■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2003年タングルウッド音楽祭
現在のボロディン弦楽四重奏団を聴く

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ボロディン弦楽四重奏団

2003年7月24日 午後8時30分?
マサチューセッツ州レノックス、タングルウッド、セイジ・オザワ・ホール

ボロディン弦楽四重奏団、この名前を聞いてわたしが真っ先に思い浮かべるのは名盤として名高いショスタコービッチの弦楽四重奏全集です。当然わたしも所有していまして、この全集はわたしが買ったショスタコービッチの弦楽四重奏の初めてのCDというだけでなく、これらの演奏のレファレンスとして、今なお、わたしのCD棚で重要な位置を占めています。彼らの演奏に比べると、最近の若い団体の演奏はどうもせっぱ詰まった突き詰め方が足りないような欲求不満を覚えるのは仕方のないことかもしれません。

このボロディン弦楽四重奏団の名前をプログラムに見つけた時、実は大変失礼ながらちょっと驚いてしまいました。まだ活躍していたのだと・・・。というのも最近は新しい若い弦楽四重奏団が多く活躍し、ボロディン弦楽四重奏団の新譜CDを眼にすることは絶えて久しかったからです。今回ボロディン弦楽四重奏団が聴けるという楽しみとともに、もしかしたら全然違う団体に変わっているかもしれないと言う不安も抱え聴きに行って参りました。

さてコンサート会場に着きプログラムを早速確認してみると、予想通り、全集の時のメンバーとは異なっており、残っているのはチェロのヴァレンティーン・ベルリンスキーさんとバイオリン(現在第一バイオリンを務めるが全集では第2バイオリン)のアンドレイ・アブラメンコフさんでした。ちなみにこのベルリンスキーさんは団体創設当時からのメンバーで今年77歳になるようです。

一曲目はベートーヴェンの弦楽四重奏第9番です。ラズモフスキーといわれる作品群の一曲に当たります。最初の響きを聴いて抱いていた不安はどこかに飛んでゆきました。少し愁いを感じさせる響きなのですが、まさしくベートーヴェンです。第二楽章もゆったりとしたテンポの中、チェロのピッチカートがしっかりと効きその上を他の奏者達が絡み合いながら美しい旋律を奏でます。響きにはやはりどことなく悲哀が感じられました。第三楽章から第四楽章とすすむに従ってすさまじい覇気を感じさせた第一バイオリン奏者も素晴らしかったです。第四楽章ではすさまじい迫力とリズムの切れが高い次元で融合し、まさに息もつかせぬ音楽にしていました。ベートーヴェンの弦楽四重奏は昨年エマーソン弦楽四重奏団の演奏でも聴きました。その時にはテクニックに圧倒されこそすれ、曲に感動することはなかったのですが、この日は曲に心底感動しました。

前半があまりにも素晴らしかったので、後半のショスタコービッチはさらに期待していたのですが、う〜ん、まあまあいい演奏でしたね。いや、たぶん普通には十分名演だったのだと思います。しかしです、全集で聴かれた一種異様なせっぱ詰まった感じがなくなっています。あの全集の時とは時代が変わりましたし、メンバーも替わりました。ショスタコービッチを演奏する意義も変わってきたのかもしれませんが、あのまさしくショスタコービッチの悲歌とも言えるような演奏をもう聴けないかと思うとわたしには少し寂しかったのです。

《私のお気に入りのCD》

ショスタコービッチ:弦楽四重奏曲全集&ピアノ五重奏曲
ボロディン弦楽四重奏団
スヴァトスラフ・リヒテル(ピアノ)
MELODIYA (BMG) BVCX?8001〜6 (74321-40711-2)

過去へのノスタルジーかもしれませんが、やはりこの演奏はショスタコービッチの弦楽四重奏における一つの金字塔であると思います。きっと、もうこんな演奏は聴けないのでしょうね。


(2003年8月5日、岩崎さん)