■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に■
2002〜2003 シーズンを振り返って
新音楽監督ジェームズ・レヴァインさん登場
ジェームズ・レヴァイン指揮ボストン交響楽団
2003年1月11日 午後8時〜
マサチューセッツ州ボストン、シンフォニー・ホール
- セッションズ:ピアノ協奏曲
ピアノ:ロバート・ターブ- ハービソン:交響曲第3番
- ブラームス:交響曲第1番
わたし達にとって2003年初めてのコンサートは、ボストンで行われた上記のコンサートでした。初めの二人の作曲家のことはまったく知りませんが、ブラームスの交響曲第1番は、わたし達夫婦が好きで日頃からよく聴きいている作品です。指揮者は小澤征爾さんの後をついで2004年秋から音楽監督(現時点でのタイトルは指名音楽監督(Music Director Designate))になるジェームズ・レヴァインさんです。120年の歴史を持つボストン響において初めてのアメリカ人指揮者となります。期待したいところです。
さて、前半の未知の二人の作曲家ですが、二曲目のハービソンの方が親しみやすく、楽しめました。4つほどの部分に分かれていたと思いますが、それぞれに親しみやすいメロディーがありました。それに比べると一曲目のセッションズはメロディーらしいメロディーがなく、響きが錯綜しピアニストの健闘もむなしく、よくわかりませんでした。それはホールを埋め尽くしていた聴衆も同様のようで、拍手は儀礼的でした。
後半のメインプログラムであるブラームスの交響曲第1番は、きっぱりとした早めのテンポで開始されました。過去の彼のCD(ウィーン・フィル演奏(DG))から予想はしていたのですが、やはり少し早いと感じました。主部に入ってもそのテンポは変わらずキリリと引き締まった感じです。ここぞと言うときにはティンパニの強打がアクセントになっていましたし、第一楽章後半などは、メトロポリタンで長年オペラを振っているだけあって、かなり劇的な表現で音楽の振幅が大きかったです。
第二、第三楽章ではブラームスに必要な侘びしさや寂しさが不足していると感じられました。第二楽章ではコンサートマスターによる美しいバイオリンソロが登場しますが、それも管楽器群にマスクされてしまって、十分にその魅力を出していたとは言い難いです。第三楽章も、もう少しひなびた感じが欲しいと思いました。
第四楽章。序奏部はかなり念入りな表情付けを試みたようで、弦のピッチカートで奏される部分など印象的でした。しかし例のホルンによるアルプスを連想させる部分は、わたしには完全に物足りないものでした。これではとてもアルプスを連想させることは出来ません。もっと大きな呼吸を持って朗々と膨らむように吹いてほしかったです。そしてこの後の有名な第一主題の出だしがまた不満でした。最初から元気よくあっけらかんと演奏したのですが、ここはもう少し優しく大事に、もしくは荘厳に演奏してほしかったです。ブラームスはここまでたどり着くのに二十年近い歳月を必要としたのですから・・・。
最後は第一楽章と同様に劇的に盛り上げ、大きな拍手とともに終わりました。「ブラボー」を叫んでいるひとも少なくはなかったので大方のひとは満足したのでしょう。しかしやはりわたしには満足できないところが多々ありました。今回のブラームスは陽光に照らされたような明るい陰のないブラームスでした。それはそれでいいのですが、レヴァインさんがウィーン・フィルと演奏したCDを聴いたときのような興奮はなかったです。まだボストン響の団員達がレヴァインさんの意図を全部消化しきれていなかったのかもしれません。わたしの耳には、昨年の夏のタングルウッド、小澤さんの棒の下で、もっとゆったりとしたテンポで緊張感を持ちながらも生き生きと演奏されていたブラームスの同曲が思い出されました。
オーケストラはコンサートマスターの一生懸命な姿が印象に残りました。自分たちの新しい音楽監督のためにもがんばっている気持ちが伝わってくるようでした。ティンパニ奏者の果敢な打ち込みも目立っていました。弦楽器群はいつにもまして好調で美しい響きを楽しませてくれました。問題はやはり管楽器群だと感じます。これから新音楽監督であるジェイムズ・レヴァインさんにはいろいろ課題が待っていそうです。なんと言っても四半世紀以上も小澤征爾さんが音楽監督をつとめてきたオケです。変えていくことは難しいかもしれませんが伝統の良いとこは残しつつも自分のオーケストラにしていってもらいたいですね。健闘をお祈りします。
《私のお気に入りCD》
ブラームス
交響曲1〜4番
アルト・ラブソォディー*
ハイドンの主題による変奏曲
クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団
アネッテ・マルケルト(アルト)*、ベルリン放送合唱団*
CAPRICCIO COCO-78497〜500 (国内盤)レヴァイン指揮ウィーン・フィル(DG)による明るい覇気に富んだ演奏も良いですが、わたしが好きな侘びさびのあるブラームスの演奏は、上記のCDになります。きっともう方々で語られているCDだと思うのでわたしが付け加えることもないのですが、わたしのイメージするブラームス像にピッタリとくる音が聴こえてきます。大変ゆったりとしたテンポで大事に積み上げていくような演奏で、熱狂とは無縁ですがジーンとせまってくる喜びと感動では一番です。2〜4番も同じタイプの演奏です。特に4番は「ジーン、ジーン」と何度も押し寄せてきます。聴いてみてください。
(2003年6月23日、岩崎さん)