マーラー
交響曲第4番 ト長調
ショルティ指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管
ソプラノ:シルヴィア・スタールマン
録音:1961年2月20-21日、コンセルトヘボウ
DECCA(輸入盤 417 745-2)
ショルティは大変この録音に執着があったらしい。シカゴ響との新録音(1983年、DECCA)が出てからはこの録音が省みられることは少なくなったと思うが、私は聴き返す度にショルティが愛着を示した理由が分かる。この録音にはショルティらしさや、DECCAらしさがもろに出ているように感じられるからだ。
私にとって、マーラーの交響曲第4番は、最も天国を感じさせる音楽である。あの第1楽章が流れてくるととても幸せな気持になる。もしかしたらそうした聴き方は、英語の本来的な意味における「naive」なものと揶揄されるかもしれないが、少なくとも私は常日頃そう感じている。が、ショルティの演奏はやや鋭角的でゴツゴツし、しかも鋭すぎる嫌いがある。良くいえばシンフォニックだから聴き応えがあり、楽しい。ただ、私の描く演奏とはすこしく異なるので、あまり好きになれない。初めてこの録音を手にしたときから私は違和感を感じていた。
しかし、これがショルティ執着の録音だとすれば、ショルティにとっては理想を実現した演奏であったのかもしれない。ショルティの演奏で聴くと、たとえ第4番といえど、打楽器群を含めた大きな編成に応じた大曲になるのかもしれない。また、ショルティはほとんど感傷的にならずにこの曲を演奏することができたのだろう。カラッとした演奏がそれを物語っている。コンセルトヘボウ管はそのショルティの棒に正確に応えたのに違いない。
ところで、このDECCA録音には私も感心する。録音エンジニアにはケネス・ウィルキンソンの名前が掲載されているが、おそらくは典型的なDECCA録音だ。妙に楽器の音が別個に聞こえたりする。最も顕著なのはホルンセクションだ。左手の方からバンバン聞こえてくる。それも突出気味で、ちょっとおかしい。この曲の演奏で、こんなにホルンセクションが全面に出てくるのはあまり例がないのではないか。見事な音色なのだが、こうしたバランス感覚は好悪がはっきり分かれるだろう。
しかし、それだからこそ、PHILIPS録音とは違った意味で「音」を聴く楽しみがある。というより、この録音は音だけでも楽しめるようにできている。コンセルトヘボウ管の各楽器の音がその楽器の発表会のように披露されていく。こうした音作りはPHILIPSはしない。が、どちらの録音が優れているか、好みの問題なので何とも言えない。私は両方好きだが、DECCAの録音は小音量で聴いても難なく楽しめる点を考慮すると、一般家庭向けにはDECCA録音は極めて有利なのかもしれない。PHILIPS録音では微弱音を普通の家庭環境で聴き取るのが難しかったりする。録音とは実演の再現ではなく、虚構なのであると最初から理解してしまえば、この録音を楽しめるというものだろう。
なお、ホルンセクションが突出気味と書いたが、ショルティだってそんなことはすぐに分かったはずだ。それを含めて、ショルティはこの録音に執着があったのだ。すべてがショルティの思いに叶っていたのではなかろうか。聴き手の好き嫌いにかかわらず、指揮者の主張・嗜好を聞き取るのに、これ以上の材料はないと私は考えている。 |