ライブで聴くクーベリックのマーラー

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CDジャケット

マーラー
交響曲第1番ニ長調
ベルリオーズ
序曲「ローマの謝肉祭」作品9
クーベリック指揮バイエルン放送響
録音:1975年
ORIGINALS(輸入盤 SH 843)

 前回に引き続いてクーベリック。「またか」と思う方も多いかもしれないが、時間の都合で一度にはとても書ききれない。何とかご了承願いたい。

 こちらは1975年、手兵のバイエルン放送響とのライブである。クーベリックはライブとスタジオでは別人だという。それは誰でもそうで、スタジオと同じ演奏しかできない指揮者の方が恐い。しかし、クーベリックの場合はフルトヴェングラーの再来とまで言われたところに違いがある。かなり激しく燃えてしまうらしい。

 しかし、だからといってクーベリックの美質がすべてなくなってしまうわけではない。優れたバランス感覚の持ち主であるクーベリックの作る音楽はやはり自然な流れが常にあって好感が持てる。このライブ録音もそうだ。ライブといえばすぐ激烈な爆演を連想する人もいるかもしれないが、この演奏は決してそうではない。そうではないが、やはりすごいのである。

 このマーラー、1980年代以降に相次いで現れた強烈自己主張型のマーラーとは一線を画している。ちょっと恥ずかしい表現だが、優しい愛で聴き手を包み込む暖かい演奏なのだ。聴いているとその大きな包容力で自分が溶けていってしまうのではないかと思う。幸せな気分に完全に浸ってしまう。音楽は作為が感じられない全く自然なもので、鋭角的な表現がほとんど見られない。信じがたいほど心温まるマーラーで、マーラーの若き日の身を焦がすような憧れや苦悩、闘争心のようなものがクーベリックの指揮によって表現されていく。マーラーが書いた美しい旋律がごくごく自然に流れている様はまさに天国的ですらある。

 こうした演奏をライブで行うとは本当にすごいことだ。外面的な効果を狙うのではなく、音楽が持っている内面的な魅力が最高の姿で表現されているのである。全くすばらしい。もちろん、第4楽章では激しく燃焼するクーベリックが見られるが、全曲を通しての印象は変わらない。クーベリックがいかに優れたマーラー指揮者であったかよく分かる。

 ところで、このCD、売りがもうひとつある。驚異的に優れた録音である。発売元はORIGINALSというイタリアの海賊盤レーベルなのだが、一体どういう経路でこの録音を入手したのだろうか。大きな音で聴けば若干のテープノイズはあるものの、生々しく、みずみずしい音に仰天。スピーカーの左右いっぱいに広がる音場。ファゴットの音がやや大きすぎるかな?と思われる程度で、各楽器の音色が実に鮮明に、しかも自然に捉えられている。バイエルン放送局が一旦ミキシングをしたものが使われたことは間違いない。

 これだけ音質がいいと、バイエルン放送響の腕の良さがはっきり分かる。全くうるさくならないブラスセクション。特にホルンはまるでドイツの森の中から聞こえてくるかのようなすばらしさ。木管は艶やかでのびがあり、弦楽器は驚くほどしなやかだ。もう何回でも聴いていたい、すばらしい演奏・録音である。これではあの十分に優れたスタジオ録音も色褪せてしまうであろう。海賊盤、恐るべし。

 なお、余白に収録されている「ローマの謝肉祭」について。こちらもバイエルン放送響の名人芸が遺憾なく発揮されたすごい演奏だ。感興に満ち、しかも迫力ある演奏になっている。完璧な技術を持ったバイエルン放送響ならではの演奏だろう。

 

1999年2月11日、An die MusikクラシックCD試聴記