■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に■
2003年マールボロ音楽祭
モーツァルト、シュラー、ベートーヴェンの室内楽作品を聴く
2003年8月2日 午後8時30分〜
ヴァーモント州マールボロ、パーソンズ・オーディトリアムモーツァルト:ピアノ三重奏曲第2番ト長調 KV.496
- リチャード・グード(ピアノ)
- タイ・マレイ(バイオリン)
- ニコラス・ツァヴァラス(チェロ)
シュラー:弦楽四重奏曲第4番
- 二宮綾野(バイオリン)
- エリン・キーフ(バイオリン)
- サミュエル・ローズ(ビオラ)
- サラ・カータ(チェロ)
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第6番変ホ長調 作品70-2
- ベンジャミン・ホックマン(ピアノ)
- スージー・パーク(バイオリン)
- デイビット・ソイヤー(チェロ)
私たちの今季初めてのマールボロは上記のコンサートです。最初に告白しますと、私は普段偏った聴き方をしていまして、つまり特定の作品を除きあまり室内楽は聴いておりません(汗)。今回のコンサートもシュラーという現代作曲家の作品は別にしても、モーツァルトもベートーヴェンも初めて耳にする作品でした。
一曲目はモーツァルトのピアノ三重奏曲です。ピアノは音楽祭の音楽監督の一人であるリチャード・グードさんが務めました。その彼の軽やかですが、しっかりしたピアノのソロから曲は始まりました。バイオリンとチェロは学生とも思える若い奏者が務めました。しかしこの二人の音色音量のバランスがよくありません。バイオリニストの方はしっかりと固めの音でシャキシャキと弾いていくのですが、チェリストの方は優しげな音色でやや弱々しいです。グードさんはバイオリニストの姿勢に近いのですが二人のバランスをとるのにちょっと大変そうでした。どうもこの二つの楽器の会話にチェロが少し押されぎみという印象を受けました。最終楽章の最後になってようやく、チェロの方は「物申す」という感じででてきましたがちょっと遅かったかな(笑)。でももしかするとそういう曲なのかもしれません。
一方のベートーヴェンのピアノ三重奏曲ではチェロの方が(かなりのお爺さんに見えましたが)朗々と鳴り渡る音でしっかりと低音部を支え、三つの楽器での音楽での会話を楽しんでいる風にさえ見受けられました。若いピアニスト、バイオリニストもお互いに影響しあいながら生き生き弾いていくといった感じでした。と言うわけで、このベートーヴェンのほうが聴いていてずいぶん楽しかったですし感銘を受けました。
しかし、このコンサートで一番私が感銘を受けたのは今まで名前さえ知らなかったシュラーの弦楽四重奏曲でした。シュラーは1925年生れで今年78歳。作品が出来たのは2002年で、マールボロでこの作品が演奏されるのは今回が初めてだそうです。私が知らないだけでなく、もしかしたら演奏者達も今回のこの音楽祭に参加して初めて学んだ曲かもしれませんね。まずその四人の奏者達が高い集中力で、一つ同じ目標に向かって演奏しているのが感じられました。四人(特に第一バイオリンの方とビオラの方が図抜けていたと思います)の高い技量に支えられ音色の統一感も素晴らしかったです。その痛烈な響きに鳥肌が立つことも度々でした。作品に漂う雰囲気はショスタコービッチの後期の弦楽四重奏曲をもっと複雑にしていった感じです。曲は4つの楽章から構成されていますが、最終楽章では後半部分で第二バイオリン、第一バイオリン、ビオラの順で奏者が退場して行き、最後はチェロの独奏で静かに曲を終えました。演奏後、作曲者であるシュラーさんも舞台に上がり、決して儀礼的ではない温かな拍手が作曲者、演奏者に贈られていました。
と言うわけで今日の演奏会、経験豊かな演奏者と将来性豊かな若い奏者の共演がそれぞれ聴けたわけですが、それぞれのグループにより、音楽の方向性のようなものが違っていて楽しめました。こういった経験を吸収し、これらの若い奏者の中からひょっとすると未来の大物が出てくるのかも知れませんね。
(2003年8月9日、岩崎さん)