リムスキー=コルサコフ
交響組曲「シェエラザード」作品35
バイオリン:ヘルマン・クレバース
録音:1979年6月27,28日、コンセルトヘボウ
ボロディン
交響曲第2番ロ短調
録音:1980年6月6日、コンセルトヘボウ
コンドラシン指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管
PHILIPS(輸入盤 464 735-2)
PHILIPSは2001年に創立50周年記念盤として過去の名演奏・名録音をピックアップし、新たにリマスタリングを加えた上で廉価にて多数のCDを発売した。この「シェエラザード」とボロディンの交響曲第2番というロシアものの組み合わせもその一つである。「シェエラザード」はかねてから名盤・名録音の評価が高く、何度も再発が繰り返されてきたもの。私もすばらしい録音だと思う。ただし、もしかしたら青木さんによるレビューがあるかもしれないので、あえてここでは取りあげない。
今回取りあげるのは、いかにもCDの余白を埋めるためにカップリングされたように見えるボロディンの方である。これはすごい演奏だ。もし「シェエラザード」に興味がない人でも、このボロディンを聴くためにこのCDを買っても損はしないと思う。ボロディンの交響曲第2番の入門にもお薦めだし、あるいはこの曲に聴き馴染んで「まあ、こんな感じの曲か」と知っている人が聴いても大満足するだろう。このボロディンはブラームスの交響曲第1番では異常とも言える天の邪鬼ぶりを見せたコンドラシンが、祖国を離れたオランダで全くの正攻法で祖国の音楽に立ち向かい、熱血大演奏をした一世一代のライブである(少し大げさかな?)。
ボロディンの交響曲第2番はとても分かりやすい。作曲は1876年、全曲を通しても30分に満たない。旋律はとてもロマンチックで強奏時の響きは豪放。金管楽器が重層的に響いて大きく旋律を奏でる部分はまさにロシア的。そういう曲だとどんな指揮者、どんなオケで聴いても同じように聞こえそうだがそんなことはない。私が比較試聴した限りでは意外と演奏にはセンスが要るようである。
まず、オケの力量ははっきりと出る。ボロディンのオーケストレーションはもともと優れていたのか、あるいはリムスキー=コルサコフらが手を入れたせいなのか、さらには指揮者が金管楽器を追加したりするからなのか、きわめて色彩感が強い。それを演奏する際、音のクリアさやバランスの良さがかなり要求されるようだ。ただ単に旋律を歌わせただけではつまらない演奏になったりする。第1楽章や第3楽章はそれが最も顕著に現れると思う。特に第3楽章は旋律が夢見る世界を描いているので、高度なアンサンブルを持つオケでないと音楽が生きてこなかったりする。特にホルンのソロはチャイコフスキーの交響曲第5番第2楽章よりも遙かに目立つかもしれない。聴き手の期待も高まってしまう。
コンドラシンが有利なのは、コンセルトヘボウ管という高機能オケを使えたことだろう。このオケは、クレバース以外にスタープレーヤーがいないと言ってもよいのだが、オケとしての総合力は極めて高い。第1楽章を聴いていると、オケ全体で少しずつ響きを確かめながら前進しているような感じを受ける。第3楽章はつぶやくように歌い始めるホルンソロが聴ける。これは感動もの。もちろん、強奏時にもオケは暴力的にならず、常にクリアな響きを聴かせる。大きく盛り上がる第3楽章はこの演奏の白眉で、コンセルトヘボウ管の実力が最も発揮されていると思う。オケと指揮者の幸せな音楽作りの瞬間を堪能できるだろう。
これがライブで、しかも数日間にわたるライブをつなぎ合わせたのではなく、ある一日のコンサートの模様をそのまま収録したものらしいことは、私の驚きを倍増させるのに十分である。このような超絶的な演奏がアムステルダムでは日々行われているのだろうか? また、ライブでありながら、よくある一発ライブではなく、何度聴き返しても聞き飽きしない。コンドラシンが奇妙なデフォルメを行わなかったからかもしれない。このようなCDが輸入盤では1,200円もしないというのも、これまた驚きでもある。 |