■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2003年タングルウッド音楽祭
ドヴォルザークの交響曲第8番、サラ・チャンさんのシベリウスのバイオリン協奏曲を聴く

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クルト・マズア指揮

2003年7月12日 午前10時30分? (オープン・リハーサル)
マサチューセッツ州レノックス、タングルウッド、クーセヴィツキー・シェッド

今回聴いたのは正式なコンサートではなくオープン・リハーサルです。タングルウッドでは日曜日のプログラムのリハーサルが土曜日の午前中に行われており、一般にも公開されています。今回はそれに行ってまいりました。本当はこの日の夕方のオール・ベートーヴェン・プログラムを聴きに行くつもりだったのですが、妻の希望でこうなってしまいました。それはもちろんシベリウスのバイオリン協奏曲が含まれているからです(笑)。ちなみにオール・ベートーヴェン・プログラムではフリューベック・デ・ブルゴスさんの指揮でベートーヴェンの交響曲第7番とピアノ協奏曲5番《皇帝》が予定されていました。ピアニストはヴァン・クライバーンさんです。ちょっと懐かしい名前ですね。

リハーサルと言いましても、結構人が集まり、広大なクーセヴィツキー・シェッドの6割が聴衆で埋まっていました。ちなみにオープン・リハーサルは$16の一律料金で一部を除く席に自由に座れます。

さて指揮者のマズアさんですが、わたしはこの指揮者とあまり相性がよくありません。以前聴いた二つのコンサート(ニューヨーク・フィルとのブルックナーの交響曲第3番、ロンドン・フィルとのブルックナーの交響曲第7番)がことごとく期待を裏切るものだったからです。しかしここでは少し考えを改めて聴きたいと思いました。私のブルックナーに対する演奏の許容範囲が狭かったのかもしれませんし、もしかしたらドヴォルザークやシベリウスは良いかもしれません。結果としては、この期待は当たらずも遠からず、と言ったところでしょうか。

演奏は本番と異なり、ドヴォルザークの交響曲第8番から行われました。どちらかと言うと流麗な演奏で、この曲に出てくる親しみやすい様々なメロディーが美しく再現されていました。第一楽章はまったく止めずに演奏したのですが、第二楽章から第四楽章では、マズアさんはしきりに演奏を止めて細かく指示を出したり、コンサートマスターと話し合ったりしていました。私の偏見がまだ抜け切っていないのか、マズアさんが指示する前のほうが良いような箇所も幾つかありましたが・・・。トランペットの方はずいぶんと気持ちよく吹いていて、第四楽章冒頭のファンファーレなど指示する前のほうが輝かしかったのですが、指示後は少し暗い音色でおとなしくなってしまいました。ところで第四楽章中間部に、日本の民謡のようなメロディーが登場しますが(わたしはここを聴くたびに『コガネムシーは金持ちだー』のメロディーが頭に浮かんできます。わたしだけ?!)、ここももっと洗練されていて、そのようにはあまり聴こえませんでした。最後に付け加えておきたいのは、全曲を通じ、ボストン響の弦の響きが素晴らしい。再認識しました。妻もこの美しい演奏に、この曲が大好きになったようです。

次に演奏されたチャイコフスキーの序曲《ロミオとジュリエット》も流麗な演奏で決して大風呂敷を広げたりしませんが、まとまった演奏でした。ただ、劇的な演奏を期待すると肩透かしを食らうかもしれません。

休憩後、サラ・チャンさんが加わってシベリウスのバイオリン協奏曲です。サラ・チャンさんの演奏は体当たり的でなかなかの熱演なのですが、どこかしら軽いです。フレーズの最後の部分を力を入れて弓を飛ばすように弾くのが目に付きました。長い髪を振り乱しながら演奏する姿も重なって、アクロバティックな演奏というのが私たちの印象です。そう開き直って聴けば、なかなかスリリングな演奏で楽しむことは出来ました。ただ速いパッセージで低い音からいきなり高い音に飛ぶと、ちょっと音程が不安定なところが散見されたのが残念だったのと、リハーサルとは言え、演奏の合間ニヤニヤしていたのは、わたしにはいただけませんでした。一方、マズア指揮のボストン響は素晴らしかったです。まったく自然な破綻のない演奏でした。第三楽章のズンドコ節もバッチリ決まっていました。今年の2月に聴いた同じ団体の演奏とは思えませんでした。途中何回か止めたのは自分の解釈を徹底させるためだったようです。

と言うわけで、リハーサルといえどもかなり楽しめました。また機会があれば聴いてみたいです。ところで本番はどんな演奏になったのでしょうね。もし聴かれた方がいましたら感想を伺いたいものです。


(2003年7月28日、岩崎さん)