私のカペレ
第2回 「あBrahmsi」さん

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 1978年、ブロムシュテット初来日の東京公演、録音で聴いていたカペレの魅力には程遠い、という印象が残りました。ウェーバー<オベロン序曲>、R.シュトラウス<ホルン協奏曲1番>、ブラームス<2番> 東京文化会館。しかし、それ以後も名録音は次々と出てくるし、TVでもカペレの勇姿?を見せつけられると、「確かめねばなるめぇ」(寝そべって、リラックスして聴ける、我が家のレコードコンサートが最高、という偏屈主義なのです)。1989年4月?日 重い腰を上げ、向かったのが、 我らがシェフ、若杉の凱旋公演。柿落としから2年以上経ったサントリーホール、カペレは初登場のはず、当方もホール初体験でした。今回も凡演かも、という不安、と同時に、「シェフの凱旋公演」は国連会議のオープニングコンサートと同じくらい、トクベツな意味があるから、真剣に演ってくれるぞ、という期待もありました。プログラムはモーツアルト<29番>、マーラー<4番>。 (若杉は当時、すでに同ホールで都響とマーラーチクルスを始めていました。)モーツァルト、出だしから、弦の弱音の緊張感が伝わってきました。すぐ不安は吹き飛びました。彼ら真剣だぞ、と同時に面食らったのは、その明るく、色彩があり、ほわッとした響きです。しかし、芯がある。このホールの特色でしょうか。 これまで抱いていた、カペレの響きのイメージは、茶系統、焦げ茶から赤茶の間で変化する音色でした、それがオレンジ色や茜色と言ってもいい音色です。 東京文化会館の響きは何だったのでしょうか。 若杉の指揮は簡潔、明快。背筋のピンと伸びた姿勢と、無駄の無い腕の動きと指示は、バレーとは異なった、「指揮」という身体芸術を見るかのようでした。その芸風は、終始冷静、透視の眼力と腑分けのテクニックを持った職人。曖昧なところが無い、厳しいモーツアルト像が、カペレの暖色の響きで、ほどよい肉付けがされたという印象でした。そのスマートなモーツアルトはアッという間、5分間で終わってしまったかのような感覚で、「ついに聴いてしまった」という興奮から、体がポカポカしたのを憶えています。ピアニッシモ・オーケストラ、アンサンブル・オーケストラという異名について。弦のピアニッシモは、楽々と、自然に湧き出るのではなく、(あたりまえか・・鍛錬の賜物さ!)ピーンと張りつめた、緊張感を孕んだピアニッシモでした。木管の音色が、弦の響きの中を通り越して、綺麗に耳に届くのはなぜでしょう。録音を聴いているようでした。これが一流オケの秘術?

 マーラーは若杉の十八番です。4番はマーラーの交響曲の中では、楽器編成は大きくない方ですが、眺めるだけでも壮観でした。 演奏の方は、鋭い切れ込みを入れても、キツイ音は皆無。色彩もありました。カペレは暖かい厚みのある響きで返答していたようです。このあたりは、西独の放送交響楽団との違いでしょうか。第2楽章のVnの持ち替えを、実際に見るのは初めてでした。面白かったです。第3楽章、アンサンブル・オケと言われていても、後半のクライマックスでは、サントリーホール全体が「ズキーン」と拡張した、と思われるほどの、音量を披露。これにはビックリ。ピアニッシモが綺麗な分だけ、ダイナミックレンジが広く感ぜられたのでしょうか。終楽章、エディト・マティスのソプラノ。すっかりオバサンになっていました。可憐さは失われても、硬質で、充実した声量による、自信に満ちた表現は、オケの響きとも相まって、忘れられないシーンとして、焼き付いています。 カペレのマーラーを聴けたことは、本当に幸運だったと思います。(歌詞の内容の皮肉っぽさと、音楽の美しさが、乖離しているのが、納得できないのですが、これこそが、マーラーなのでしょうか)。

 そして、アンコールです。このコンサートで一番ショッキングな演奏でした。あまりにチャーミングで、楽しくて、嬉しい演奏だった、という意味で。未だに、曲名がわからないのです。何度か耳にしたことがある、有名な短い曲ですが・・モーツァルトだと思うのですが。弦楽器奏者が途中で、手に持った鈴を鳴らしての演奏。大曲演奏の大仕事を終えて、充実感、開放感からか、何と自然で、活き活きしたアンコールだったことか。聴衆は皆、微笑みながら、聴いていたことでしょう。ザンデルリンク時代には、考えられないような、サービス精神?。(7ヶ月後、ベルリンの壁は崩壊します)。最後は、マイスタージンガーで締め。

 すっかり満足した結果、以後の来日には、無関心になってしまいました。コリン・ディヴィスの指揮では、カペレは一番暖かい音を出す、という評論を最近目にして、行けばよかったかなと、少し後悔しています。聴かれた方のレポートをお待ちしています。

 

2000年7月19日、An die MusikクラシックCD試聴記