■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2002〜2003 シーズンを振り返って
ボストン響に内田光子さん登

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ロバート・アバド指揮ボストン交響楽団

2002年10月19日 午後8時〜
マサチューセッツ州ボストン、シンフォニー・ホール

 まずは未知の曲、ヘンツェから。バリバリの現代曲だとは思いますが、今までいくつか聴いた現代曲よりは比較的聞きやすかったです。木琴がユーモラスな音を奏でていたのが印象に残りました。終結は、えっ、終わり!っといった不思議な余韻を残して終わります。

 続いて、私たちにとって本日の最大の聴き物、内田光子さんのモーツァルトです。舞台を組みなおしピアノを出します。内田さんはやや軽めのあまり派手でない衣装を着て登場しました。大きな拍手が巻き起こります。聴衆の内田さんに対する期待が伺えます。曲が始まっても、ホールの緊張感はいつにも増して素晴らしく、変な雑音が聞こえてきません。やや速めのオーケストラの美しい伴奏のあと、内田さんがピアノを弾き始めます。慈しむような美しい音です。モーツァルトの微笑みを連想させるようなテーマ(手持ちにあるバレンボイム旧盤(EMI)のCDで4:15〜)も良いです。本日、第一、第三楽章のカデンツェを内田さんは自作を弾きました。このK.467では、わたしの耳には、バレンボイム作のカデンツェが残っていますが、果たしてどうでしょうか。正直な感想は、まだバレンボイム作のほうがしっくりきました。しかし、斬新であったのは確かで、もう一度聴いてみたいと思いました。内田作のカデンツェでは、最初、第一主題を回想した後で思い入れたっぷりに微笑みのテーマが登場してきます。これは大賛成です。残念だったのは、そこでちょうど外から、パトカーのサイレンがかすかに聞こえてきたことです。歴史あるホールだけに、外からの遮音はいまいちなのか、とにかくそこでちょっと集中力が削がれたのは残念です。

 第二楽章は、ゆったりと美しい音楽がホールいっぱいに広がっていきます。特別なことをしているわけではないのですが、少し鄙びた感じのピアノの音色がいいです。第三楽章は、一転、躍動感ある音楽です。ここでのカデンツェはもともと短いですが、わたしには少し消化不良を感じさました。終了後、圧倒的な拍手とスタンディング・オベーション。三回呼び出すまで、まったく止まりませんでした。しかし、私たち夫婦の結論を言うと、内田さんなら、さらにもっともっとすごい演奏を求めたいです。この夏(2002年夏)マールボロで聴いた奇跡のようなシューベルトのように。ただ曲が曲だけに難しいとは思います。今度は、是非、ソロコンサートを聴いてみたいと強く思いました。オーケストラは弦楽器をはじめ、悪くなかったと思いますが、やはり内田さんのソロがあるだけに特別なものを望みたいです。木管群はもう少しチャーミングな音色が欲しかったですし、ホルンの強奏はバランスを破って度々ピアノの音をマスクすることがありました。

 休憩を挟んで、ラフマニノフの交響曲第3番です。このような大曲を予習もせずに聴いたのは久しぶりです。第一楽章は、初め静かに出たかと思うとドラマチックに盛り上がり、どことなく映画「アラビアのロレンス」の音楽を彷彿させる展開です。また第二楽章の冒頭、コンサートマスターによるバイオリンソロの部分をはじめ、随所にラフマニノフならではの叙情的なメロディーが登場します。ただよく演奏される交響曲第2番に比べると、やや魅力に欠けるかも・・・。もう少し聴きこむことが必要なのでしょう。

(2003年6月5日追記)

このコンサートの後、2003年冬に内田さんのソロリサイタルを聴きにカーネギー・ホールにも行きましたが、やはり昨年夏のマールボロで聴いたような感動を味わうことは出来ませんでした。アメリカに来てから、すでに30回ほどいろいろなコンサートを聴いてきましたが、一番感動したコンサートは、他を断然離してマールボロで聴いた内田さんのシューベルトです。内田さんの、とは言っても彼女一人で演奏したわけではなく、もう一人の若い女性ピアニストとの共演でした。曲目は、「4手のための幻想曲D.940」でした。私はこの曲をその時初めて聴いたのですが、演奏がすばらしいのか、曲がすばらしいのか(きっと両方でしょう)わかりませんが、とにかく神がかり的でした。それは不思議な体験でした。演奏が始まってしばらくして、確かに会場の温度がスーッと2〜3℃下がりました。それからは言葉では言い表せない演奏が目の前で行われたのです。わたしはもう、ただただ呆然と聴いておりました。これは、わたしだけが感じたことではなく、横に座っていた妻も全く同様の感覚だったと言います。こういう体験がもう一度したくて、この一年近くいろいろなコンサートに通いましたが、こういった体験に再び巡り会うことは出来ていません。皆さんの中にもこういった体験をした方はいらっしゃいますか。


(2003年6月10日、岩崎さん)