orchestra
Place des Arts
Montreal, QC Canada

BRAHMS : Naenia, Op.82
BRAHMS : Song of Fates, Op.89
BEETHOVEN : Symphony No.9 in D minor, Op.125

モントリオールで聴くコンサートは昨シーズン(2002年春)に続いて2度目です。このコンサート、チケットをとった当初は音楽監督であるはずだったシャルル・デュトワさんが振る予定であったのですが、いつの間にか指揮者変更になっていました。伝え聞くところによると、どうもデュトワさんとオーケストラ側にいざこざがあったようです。任期満了による円満辞任というのではないようなのです。よく言われているように、モントリオール響はデュトワさんが音楽監督に就任してから飛躍的にその演奏技術を向上させ、フランスよりフランス的な響きを持つオーケストラとして知られています。しかし、その陰にはデュトワさんの猛烈なしごきがあったというのは有名な話です。

さて、このモントリオールのホールですが、響きがよくありません。地元のウェブサイトなどにも書かれていましたから、きっと有名なのでしょう。私はバルコニー席、一階オーケストラ席でも聴きましたが同じ印象です。音が舞台の上でくぐもっている感じで、あんまり客席に飛び出してきません。そこで不思議なのがあのデッカでのデュトワ&モントリオール響の数々のCDです。CDでは透明なくっきりした響きの中にもどこか柔らかさを兼ね備えている音でとても同じ団体とは思えなかったからです。ところが後で家に帰ってよくCDを見てみると、録音場所が違っていたのですね。合点がいきました。

ブラームスの二曲はあまり印象に残っていないので、メインの第九にのみ触れたいと思います。実は第九に関しては私たち夫婦はかなり思い入れがあるのですが、それはまたの機会に書きます。今回の演奏に関していうと、第三楽章が素晴らしい出来! いつも長いと感じる(感じさせる)演奏が多いのですが、この演奏でははじめから最後までまったく長いと感じられませんでした。ゆったりとしたテンポから丁寧に表情付けし、細やかなニュアンスを感じさせてくれました。特に弦楽器群の出来がすばらしい。とりわけバイオリンパートは少し霧がかったような神秘的な美しい音で、こんな美しい曲だったのかと思い知らせてくれました。フルート、クラリネットも健闘していました。

その他の楽章では第一楽章が気に入りました。こちらも悠々としたテンポですすめフルート、クラリネットが美しい音を聞かせてくれました。途中、この指揮者ならではのテンポをぐっと踏みしめるような部分も決まっていました。後半はちょっと息切れしましたが・・・

第二楽章は一転速いテンポで、特に印象には残りませんでした。

問題は第四楽章。ソリストがそろって不調です。特にアルト! 後半の唯一の見せ場もまったく声が届きませんでした。総勢約130人の合唱団も最初柔らかすぎ、安全運転した感じ。有名な「vor Gott!」のところ(練習番号327からのところ)のフェルマータがぜんぜん物足りません。また一番最後を大きくテンポを落として終わりましたが、私には多いに違和感が残りました。全体として第三楽章と同じく悠々と進めて欲しかったです。

指揮者のギルバート・レヴァインさん、わたしは今回初めて知った指揮者なのですが、有名なジェームズ・レヴァインさんの弟でしょうか(紹介文にはそんなことはいっさい書いてありません)。姿形がそっくりでした。お尻をふりふりとしながら振る指揮姿がどこかユーモラスでした。

最後にひとつ気になったのが楽章間に拍手が起こることです。タングルウッドでも経験しましたが、第九でも起こるとは思いませんでした。モントリオール響にとって今季最初のコンサートで、祝祭的な意味合いが濃く初めてクラシックを聴く人が多かったのでしょうか・・・

(2003年5月28日追記)

さてこのコンサートの感想を書いてから早10ヶ月ですが、まだモントリオール響はその音楽監督を決めていません。と言うか決められないようです。正式にケント・ナガノさんに依頼したりもしたようですが、固辞され、未だに決められないでいます。その余波もしだいに現れ始めています。モントリオール響はここ何年か定期的にデュトワさんとともにカーネギー・ホールに登場していたのですが、来シーズン(2003〜2004)からはその名前が消えてしまいました。これは偶然ではなくカーネギー・ホールの発行する文章に、音楽監督がいないため今年は遠慮してもらった、というようなことがきちんと書いてあります(音楽監督が決まればまた招待するというようなことも書いてありました)。ちなみにその相手役であったデュトワさんはきっちり他のオーケストラとともにカーネギー・ホールに登場します。早くモントリオール響も意中の人が見つかると良いのですが・・・


(2003年6月1日、岩崎さん)