■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2002-2003 シーズンを振り返って
ミドリさんのシベリウスのバイオリン協奏曲Part 2
(やっぱりすごかったシカゴ響)

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April 05, 2003 8:00 PM

Esa-Pekka Salonen, conductor
Midori, violin
Chicago Symphony Orchestra
Chicago Symphony Hall
Chicago, IL

SALONEN : Insomnia (US Premiere)
SIBELIUS : Violin Concerto in D minor, Op. 47
STRAVINSKY : The Firebird (complete)

今年二月に聴いたミドリさんの独奏によるシベリウスのバイオリン協奏曲では、彼女のソロは素晴らしかったのに対し、オーケストラパートがいただけませんでした。その後私はもう一度彼女の演奏を他のオーケストラで聴いてみたくなり探しました。そうするとあるではありませんか。シカゴで。技術的には全米一どころかベルリンフィルと並んで世界一といわれるシカゴ交響楽団。また指揮は中堅の実力者エサ・ペッカ・サロネンさんですから、これ以上望むべくもない組み合わせです。こうして私達はシカゴの地を訪れ、シカゴ響を初めて生で聴くこととなりました。

初めて訪れたシカゴのシンフォニーホールはボストンそれに比べると奥行きは狭いですが、高さがあります。またステージ後方にも座席があり、今回我々はその後方席に座りました。私達の位置はステージ前方からみて、やや右より、ちょうどチューバ奏者の後ろにあたりました。

一曲目はサロネンさん自身の作曲によるインソムニア。"不眠"という意味です。音楽は終始、原始的な不気味なリズムに支えられて進行していきました。やや冗長に感じられる部分もありましたが、盛り上がりに興奮させるようなところもあったのは事実です。終了後は盛んな拍手が作曲者兼指揮者であるサロネンさんにおくられていました。

二曲目は我らがミドリさんの登場。今回もシルバーっぽい色のどちらかというと地味な感じのドレスをまとっています。オーケストラのひんやりとした感触の伴奏にのってミドリさんのバイオリンが静かに音を紡ぎだしてゆきます。ミドリさんはやはりやや前傾姿勢で祈るように音を発しましたが、ボストンのときよりは激しく体を動かしません。ミドリさんの音は今週聴いたレーピンさんほど豊かではなくやはり線が細い印象はぬぐえません。しかしその全身を使って出すバイオリンの音色は清廉そのもので、決してカラフルではありませんが聴く者を痺れさせるものを持っていると思います。また北欧の厳しい自然を感じさせるシベリウスの曲想にはまるものがあります。シベリウスの生まれ故郷フィンランド出身の指揮者であるサロネンさんもさすがと思わせました。サロネンさんの指揮は的確でオーケストラはミドリさんをしっかりとサポート。演奏するシカゴ交響楽団は本当に上手いです。今までボストン交響楽団、シンシナティ交響楽団とこの曲の伴奏を聴きましたが文句なく一番です。まったく自然なんです。第二楽章ではそのクライマックスに思わず涙ぐんでしまいました。第三楽章もかっこよく決まり、大きな拍手とスタンディングオべーションが自然に起こりました。ミドリさんは何回も舞台に呼び戻されていました。

休憩を挟んでのストラビンスキーの《火の鳥》はシカゴ交響楽団の巧さが存分に味わえた演奏でした。今回席のせいもありいろいろな楽器のソロがはっきり見え、聴こえました。この曲では金管、木管を問わずさまざまな楽器のソロがいたるところで登場し、しかもそれがとても難しいらしいのですが、まったく難しそうに見えません(聴こえません)。それどころかなんともいえないニュアンスが付いています。きっと余裕があるからできるのでしょうね。ただただ感心するばかりです。またすぐ足元にチューバ奏者をはじめとした噂の金管群団がいたせいもあり、本当に足元から地響きがたつかのようにすさまじくよく鳴ります。魔王のダンスの部分や、最後の大演団の部分では、ハンサムさでは指揮界ナンバーワン?!のサロネンさんが顔をゆがめて絶叫するようにクライマックスを創ってゆくさまは否が応でも興奮させられました。そしてどんなに盛り上がっても決して荒くならずどこまでも伸びてゆくような響きを出したシカゴ交響楽団。恐れ入りました。是非また機会があれば聴いてみたいものです。


(2003年5月20日、岩崎さん)