■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2002-2003 シーズンを振り返って
レーピンさんのシベリウスのバイオリン協奏曲

ホームページに戻る
アメリカ東海岸音楽便りトップページに戻る


April 02, 2003 8:00 PM

Paavo Jarvi, conductor
Vadim Repin, violin
Cincinnati Symphony Orchestra
Boston Symphony Hall
Boston, MA

Erkki-Sven Tuur : Exodus
SIBELIUS : Violin Concerto in D minor, Opus 47
SHOSTAKOVICH : Symphony No.10 in E minor, Opus 93

私たちはフリート・ボストン・シリーズという一連のコンサートの定期会員になっています。フリートとはアメリカにある大手銀行の一つで(たぶん)ボストンに本拠地を置いています。この銀行がメインスポンサーとなって年間いくつかのコンサートをボストンで主催しています。海外やアメリカの他の都市のオーケストラや室内合奏団、ソリストの演奏が中心となります。2002〜2003年度シーズンにはアーノンクール&ウィーン・フィル、ヤンソンス&ピッツバーグ響、ウェザー・メスト&クリーブランド管、エマーソン弦楽四重奏団、アンネ・ゾフィー・ムターさんなどが登場しました。定期的にコンサートチケットを購入しているとたまにはいいこともあるようで、このフリート・ボストン・シリーズから今回フリーのチケットをプレゼントされました。プログラムはシベリウスのバイオリン協奏曲とショスターコービッチの交響曲10番と私にとってはお気に入りの曲が並びました。

二曲目に我々夫婦が偏愛するシベリウスのバイオリン協奏曲です。登場したソリストのレーピンさんはかなりの大柄です。妻に言わせると『吉本のアゴの人』にとてもよく似ている!?(吉本新喜劇の辻本茂雄さんのことです。辻本ファンの皆様、レーピンファンの皆様ゆるしてください) それはさておき、最初の出だし、前回ミドリさんが全身を使って祈るように弾き始めたあの出だしを、レーピンさんは事も無げにあっさりと、何でもなく弾き始めます。ちょっと拍子抜けしそうになったのですが、さにあらず。彼の紡ぎ出す音がものすごく豊かで美しいのです。そんなに力を入れて弾いているようには見えないのですが、出てくる音は豊かで決してオーケストラの音にマスクされることがありません。弱音部になっても音がやせることなく美しく響いてきます。昨年からミドリさんを初め、パールマンさんやムターさんなどいろいろなバイオリニストを聴きましたが、他の誰よりも音が豊かだと思いました。感情にまかせて弾くと言うよりは淡々と弾いているように見えるのですが、出てくる音は変幻自在で表情豊かなものでした。ヤルビィ指揮シンシナティ交響楽団の伴奏もすばらしかったです。むちゃくちゃ巧いというわけではありませんがどっしりとした安定感のある演奏で支えていました。

第二楽章がまた名演。大変ゆったりとしたテンポを採り、思いの丈を外見は淡々としながらも表出していきます。レーピンさんのバイオリンはますます素晴らしく、このまま何時までも続いて欲しいぐらいでした。ところが第二楽章最後の和音が消えていくその瞬間!突然私の左後ろのおばちゃんが「ブラボー!」と叫んだのです。場内一瞬、凍りつきました。誰もが余韻に浸っていたい瞬間だったのに。場内の聴衆、オーケストラ、もちろんレーピンさんもこれで緊張の糸がどこかで切れてしまいました。第三楽章はどうも音が前の楽章ほど豊かに響いてきません。パッシッと音が決まらないのです。このおばちゃんの罪は重いです。ともかく第二楽章まではかつて聴いたこともない素晴らしいバイオリンを堪能できました。妻は『吉本のアゴの人』と言っておきながらすっかり彼の音に魅了され、彼のCDを探して来いと言う始末です(笑)。

後半はショスタコービッチの交響曲10番。この曲は昨年11月に、ヤンソンス指揮ピッツバーグ交響楽団の素晴らしい演奏を聴いたばかりですが、今回も素晴らしいです。ヤルビィさんは全体に遅めのテンポを採り、各パートをたっぷり歌わせ、抉りのきいた音楽を造っていきます。第二楽章の怒濤のごとき音の渦もすさまじかったですし、また第四楽章序奏の木管群(特にファゴット)の心にしみる歌もよかったと思います。第四楽章終結部の畳み込むような熱狂はヤンソンスさんの方が一枚上だと思いましたが、ヤルビィさんのじっくり積み重ねていくようなクライマックスも十分よかったです。ヤルビィさんは小柄ながら全身を使ったわかりやすい指揮で、特に第三楽章のワルツの部分など本当に踊るように指揮しているのが印象的でした。


(2003年5月19日、岩崎さん)