■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2002-2003 シーズンを振り返って
アメリカで聴いたウィーン・フィル

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ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

2003年2月28日 午後8時〜
マサチューセッツ州ボストン、シンフォニー・ホール

世の中には世界三大オーケストラという言葉があり、一般的にベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管を指すらしい(アメリカではシカゴ響も入れて四大オーケストラ!?)。わたしもそのことに異論はありませんが、生で聴いてみたかったナンバーワンはウィーン・フィルでした。わたし、ミーハーなんで・・・(汗)。なにはともあれ、日本ではチケットが一万円以上するのは当たり前、そのチケットさえ、今まで取ることが出来ませんでした。それが今回簡単にしかも$60という正規料金で席を確保することができました。指揮者は一昨年と今年のニューイヤーコンサートの指揮台に立ったアーノンクールさん。プログラムにはシュトラウス・ファミリーのワルツやポルカ等と、ベートーヴェンの《田園》交響曲が含まれており、楽しみにこのコンサートを迎えました。

さて実際に会場に着いてびっくり、会場の2〜3割が空席なのです。ボストンの街(アメリカはどこも同じかもしれませんが)では地元のオーケストラ(ボストン交響楽団)は人気が高くいつも満席なのですが、どうも外来(国内外を問わず)のオーケストラの場合はそうならないことは今までも見てきました。しかしまさかウィーン・フィルまで・・・。日本ではウィーン・フィル・ブランドは絶対で、ベルリン・フィルと並んでどこか別格扱いなのですが、アメリカではそういった認識はないのでしょうか。後で聞いた話によると、ニューヨークやワシントンの公演も満席ではなかったと言いますし・・・。それとも日本の人気が異常なのでしょうか。しかしチケットの値段が他の外来オーケストラに比べて高価なことを考えると、やはりアメリカでもウィーン・フィルは特別扱いされている気はします。

それとひとつ気になった問題があります。それは、この演奏会の後、音楽が好きなアメリカ人女性の知人二人にそれぞれ別々の機会に「ウィーン・フィルを聴きに行ったんだ」と話したとき、二人の最初の答えがまず「あの女性を雇わないオーケストラ」と異口同音だったことです。これには大きなショックを受けました。もうすでに女性奏者は少ないにせよ実在していましたし(わたしが確認できた範囲では4人の女性奏者が参加していました)、この問題はもう何年か前の話だと思っていたからです。二人中の二人ですから少ない数と思われるかも知れませんが、アメリカ人にとって、この問題は我々が感じている以上に大きなわだかまりとして残っているのかも知れないと感じました。ただ肝心の音楽までそんな耳で聴いているのだとしたら、ちょっともったいないなとも思いました。

前置きがとても長くなりましたが、肝心の演奏です。前半はヨハン・シュトラウス、ヨーゼフ・シュトラウスのワルツや、ポルカを聴きましたが、さすがウィーン・フィルと言った感じでした。愉悦感あふれる演奏で、聴いていて楽しいです。一緒に来ていたアマチュアオーケストラでチェロを弾いたこともある友人は3拍子の拍の取り方が微妙に違うと言っていました。きちんと正確に3つに分けるわけでなく2拍目が微妙に短く、その分3拍目が長くなるらしい。ウィーン訛りと言うことでしょうか。それが得も言われぬリズムの妙の秘密なのでしょうか。私の知っている曲は残念ながら2曲目だけだったですが、鳥の鳴き声をまねたような奇妙な楽器の音に会場が笑いに包まれるなど、非常に和やかな雰囲気のなか、まるでニューイヤーコンサートを楽しんでいるかのようでした(ホール自体も形が似ているし!)。

休憩後はベートーヴェンの《田園交響曲》です。ウィーン・フィルのベートーヴェン、もうこれは特別なものだと思います。元々ベートーヴェンやモーツァルトの交響曲などを自分たちの音楽として正しく演奏するために生まれたようなオーケストラなのですから。私は《田園》というとワルターやベーム、ザンデルリンクなど曲自体に美しさを語らせたような演奏が好きですが、アーノンクールさんはどうでしょうか。彼はどちらかと言うと、いろいろなことをするタイプじゃないかと思います。ちょっとしたリズムや音色の変化。ハッとさせられる部分がいくつかありました。第一楽章のテーマが盛り上がるところで、リズムを微妙に変化させ一陣の風がさっと吹き込むような感じを作っていましたし、またある場所では弦楽器の音色をノンビブラートで虚無的に弾くことにより、かえって無常感を出していました。つまり彼はいろいろな手練を尽くし、この聞き慣れた音楽を自分の解釈に染めて演奏させるわけですが、それが全く奇異に聞こえないのが素晴らしいと思いました。もちろんウィーン・フィルあってのことだとは思います。今日の演奏の頂点はやはり第五楽章でした。圧倒的な高揚感と感動を伴ったクライマックスを創り、曲を終えました。通常の演奏でも嵐の第四楽章の後、第五楽章の平和なメロディーが聞こえてくると、《田園》っていいなあ、としみじみ思うのですが、それよりもっと別な高揚した感動がありました。コンサートマスターのライナー・キュッヒルさんはプログラム前半から曲が終わってもその厳しい顔つきを崩すことはありませんでしたが、《田園》終了後は少し表情もゆるんだようです。アンコールにはもしかして「美しく青きドナウ」、「ラデツキー行進曲」か?!とも期待しましたが残念ながら他の曲でした(笑)。

コンサート終了後、アーノンクールさんに会いサインをもらうことが出来ました。演奏終了後の興奮冷めやらぬような赤ら顔でしたが、快くサインに応じてくれました。

と言うわけで初めてのウィーン・フィル体験は終了しましたが、いつかはその本拠地ウィーンで聴いてみたいものです。


(2003年7月7日、岩崎さん)