■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

レヴァイン指揮ボストン響のドボ8を聴く

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ジェームズ・レヴァイン指揮 ボストン交響楽団

2004年1月17日 午後8時〜
マサチューセッツ州ボストン、シンフォニー・ホール 

モーツァルト:交響曲第31番 ニ長調 K.297「パリ」
カーター:Micomicon (世界初演、ボストン響依嘱作品), Partita
ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 作品88

このコーナーの題名は『アメリカ東海岸音楽便り』で、副題が『ボストン響のコンサート・レポートを中心に』となっております。ところが最近、ボストン響のコンサートから遠ざかってしまい、申し訳なく思っておりました。2004年はもう少し、ボストン響のコンサートに参上できるのではないかと思っています。

新年、最初のコンサートはレヴァイン指揮するボストン響のコンサートです。レヴァインさんはご存知の通り、2004年秋よりボストン響の音楽監督に就任します。現在は指名音楽監督の地位にあり、2003−2004シーズンは今回の定期公演1週だけに登場します。プログラムはドボ8の愛称で親しまれているドヴォルザークの人気曲、交響曲第8番を含む上記のようなものです。ボストン響のドボ8は昨年タングルウッドでマズアさんの指揮で聴き、その流麗な演奏に感心したのですが、今回はどんなドボ8を聴かしてくれるか楽しみにこのコンサートに出かけました。

演奏前、舞台に並んでいるオーケストラを見ると、左から第一バイオリン、チェロ、ビオラ、第二バイオリン、そしてベースがチェロの後ろという対抗配置で並んでいました。そういえば昨年もレヴァインさんの指揮の下、この配置で演奏していたのを思い出しました。最近この並びは特に珍しいわけではないのですが、通常、現代配置を採用していたボストン響が、音楽監督になるジェームズ・レヴァインさんの下でこの配置を採ったのは意味深長なのではないでしょうか。

コンサート最初の曲はモーツァルトの交響曲第31番「パリ」です。今回のコンサートに先立ってCDで何回か聴くまで、私にとってはあまりなじみのある曲とは言えませんでした。一聴、これはと言うメローディーはありません。しかし、モーツァルトのエッセンスが詰まった佳品で、聴けば聴くほど味わいが増す曲ではないでしょうか。今回の演奏は疾走するモーツァルトと言った趣で、早めのテンポで重心も少し軽めでしたが、私は悪くないと感じました。

続いて、1908年生まれのカーターの2作品、そのうちMicomiconはボストン響の依嘱作品で、レヴァインさんのために書かれたそうです。ボストン響はクーセヴィツキが音楽監督を務めた時代から、その時代を共に生きる作曲家達の作品の紹介に積極的で、毎年いくつかの依嘱作品を演奏しています。また、演奏会のプログラムに、所謂クラシック曲と現代曲が組み合わされているのはごく普通のことで全く珍しいことではありません。初めはこういったことに戸惑いもあったのですが、今ではすっかり慣れてしまいました。現代曲の好き嫌いはともかくとして、現代を生きる作曲家達のために作品を紹介する場を与えることは意義のあることだと理解できます。これらの作品を楽しみに、もしくは辛抱強く聴いている聴衆の姿がここにはあります。私たち夫婦は確実に後者なのですが(苦笑)・・・。

後半はお楽しみのドボ8です。これはレヴァインさんの良い特徴が出た演奏でもあったし、ボストン響の今現在の課題が見え隠れした演奏でもあったと思います。レヴァインさんの良さは劇的に仕上げる巧さです。タングルウッドでマズアさんのドボ8を聴いた時はどちらかというと少し押さえ気味な演奏で、それはそれで流麗な演奏で良かったのですが、今回は曲調に合わし音のダイナミックスレンジ、テンポの伸縮等がもっと自由に行われていたのではないでしょうか。第一楽章、第四楽章ではそれが劇的な効果を上げるのに成功していたと思います。ただレヴァインさん、今日の体調は万全ではなかったようで、顔色が最初から赤くかなり火照っているようでしたし、舞台登場時の動きも緩慢、昨年は使用しなかった椅子に座っての指揮でした。それが指揮にも影響しているのか、第三楽章の中間部は切れが悪く惰性で指揮してしまったかのようでした。体調が万全であれば、いっそうの名演が期待できたかもしれません。

私たち夫婦は一年間ボストン響を聴いてきて、次第にその響きに親しみを持ってきています。特に弦の音は結構気に入っています。また、一人の奏者の音が突出して聞こえたりもしない、協調性を併せ持った響きも好きです。しかし、いつも思う問題が金管の不安定さです。素人耳にはどうしても耳についてしまいやすいのかもしれませんが、他のオーケストラと聴き比べて、ここがもう少し安定すれば、ずいぶん印象も違うだろうにと思うのです。例えば、第一楽章冒頭の有名なテーマが弦によって奏されます。その丁寧で情感のこもった弦の音は素晴らしいです。ところが、この弦の音にホルン、トロンボーンの音が静かに重なると、その音色の不安定さとデリカシーのなさにがっくりと来てしまうのです。あら探しをしているわけではないのですが、こういったことが散見されるとだんだん安心して聴いていられなくなります。第四楽章もホルンが早いパッセージをかっこよく吹き鳴らす部分がありますね。この部分、今回五人の奏者がホルンを一斉に掲げ吹きました。五人の方が一糸乱れずにこれを吹ききると言うのは想像以上に困難だろうとは思いますが、3回登場したこの場面、3回とも音の粒が全くつぶれ、元の音型は聞こえてきませんでした。第四楽章の最後の部分などはレヴァインさんがかなり煽って追い込んでいたのでそんな細かいことより、全体の効果の方を優先した結果とも言えるのかもしれませんが・・・。対抗配置もまだまだ響きのバランスの点で問題がありそうです。私たちの座っていた席(セカンド・バルコニー・センター最後方部やや右より)にも関係あるのかもしれませんが、オーケストラの左側からばかり音が聞こえてくるような感じでした。

来シーズン、レヴァインさんは定期公演の内12週を担当されると言うことなので、こういったことが今より改善されることを期待したいと思います。演奏終了後の満員の会場からの大きな拍手も今日の日の演奏に対してだけでなく、レヴァインさんと今後のボストン響に対する大きな期待の表れではないでしょうか。


(2004年1月19日、岩崎さん)