■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2002〜2003 シーズンを振り返って
ドホナーニさんボストン響に登場

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クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮ボストン交響楽団

2002年11月23日 午後8時〜
マサチューセッツ州ボストン、シンフォニー・ホール

今回のコンサート、わたしは曲目で選んでしまいました(笑)。シューマンの交響曲第四番とドヴォルザークの《新世界》交響曲というポピュラー曲が二つも入ったおいしいコンサートです。特に《新世界》はクラシックを聴かない人でも一度はそのメロディーを聴いたことがあるという超有名曲です。しかし実は生で聴くのは初めてのことです。また本日の指揮者ドホナーニさんは,私がクラシックを聴き始めた15年前に初めて購入したCD(クリーブランド管(DECCA))の一人であり、奇しくもそのCDの曲目は《新世界》(とドボ8)でした。15年を経過しこの人の演奏がどう変わったかを聴くのも楽しみです。

一曲目は未知の作曲家アデスの曲です。なんとこの人私と同じ歳、またこの曲を作曲したのは1997年とあるから26歳の時です。世紀末に同世代の作曲家が何を思いこの曲を書いたのでしょうか。曲は4部に分かれていましたが、1部は全く不安定な、何が飛び出してくるかわからない先の読めない音楽です。わたしには全く意味不明です。それが2部に入ると多少は弦の美しい旋律とともに親しみやすくなってきます。3部は最初すすり泣くような弦のピアニシモで開始されたあと、途中から原始的なリズムの刻み、凶暴な何かを感じさせます。4部はちょっと取っつきにくく、謎の余韻を残して終わりました。

次はシューマン。やはりこういう所謂クラシックを聴くとほっとしてしまいます。ドホナーニさんは遅めのテンポを保ち風格豊かに堂々とした音楽を創り上げていきます。スケルツォでも遅めのテンポを保ち抉りの利いた音楽を聴かせてくれます。ところがどうしたわけか第四楽章の序奏のあと、主部にはいると早めのせかせかしたテンポに突然変わってしまいました。またこの辺りから集中力もどこか薄れた感じがし、音に力がなくなりました。私としてはこのまま堂々と進めてほしかったのに残念です。私は気づかなかったのですが、わたしより耳のいい妻(苦笑)によると序奏のクライマックス部でホルンが音を外していたと言います。それが影響したのでしょうか・・・。

休憩後の《新世界》交響曲も最初、遅めのテンポでじっくりと攻めます。また昔CDで聴いたときには感じられなかったテンポの揺らめきや踏みしめなどがあり、ドホナーニさんも昔と比べると変わったのだな、と感じさせます。昔はもっと速いテンポで、直線的なスパッとした演奏をしていたように思います。第二楽章、イングリッシュホルンが奏でる、もっとも有名なメロディーは余計な表情付けはないのですが十分に美しかったです。第四楽章後半は曲が盛り上がるように出来ているだけに、特別なことはしていなくても十分オーケストラサウンドを楽しむことが出来ました。名曲といわれる所以でしょう。弦楽器は相変わらず好調で、管楽器群も強奏時、多少音が堅くなったり、ひっくり返ったりしたものの健闘していましたし、まずは無難な満足できる演奏でした。今年73歳になる指揮者ドホナーニさんは昔に比べるとテンポが遅くなり、巨匠風にはなってきましたが、本当の巨匠になるには今一歩足りないものがある気がします。それが何かと言われると困るのですが・・・。

 

《私のお気に入りCD》

メンデルスゾーン:序曲「美しきメルジーン」
シューベルト:交響曲第4番「悲劇的」
シューマン:交響曲第4番
ニコラウス・アーノンクール指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
TELDEC 4509-94543-2 (輸入盤)

《新世界》交響曲にはケルテス指揮ウィーン・フィルの不滅の名盤があるので、今回はシューマンの交響曲第4番のわたしのお気に入りを紹介したいと思います。上の盤はベルリン・フィルの威力が存分に味わえるすごい演奏です。かなりメリハリのはっきりした推進力に富んだ演奏ですが、弱音部での美しさにも欠けていないと思います。第三楽章から第四楽章冒頭に至る雰囲気はこれが一番神秘的で、いったいこれから何が起こるんだ、という気にさせられます。第四楽章の終結近くには、まるで怪獣の咆哮のような恐ろしい響きも聴こえ(時間表示9:14〜)、否応にも興奮させられます。お試しください。


(2003年6月20日、岩崎さん)