■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に■
夫婦で聴くクラシックから親子で楽しむクラシックへ
皆様、岩崎です。
ほぼ3ヶ月ぶりの更新となってしまい申しわけございませんでした。また更新が途絶えている間、伊東様を初めとして皆様にご心配をおかけしましたこともお詫びいたします。その更新が滞った理由については今回の話を読んでいただければご理解いただけるかもしれません。
今回は正直言いましてコンサートのレポートでもなく、あまりクラシック音楽に関係のない話が多く含まれておりますが、とても大事な話でもあるので、どうぞしばらく我慢してお付き合いください。
実はタイトルを見てお気づきのことと思いますが、子供が誕生します。9月末の予定です。妻の妊娠が判明したのは今年の1月頃ですから、すでに6ヶ月が経過したことになります。幸い現在までの経過は順調です。
ところで、皆様の中にはたとえ相方がいらしても、一人でコンサートに行かれる方も多いのではないかと思います。以前、掲示板で「夫婦で聴くクラシック」というスレッドを立てたことことからも、我が家の場合は夫婦で聴きにまいります。
妻は幸いにして、クラシック音楽に理解があり、私と結婚する以前も一人でコンサートに行っていたぐらいですから二人で行くことに多くの問題はなかったわけです。もちろん聴く音楽の志向はかなり異なり、妻がピアノやバイオリンなどのソロ・リサイタルを好むのに対し、私は大オーケストラのコンサートを好みました。しかし、どのコンサートに行くかは、ほとんどの場合、私が決めていたのが実情です。私にはなじみのある曲でも、妻には初めて聴く曲も多かったはずです。例えば、マーラーの名前さえ知らなかった妻は私のせいで、この2年間で8番と10番を除くマーラーの交響曲を聴くことになったのです。加えて、コンサートだけではなく、その数日前から予習と題して、その曲目を家でCDで延々と聴かされてきたわけですから、妻の心境はいかばかりであったことでしょう。ありがた迷惑も甚だしかったことと思います。しかし、(こう思っているのは私だけかもしれませんが)コンサート後に二人で感想を話し合えると言う何物にも変えがたい楽しみがあったことも事実です。
妻の妊娠が判明した後も、つわりが軽かったこと、あらかじめ今季のほとんどのチケットを購入済みだったこともあり、予定していたコンサートにはすべて参りました。その数は現在まで20を優に超えます。中には9日間で7つのコンサートと言う無茶にもつき合わせました。妻が妊娠すると生活が変わるといいますが、私のコンサート生活に関する限りは、まるで変化がなかったと言うことになります。
皆さんご存知かもしれませんが、「たまごクラブ」という雑誌があります。妊娠判明後、妻が買ってきた本ですが、妊娠・出産関係の様々な情報が掲載されています。それによりますと、おなかの中の赤ちゃんはかなり早い段階(妊娠24〜27週目)で聴覚が完成し、妊婦さんが音楽(クラシック音楽に限らず)を聴くことは胎教にいいそうです。ヘッドフォンで耳からだけ聴くよりもステレオ装置から全身で、そして一番効果が高いのが実際にコンサートで会場で生の音を聴くことだそうです。と言う事は、これだけコンサート通いをしたわが子にはかなりの効果があるのでは、と思ってしまいます。しかし、実際にはマーラーの交響曲などの激しい曲、リヒャルト・シュトラウスの歌劇「サロメ」などのとても胎教向きとはいえない曲、ワーグナーの楽劇「神々の黄昏」など演奏に何時間もかかる曲も含まれていました。さすがにこれらの曲目が好きな赤ちゃんはいないでしょうし、好きになっても考え物です。
さすがに最近は少し反省しておりまして、妻がそばにいる時は激しい壮大な曲は控えるようにしております。つまり、私の好きなマーラーやブルックナー、シュスタコーヴィッチなどはもっての外になるわけです。そこで最近よく聴くようになったのがバッハやヘンデルを含めたバロック期以前の音楽です。これはなかなか妻にも評判がいいようです。このあたりの音楽は私もこのような状況になってから聴き始めましたので、新たな発見も多く私自身も楽しんでいます。ちなみに、高周波音楽が多く含まれ不思議なエネルギーを持つというモーツァルトも胎教音楽として広く推奨されていますが、なんせ私の妻はモーツァルトは苦手と言うへそ曲がりなので今のところ敬遠されております。一番大事なのは母体自身が安らぎを感じることらしいので・・・。
このように一緒に音楽を聴いていますと時々、妻のおなかの中の子供がボコボコと動く様子が分ることがあります。おなかの中の子供がどこまで外界で流れている音楽が聴こえているのかはわかりませんが、私はどうしようもなく嬉しくなってしまいます。親子での初めての音楽鑑賞というわけです。
先程、私のコンサート生活はあまり変化がない(というか変化がないよう努めたわけですが)と書きましたが、それ以外では様々な生活の変化が現れています。仕事を早めに切り上げ、病院に付き添ったり、家事の手伝いも増えました。また家も6月にはより広いところへと引越しいたしました。そして一番大事なのは家にいる時、妻と一緒にすごす時間が格段に増えたことです。そういうわけで、最近も相変わらずコンサートには通って、感想をメモには残しているのですが、原稿としてまとめ上げるまでに至りませんでした。この状況は当分の間続くと思われます。しかし、今後しばらくの間は、このメモの中から、出来る範囲でピックアップして皆様に報告できたらと思っています。
また今現在のところ、私達のこちらでの滞在は長くても来年の春までと考えています。と言う事は、9月からの各オーケストラ、コンサートホールの新シーズンをおおよそカバーする期間なわけです。ただ、子供が誕生する9月以降は当分の間、コンサートを自粛しようと思っております。妻の母も、また私の母も、諸所の事情により、アメリカまで来て世話をしてもらうのは不可能のようで、そうなるとやはり私が全面的に妻と子供を世話しなければなりません。これまで散々妻には無理を言って、コンサート通いをしてまいりました。今度は私が助ける番だと思っています。幸い、アメリカではそうした際の制度が整備されており、誕生時、またその後も、父親が母親と一緒に世話をするのは当然といった意識も高いので、この貴重な機会を楽しみたいと思っています。
と言うわけで、伊東様とはこの企画を始める際、日本に帰るまで頑張ります、とお約束させていただいたのですが、上のような理由から、勝手ながらが「アメリカ東海岸音楽便り」の更新は子供が生まれるまでとさせていただきたいと思います。もちろん音楽を聴くのをやめるわけではありません。むしろ、これからは親子でクラシック音楽を楽しみたいと思っています。当然、「An die Musik」にも今後も別の形で協力させていただきます。
残り短い期間ですが、今後も私の駄文としばしの間お付き合いいただければ幸いです。
2004年7月31日、岩崎さん