シュターツカペレ・ドレスデン来日公演2004

5月22日(金) サントリーホール
文:伊東

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■ 演目

2004年来日公演プログラム

ハイティンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン
コンサートマスター:マティアス・ヴォロング

  • ウェーベルン:「パッサカリア」作品1
  • ハイドン:交響曲第86番 ニ長調 Hob.1-86
  • ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68
  • アンコール ブラームス ハンガリア舞曲第1番ト短調
 

■ 多彩なプログラム。どれがベストだったか?

 

 来日公演最終日のプログラムは大変多彩である。作曲年代に関していえば、その広がりは120年に及ぶ。ハイドンの交響曲が1786年、ブラームスの交響曲が1876年、ウェーベルンの「パッサカリア」が1908年の成立である。

 メインプログラムは最大の規模を誇るブラームスの交響曲第1番である。が、人によって、最も楽しめた曲は違うのではないかと私は思っている。私の場合、ハイドンの交響曲に文字通り耽溺してしまい、それこそこの1曲でコンサート代金の元を取ったと感じた。ハイティンクはハイドンの交響曲86番という滅多に演奏もされず、録音もされない交響曲をわざわざ選んで来日公演のプログラムに入れた。よくぞそうしてくれたと感謝せずにはいられない。シュターツカペレ・ドレスデンの小編成オケ、とりわけ弦楽器の緻密で繊細なアンサンブルが活かされるからである。私はシュターツカペレ・ドレスデンの織りなす音をひとつひとつ味わうことができた。何という幸せな瞬間であったかと思う。こういう演奏が聴けるのであれば、シュターツカペレ・ドレスデンは来日公演の度ごとにハイドンを演奏してもらいたい。いや、できれば、ハイドンの全曲録音も進めてもらいたいものだ。

 さて、コンサートはウェーベルンの「パッサカリア」で始まった。弦楽器のピチカートが揃わないところもあったが、まとまりのよい演奏だったと思う。というのは、この曲をシュターツカペレ・ドレスデンはまるで古典派の曲のように演奏してしまったからである。あの演奏を聴いて、先鋭さを私は微塵も感じなかった。それこそカペレサウンドによって包み込まれたウェーベルンだ。それはそれで驚異的だと思う。逆に言えば、そうした演奏を好まない人にとっては物足りない演奏であったろう。

 プログラムの前半はウェーベルンとハイドンだった。この2曲が同時に演奏され、その間に違和感がない。何ともユニークなことだ。

 さて、後半はブラームスの交響曲第1番である。悠然と構えた演奏だった。冒頭の音を聴いた瞬間、私はザンデルリンク時代の録音を思い出した。どうやらカペレサウンドは脈々と受け継がれているらしい。さらに低弦がグワングワンうなっているところなど、聴いていて目を開かれる思いがした。木管楽器も好調だったし、技術的に高い水準の演奏だった。終演後、ブラボーが飛び交ったの無理はない。サウンド的には十分満足のいく演奏だった。

 しかし、音楽の流れは、良くも悪くも「ハイティンクらしい」といえる。この指揮者は、あざとさがまるでない。それはこの指揮者の美質であることは重々承知している。よく言えば曲に曲を語らせる自然な指揮をするが、悪くいえば、やや退屈な場合がある。実をいうと私は、あのような演奏をするのではないかと想像していたのだが、ほぼそのとおりだった。カペレサウンドでブラームスを楽しめたことは極めて大きな意味があり、それだけでもコンサートの価値がある。が・・・・。もっとも、こうした感想が出るのは、このコンサートに対する期待が並はずれて大きいことに加えて、現代に生きる我々があまりにも大量の録音に慣れてしまったからだ。もし録音などというものがなければ、ブラームスの最も均整が取れた格調高い演奏として語り継がれることだろう。

 なお、アンコールにはブラームスの「ハンガリア舞曲第1番」が演奏された。冒頭の弦楽器を聴いた方はどう思ったであろうか? ふわりふわりと宙に舞うあの響き。わずか3分の曲だが、あのアンコール曲を当日のベストに挙げる人がいてもおかしくはない。

 

(2004年5月23日、An die MusikクラシックCD試聴記)