ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団来日公演2008
2008年11月15日(土) 16:00 京都コンサートホール 大ホール
文:青木さん
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
指揮:マリス・ヤンソンス■ 演目
ドヴォルザーク:交響曲第8番
メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」
ラヴェル:ラ・ヴァルス
アンコール〜J.シュトラウスU:ポルカ「ハンガリー万歳」■ はじめに
毎回のことなんですけど、これはコンサートの評論やレポートの類ではなく、あくまで個人的な印象を綴った感想文に過ぎません。旅行記みたいなもんです。ですのでまず京都に向かうところから始めてもいいほどですが、そういえばヤンソンス時代になってからのコンセルトヘボウはすべて大阪ではなくこの京都コンサートホール、しかも今回は大阪通過どころか名古屋から西はこの京都公演だけしかないという日程です。よってオール西日本のファンがやむなく秋の京都に大集結!
だったかどうかはわかりませんけど、少なくともワタシの後ろの席にいた人たちの会話は広島弁でしたね。大阪から行くのなどむしろ近いほうですし、ついでに観光もできるということで、京都御所に行きました。御苑は何度も来てますがロイヤル・パレスに入るのは初めて。秋の一般公開時期にあわせて京都に来るとはさすがロイヤル・コンセルトヘボウ、こちらも「諸大夫の間」だの「御学問所」だの「蹴鞠の庭」だのを見学してすっかりロイヤルな気分が盛り上がり、もはや準備万端整いましてございます。
■ 前半
などとわけのわからぬことを考えつつ御所を発ち北山に向かいますが、しかし今日のプログラムもわけのわからないもの。この組み合わせなら一曲目が序曲代わりの「ラ・ヴァルス」で次が「イタリア」、休憩をはさんで後半が「ドヴォ8」というのが妥当な曲順では? それが完全に逆になってます。実際、ドヴォ8のあとの熱狂的な拍手とブラボーの嵐は、あたかもメイン・プロが終わったときのようでした。それほどすばらしい演奏だったわけですが。
ワタシの席はチェロ・セクションに近かったので、冒頭いきなり電撃的な感動が押し寄せます。たっぷりした量感がありふくよかな弦楽のハーモニーと美メロが、このところメシアンとかバルトークばかり聴かされて乾ききった耳にしみじみと染み渡っていくようです。コンサートの印象というのは、その日の体調や席の位置だけでなく、こういうことも影響するんですね。
ヤンソンスの音楽づくりは表情豊かといいますか、前回の「新世界」と同様に演出臭が随所に目立ち、正直いって好きなタイプの演奏ではなかったんですけど、一期一会の演奏会ではこれくらいのほうが印象深くなるものかもしれません。あいかわらずたまらん魅力の合奏美とあいまって、かなり満足できたドヴォ8でありました。
■ 後半
さて問題は後半。メンデルスゾーンは「スコットランド」や「フィンガル」をこよなく愛するワタシですが、この「イタリア」は全楽章ちっとも好きではなく、出来のよくない作品だとさえ思っているほど。しかし実演に接することでそういう楽曲をたちまち気に入ってしまうという経験が何度もあったので、今回もそれを期待したんですけど、ダメでした。前半から編成が変わったせいか管弦楽の美音も急に減退してしまい、ひたすら退屈な30分を一部ウトウトしながら過ごす始末。個人的な好みはべつにしても、どうもこのコンビには不向きな楽曲のようで、キビキビした躍動感に乏しいユルんだ演奏だったと思いましたが・・・。いずれにしても今日のコンサートは「天国と地獄」か・・・。
しかし。「こんな曲が大トリ?」と思われたラ・ヴァルスに、超弩級のとんでもない大感動を覚えたのです! 数十秒ごとにあちこちで小爆発を起こすがごとき雄弁きわまる表現力を発揮するオーケストラを、ダイナミックなアクションで緩急自在にドライヴするヤンソンス。この曲の不健康でグロテスクな側面をこれでもかと抉り出していきます。というより、こういう音楽であったのかという驚きの連続。いやこれはもはやデフォルメの世界に入っていたと思われますが、大爆発の圧倒的なエンディングに至るまで、もう金縛りにあったかのような十数分間でした。最高。
■ おわりに
この幕切れに大満足だったので余計なアンコール曲は不要なほどでしたが、演奏者としては前半終了時に劣らぬほどの拍手に応えないわけにはいかなかったでしょうから、これは仕方ありません。一曲だけで済んで幸いでした。
さてこうなると、実は「イタリア」もよい演奏だったのでは? との疑いを覚えずにはいられません。つまらぬ凡曲だという先入観が目(耳?)を曇らせたのでしょうか。もっと傾聴すべきだったと反省しながらも、この曲の代わりに大好きな「ティル・オイレンシュピーゲル」が組まれていた横浜公演の観客をひたすら羨みつつ、大阪への帰途につきました。さて明日は名古屋に遠征です。それより横浜にも行くべきだったか?
(2008年11月23日、An die MusikクラシックCD試聴記)