ゲヴァントハウス管のマーラーを聴く

ホームページ WHAT'S NEW? CD試聴記


 
CDジャケット

マーラー
交響曲第5番
ノイマン指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
録音:1965年6月
BERLIN Classics(輸入盤 BC 2074-2)

 チェコ人であるノイマン(1920-1955)は、1964年から68年の間、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の音楽監督を務めた。68年、「プラハの春」が勃発すると、チェコに帰り、チェコフィルの首席指揮者になっている。ノイマンといえば、マーラーだ。チェコフィルとのマーラー録音は非常に高い評価を得ていたと思う。ノイマンは今や忘れられつつある指揮者だと思うが、密かにファンがいるのではないだろうか。きっとそうだと思う。私も忘れがたい指揮者だ。ノイマンはチェコフィルとたびたび来日し、優れたマーラーを聴かせていた。私はテレビで放映されたノイマンのマーラー交響曲第1番の演奏を見たことがあるが、大熱演であった。チェコフィルのラッパ軍団が一心不乱に第4楽章を吹きまくっていたのが印象的であった。あまりに印象が強かったので、私は彼らの楽器の色や演奏中の動きまで覚えている。

 さて、そのノイマンがゲヴァントハウス管時代に録音したマーラーがこれ。ゲヴァントハウス管の録音には全く期待しないで聴き始めたが、これは実によく整った演奏だと思う。現在市場に出回っている同曲演奏の中では地味な方だと思うし、音楽評論家の方々は「交通整理に終始」などと陰口を叩きそうな録音だろうが、私はとても楽しんで聴いた。なぜかというと、ノイマンの演奏はとても美しいのである。マーラーの交響曲第5番は、私にとっては少しハチャメチャな曲で、実は最も苦手とする。一般的には大人気の曲だが、冒頭からやかましいし、何が何だか分からないうちにどんちゃん騒ぎで終わってしまう。「何でこれが名曲なのか」と思ったことは一度ならずある。そこへいくと、ノイマンの演奏はハチャメチャなどではない。巨大な音響としてのマーラーであるよりも、耽美的な旋律をきれいに歌わせることに主眼をおいた演奏だから、とてもしっとりとしている。まさか、60年代の東ドイツでこんなにすばらしいマーラーがあったとは驚きである。それも、ゲヴァントハウス管という最もマーラーの音響にはイメージが合致しないオケで行われているから面白い。

 技術的にもほとんど申し分がない。70年代以降、ゲヴァントハウス管の技術力は急低下し、CDで聴いていても不安になる場合があるが、少なくともノイマンの時代までは危なげないことが分かった。マーラーの交響曲の中で、最も金管楽器が華々しく活躍する第5番でさえこのように演奏できるからには、他の演奏も期待できるであろう。BERLIN Classicsはこの組み合わせのマーラーをずっと残しておいて欲しいものだ。この録音は1965年に行われているのに、音質も良かった。第3楽章の中頃、テープの継ぎ目らしきものがあるようだが、気になったのはそれくらいだ。

 ところで、どうして急にこの録音を登場させたかというと、2つ理由がある。

 一つ目は昨年末に行った「隣町のオケを聴く」シリーズでノイマンだけを取りあげなかったこと(例えば、シリーズその1ご参照。こちらをどうぞ)。これは読者からも叱責を受けていたので、気になっていた。無論、この1枚だけでノイマン時代を説明できるなどとは思っていないので、そのうちもっと本格的に取り扱いたい。

 もうひとつ、これはどうしようもなくオタッキーな理由からである。笑っていただきたいのだが、この演奏にペーター・ダム先生が参加しているらしいことを突き止めたからである。ペーター・ダム先生は現在シュターツカペレ・ドレスデンの首席ホルン奏者として有名だが、1959年8月から1969年2月まではゲヴァントハウス管に首席ホルン奏者として在籍していたのだ。もちろん、CDにはダム先生の名前が記載されているわけではないので、これはじっと耳を澄ませて聴くしか判別の方法はない。ダム先生のホルンだとはっきり分かるのは、第3楽章、長大なホルンソロの部分である。まろやかで温かみのあるホルンが聞こえてくる。これは間違いない。狂喜乱舞した私は、さらに最強のカペレヲタク数人とこの録音を聴き返したが、その場に居合わせた全員が「ペーター・ダムに間違いなし!」と結論を出した。ノイマン&ゲヴァントハウス管のマーラーで、はっきりとダムの音が確認できるのは今のところこれだけである。ちょっと個人の危ない趣味を教えるようで気が引けたのだが、何卒ご容赦下さりたい。

 

2000年9月29日、An die MusikクラシックCD試聴記