シュターツカペレ・ドレスデンによる
ブラームス交響曲第1番の録音
■ ザンデルリンク盤
指揮者:ザンデルリンク
DENON(国内盤 COCO-70490)
録音:1971年11月3-6日
録音場所:ドレスデン、ルカ教会
録音エンジニア: クラウス・シュトリューベン、ゲラルト・ユンゲDENONのCRESTシリーズでわずか1,000円で入手できるシュターツカペレ・ドレスデンの代表的な名盤。どっしりと重量感があり、迫力ある音楽の流れが聴けるCDである。何度も再発が繰り返されているが、CRESTシリーズの音質は悪くはない。木質感までも感じさせる弦楽器、若きペーター・ダムに率いられた強力なホルンセクション(好き嫌いはあるだろうが)。明瞭に分離する各楽器の響き。それらが克明にとらえられている。ザンデルリンクは当時から既に老成していたようで、遅いテンポで堂々の演奏を繰り広げている。久々に聴き返してみて、やはり優れた演奏であると再認識をした。
ザンデルリンクは1990年になってベルリン響とCapriccioにブラームスの交響曲全集を最録音した。そのためにザンデルリンクのブラームスといえばベルリン響盤を指すようになったが、もう少しシュターツカペレ・ドレスデン盤も脚光を浴びてもよさそうな気がする。
しかし、かくいう私もごく最近までこの録音を無条件で受け入れてきたわけではないのだ。
なぜか。この録音で聴かれる音は、シュターツカペレ・ドレスデンのまろやかさをまるで伝えていないと思っていたからだ。もしシュターツカペレ・ドレスデンがこの時期にもあのまろやかなサウンドを聴かせていたとしたら、その可能性は極めて高いはずだが、それをこの録音に求めることができない。やや枯れた味わいが前面に押し出されることによって作られるイメージの弊害の方が大きいのではないかとずっと思っていた。
しかし、考えようによっては、「まろやかさ」以外はこの録音に収録されていると言えるのである。いろいろな録音を聴いてきて、録音は現実の音の一部分しか収録できないということをよくよく知るにつけ、ザンデルリンク盤は実のところかなり健闘していたのだという認識にやっと至った。かつて私はザンデルリンク指揮の交響曲第4番を取り上げた際に極めて厳しく批判したのだが、ここで軌道修正することにしたい。
なお、国内盤の録音データは昔から間違っているようだ。1971年3,6,11月ではなく、1971年11月3-6日が正しいと私は思っている。
BMG(輸入盤 69220-2-RV)
DENONから発売されている国内盤はEurodiscの原盤を使って ライセンス生産されたものだ。Eurodisc盤は、BMGから全集として発売されている。ただし、輸入盤である。
もしかしたら気のせいなのかもしれないが、私は何度聴き比べをしても輸入盤の方が国内盤よりクリアな音質に聞こえる。DENONの国内盤はEurodiscの原盤にまで遡ってリマスタリングされたものらしいので、大きな違いがあるわけはないと思うのだが、本当はどうなのだろう。
■ ザンデルリンク ライブ盤
指揮者:ザンデルリンク
TDK(国内盤 TDK-OC007)
録音:1973年10月18日
録音場所:東京、厚生年金会館
録音エンジニア: 松田賢一
アンコールで演奏されたウェーバーの「オベロン」序曲を併録2002年になって、シュターツカペレ・ドレスデン初来日時の公演が3枚ばら売りのCDになって登場した。元になったのはエフエム東京が放送用に収録した音源であった。
10月18日のプログラムはワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、ベートーヴェンの交響曲第8番、ブラームスの交響曲第1番、アンコールにウェーバーの「オベロン」序曲であった。3枚のCDの中にはこれらすべてが収録されている。
この録音では、上記スタジオ録音盤では得られなかったまろやかさがある程度聴かれる。大筋で同じ演奏なのだが、ライブ録音独特の臨場感や最終楽章での高揚感を味わいたい人にお勧めできる。
なお、同時に発売された3枚のCDの中には「オベロン」序曲が2種類収録されている。10月18日に厚生年金会館でアンコールとして演奏された「オベロン」序曲と10月31日に東京文化会館で演奏された「オベロン」序曲である。私はアンコールの演奏の方が一気呵成のノリのよさがあって気に入っているのだが、いかがだろうか?
指揮者:ハイティンク
Querstand(輸入盤 VKJK 0416)
録音:2002年9月29、30日
録音場所:ドレスデン、クルトゥーア・パラスト
録音エンジニア: 不明待望の新譜である。シュターツカペレ・ドレスデンの新録音はシノーポリの死によって完全に途絶えてしまった。シノーポリ在世中、熱烈なカペレファンはシノーポリを批判してやまなかったものだが、いざいなくなってみるとどのレーベルも新録音を企画しなくなった。名声のある指揮者をシェフに戴くことがオケにとっていかに重要なことか思い知らされる時期であった。
このまま新録音が現れないかと思いきや、2004年のシュターツカペレ・ドレスデン来日公演に合わせたかのようにこのCDが登場した。ハイティンクの主席指揮者就任コンサートのライブである。レーベルが怪しげだと思っていたが、これはシュターツカペレ・ドレスデン当局によるCDだった。驚くべきことに、CDには、ロンドン響の「LSO live」のごとく「Staatskapelle Dresden Live」との記載があり、これがシリーズ化されると公表されている。稀に見る朗報に私は猿のように喜んでしまった。
驚くべきことはまだある。演奏が絶品であるのと、録音が優れていることである。
演奏については、まず「オベロン」序曲からその洗練された演奏に我を忘れる。さらに、メインのブラームスがすごい。音楽は熱烈であり、演奏技術は最高度である。当局は、さすがに新レーベルの第1号企画だけに最高の演奏を選んできたのだ。シュターツカペレ・ドレスデンが現在極めて高い水準を維持していることをまざまざと見せつけるCDである。
次に録音について。録音に完璧というものはあり得ないだろうが、これだけ高品位の音質でシュターツカペレ・ドレスデンのライブを自宅で味わえるようになるとは夢にも思わなかった。会場となったクルトゥーア・パラストは「文化宮殿」という名称とは裏腹に、音響的には極めて貧しい会場である。ルカ教会でもゼンパー・オパーでもないのである(ゼンパー・オパーは洪水のために使用不可だった)。あの録音を行うには、マイクの設定などに最新の注意が払われたと思われる。録音エンジニアの名前は記載されていないが、NHKが関わっていたはずだ。できれば、録音情報を公開してほしいものだ。
ハイティンクの悠然たる指揮を聴くもよし、シュターツカペレ・ドレスデンのサウンドに浸るもよし。来日公演でハイティンク指揮のブラームスを聴けなかった人は、このCDを聴くことによってかなりの満足を味わうことができるだろう。
実は、2004年来日公演の直前に私はこのCDを聴いてしまった。そのようなことをすべきではなかったと反省している。
2004年5月24日、An die MusikクラシックCD試聴記